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僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
道府県参り
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てっぺん

3人で屋敷に戻るとすでに豪さん一家は揃っていた。


絢愛「お待たせしました!」


豪「遅い。さっさと中に入れ。」


絢愛「ごめんなさい!」


柊優歌「そんなに待ってないわよ。」


優しく微笑む柊優歌さん。


僕はそのほのぼのとした空間が、目の前で起こっていることなのにすごく遠く感じた。


絢愛「虎雅さっきから元気ないけど大丈夫?」


虎雅「え、あ、はい!大丈夫です。」


絢愛「…そう?なら良かった!」


絢愛さんはいつも元気に笑っているが、この恐怖といつも戦っているのか?

忘れたことにも気づけない恐怖を凶妖と戦っている時に感じているんだろうか?


豪「…柊優歌たちは着替えて飯を作れ。幸田と梵唄は荷物を寝室に持って飯の手伝いをしろ。佐伽羅は残れ。」


「「「はい!」」」


みんな一斉に動き出す。

絢愛さんと樂が僕の荷物を一緒に持ってってくれる。


豪「行くぞ。」


豪さんはどんどんと屋敷の奥へと行き、あの高い塔のってっぺんまで連れて来られる。

連れて来られる間、僕も豪さんも一切会話はなかった。


西日が水平線照らしながら沈んでいくのが見える。

とても眺めがいい。


豪「なぜ、悩む。」


虎雅「え?」


なんの脈絡のない言葉でなんのことだか分からなかった。


豪「何故、自分が持つ力を発揮させないんだ?」


虎雅「…忘れてしまうのが怖くて。」


豪「人は忘れるから生きていける。全て覚えていたら脳が追いつかないからな。」


虎雅「でも、知らないうちに大切な人と過ごした思い出が消えるのは嫌なんです。みんなのこと、仲間のこと覚えていたいです。」


豪「数十年経ったらこの世界から俺たちは無くなる。しかし俺が残した子どもは残る。そのために一番の力を発揮しこの生活を守る。今を未来に繋げたいと働くのなら失う覚悟をしろ。それが記憶であっても、体の一部であってもだ。そのために俺たちはここにいるんだ。」


虎雅「家族との思い出も、友達との思い出も忘れないとダメですか?」


豪「幸田絢愛はそうしている。幸田は幸田なりに今を未来に繋げている。

しかしお前はどうだ?なぜ過去を掴む?」


虎雅「…みんなと過ごした時間を0にしたくないです。」


絢愛さんに対して、みんなが気を使う表情や言葉が僕には痛いほど刺さっていた。

でもそれが僕に向けられた時、僕は耐えられるのだろうか。


豪「忘れたとしても、0にはならない。だから歴史が繋がれているんだろう。俺たちの人生も歴史の一部であって起こったことは無くならない。」


豪さんは僕の目を見て、目線を離さない。


豪「俺たち人間は、この土地を手に入れるために環境を犠牲にしてきた。だからこの国は発展して人間には住みやすく、他の動物には住みにくい環境になった。どんな事柄にも何かを得る時には、何かを失うことになっている。俺たちがこうやって話している時間も、俺は家族との時間、佐伽羅はあの2人との時間を失っている。

けれど、この話し合いは佐伽羅にとって必要だと思ったから話している。

この話し合いを無駄な時間か有益な時間かどう受け取るのかはお前の勝手だ。

けれど、得られるのが失うものより価値があると思えるなら得る方に行動しろ。」


どんなことも、得る時は失うか。

そんなことどっかの本で見たことはあったのに自分自身で気付けなかった自分が情けない。


豪「俺は人に期待しないが、大切ではないと言っていない。今ここにいる人たちは仲間だ。大切だからこそ俺が全身全霊をかけて守り抜く、それだけだ。それで腕がなくなろうと腹を噛まれようと、仲間との記憶がなくなっても、守り抜いたら俺はそれでいいと思えるからそうしている。」


虎雅「でも、1人で出来ないことはたくさんあります。」


豪「期待は心の錘だ。多くなるほど人に負担になる。錘を与えたとしても期待と自分の技術との釣り合いが取れないと心は揺らぎ、傾いたままになってしまう。ならば、その錘なんてものはいらない。そいつ自身がどれだけ強い精神でこの世界を変えたいか、自分自身との心の釣り合いが着実に取れたものこそ努力は実り、成果になる。

だから1人の強さが皆の力になり、またその精神を皆が受け継ぐ。

誰だってやろうと思えば出来るが、釣り合いを取るためには微調整が必要だ。天才でなければ、ポンポン出来るようになるわけないだろう。

その調整を面倒と思うか必要と思うかは人の勝手だ。だから俺は人に期待しない。」


人に期待しないの意味を教えてくれる豪さん。

その一言にこれだけの意味が込められているなんて分からなかった。


豪「佐伽羅は佐伽羅なりのやり方がある。しかし、本気を出さないといけない時に出し惜しみをすると瞬く合間に命は消えていく。

佐伽羅の芯をもっと確実なものにすれば、出し惜しみなんて考えることもなく力を使おうと思えるはず。

大切なものを守りたいなら、自分を犠牲にして生きるしかないんだ。」


虎雅「…はい。さっきはすみませんでした。」


豪「謝っても時は戻らない。謝る時間があるならもっと自分の芯を固める努力をしろ。そして今を未来に繋げるんだ。」


虎雅「はい!」


豪さんはそう言って1人塔を降りていった。


僕の芯か…。

今は、豪さんが話してくれたことで頭がいっぱいだけど、これからしっかり固めていこう。


自分で過去に囚われるなって思っていたのに、

無意識で…囚われていたんだな。

みんなどこかで過去には囚われているんだろうけど、どこかで手放すタイミングが来る。

僕は今その時が来たのかもしれない。


家に帰ったら絢愛さんのようにノートを作ろう。


力の出し惜しみをしないようにするために、

今と未来を繋ぐための努力を自分自身でしていこう。

僕は日の沈みきった水平線を見ながら心に決めた。


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