聴静保通
トントントンとリズムよくまな板で何かを切っている音がする。
絢愛「今?」
龍門「違うよ!ほら!ピチって言った!今!」
絢愛「分かんないなぁ…。」
龍門「なんで?全然音違うじゃん。」
二轅「なんで包丁逆で使ってるの?」
樂「…切りずらいって思ったら、そういうことか。」
二轅「料理あんまりしないの?」
樂「だいたい食べる専門だ。たまにネギは切るけど包丁の向きは勘だな。」
二轅「危なくない?指切らないの?」
樂「切ったことはない。」
二轅「すげぇな…。」
みんながなにか料理しているらしい。
僕は扉を開けて台所に入った。
絢愛「あ!虎雅来たー!みんなで聴静保通の特訓してるんだ!」
虎雅「ここで?」
絢愛「そうそう!一番短な聞き分ける練習は料理するときなんだって!」
二轅「龍門は俺ら兄弟の中でも一番耳がいいんだ。だから料理がうまい。」
虎雅「音で料理をしてるんだ。すごいな!」
龍門「すごいだろ!あんたはそこの野菜炒めといて。」
柊優歌「こら!ちゃんと『虎雅さん』って名前で呼びなさい。」
龍門が唇を尖らせる。
龍門「『虎雅さん』早く野菜炒めて。」
虎雅「はーい。」
僕は手を洗ってフライパンを柊優歌さんから受け取って、油が温まるのを待つ。
龍門「野菜炒めは野菜が火が通っていない時と、通った時の音が違うからよーく耳凝らして聞いてみて。」
虎雅「わかった!」
火が通りにくい根菜類から入れていく。
普段家で料理をしているときは、音なんかに注目していなかったからなんだか野菜炒めを作ってるだけでも新鮮な気持ちだ。
龍門「だんだん音が低くなってきたのわかる?」
虎雅「…?分かんない。」
龍門「どいつも使えないな。ま、ほかの野菜も入れて音が変わるの感じてよ。」
虎雅「わかった。」
僕はきのこを入れたり、キャベツを入れて、火が通る音を聞く。
始めの音は…、油が高く弾ける音。
今は水分が多くなってふつふつとしてる感じ…だろうか。
龍門の言う通り、音が低くなってる?のか?
絢愛「今!?」
龍門「そう!今!」
絢愛さんが野菜の天ぷらを菜箸であげる。
絢愛「やった!出来た出来た!」
龍門「絢愛はやっぱり耳がいいな。感覚取り戻せば、すぐにもっといろんな音がわかるようになるよ。」
絢愛「龍門先生の有難いお言葉!サンキューです!」
絢愛さんは大喜びだ。
樂は…、大丈夫だろうか?
二轅「この野菜はなんでしょう?」
樂「ネギ。」
二轅「違う。玉ねぎ。」
二轅「これは?」
樂「ネギ以外の何か。」
二轅「それ答えになってないし。ネギしか野菜のレパートリーないのかよ。」
樂は仁王立ちをして腕を組み、目をつぶっている。
二轅が野菜を切って、その野菜の切った音をクイズにしいるらしい。
ガチで食べる専門じゃん。
柊優歌「どう?分かるようになった?」
柊優歌さんが大皿を持って隣にやってくる。
虎雅「なんとなくですが、龍門が言ってたことは分かりました!」
柊優歌「よかったわ。この料理でみんな聴静保通を学ぶの。豪は教えるの下手っぴなの。ごめんなさいね。」
虎雅「いえ!やり方は教えてもらったので、後は自分が習得出来るようにするだけです。」
柊優歌「ふふ。いい子ね。虎雅くん達みたいな素直な子が多かったら世界はまた変わっていたのかもね。」
柊優歌さんは大皿をスチーマーで温める。
虎雅「みんな同じ性格だったら、きっとつまらないですよ。」
柊優歌「それもそうね。あの5人も見た目はそっくりだけど中身は一人一人違うから本当に人って面白いわ。」
虎雅「そうですね。」
柊優歌さんが温めた大皿に、僕は出来立ての野菜炒めを入れてフライパンを流しにいれる。
柊優歌「そこにつけておいて。洗い物はご飯を食べた後にしましょ。」
虎雅「はい!」
柊優歌さんに取り皿を持っていくように頼まれて大きいお盆に何十皿も乗っているものを持っていく。
柊優歌さんが案内してくれた大広間には、正、誠、博が団員さんの分も皿を並べたりしていた。
正「わ!やさいいため!キャベツはいってる?」
虎雅「入ってるよー!」
「「「やったー!」」」
3人が食事の準備をしながら喜んでいる。
柊優歌「この子たち、野菜炒めのキャベツの芯が特に好きなのよ。」
微笑みながら、3人を温かく見つめる柊優歌さん。
その伏せ目がちな表情がとても美しくて少しドキっとしてしまった。
豪さん、ごめんなさい。
僕たちはそのまま食事の準備をしてると、
台所にいた4人が大量の料理を持ってくる。
絢愛「あぁよだれ出るぅ…。」
龍門「さっさと準備して食べよー。」
樂「俺の席の前に薬味置いとけよ。」
二轅「あんた分は別に作っといたよ。」
樂「…気が利くな。」
二轅「絶対いつも分じゃ足りないもん。」
会話しながらでも、テキパキとみんなで準備しているとパラパラと団員さんが来た。
柊優歌「みんなお疲れ様。今日は野菜炒めと天ぷら、じゃがいものお味噌汁に炊き込みご飯よ。温かいうちに食べてね。」
「「はい!ありがとうございます!」」
団員さんたちが気持ちよく挨拶をして、席に着く。
僕たちも席に着く頃、豪さんがやってきた。
細長く一本に繋がってるテーブルの誕生日席に豪さんは座る。
みんなで、手を合わせて合掌をする。
豪「善人向上、いただきす。」
「「「善人向上、いただきます!」」」
団員さんが口を揃えてそれを言った。
虎雅「…?善人向上、いただきます。」
僕はそれを言って食べ始めた。
初めてそんな風に挨拶をするなぁっと思っていたら豪さんが僕に話しかけてきた。




