伝えたいこと
朝、肩を揺すられて起きると、僕の隣に燐香さんがいた。
虎雅「え…」
声を発しようとしたが、燐香さんに手で抑えられて静かにと人差し指を燐香さんが口元で立てる。
僕は声を抑えて、燐香さんに連れられるまま屋根上に登った。
虎雅「おはようございます。今日…」
燐香「お前は鈍感だ。」
虎雅「え…はい。」
急にどうした?
燐香「そんなお前に私は託したいと思う。」
と言って、手を差し出される。
僕はそれを手に取る。
イヤーカフだ。
金色と少しの緑で見事なアイビーの葉とつるを表現してる。
おじさんおばさん家にアイビーのつるがあったことを思い出す。
燐香「嵐と喧嘩したまま返せてないんだ。あげると言われてもらった物だけれど…、もうつけられないから。」
虎雅「燐香さんが嵐さんと会って返せばいいじゃないですか。仲直りしましょうよ!」
燐香「嵐は鼻が利くがお前みたいに目は良くないんだよ。だから虎雅に任せたい。」
虎雅「えー…?」
2人で会って仲直りした方がいいと思うんだけどな。
虎雅「分かりました。これは僕が返しますが、ちゃんと嵐さんに会って仲直りしてくださいよ?」
燐香「…うん。わかった。努力する。」
燐香さんは笑う。
なんだか晴れやかな笑顔だ。
僕もつられて笑ってしまう。
燐香「嵐に、いつもお菓子とお茶ありがとうって言うのも伝えてくれ。」
虎雅「え!だから燐香さんが言いましょうよ!」
燐香「本当にお前は鈍感だな。少しは頭を使え。」
虎雅「いやいや…。喧嘩は本人同士でなんとかしないといけないですよ?」
燐香「まあ、それはごめん。だけどこれがきっかけで仲直り出来るかもしれないだろ?」
虎雅「うーん、まあそうですね。ちゃんと渡しますね!」
燐香「うん、よろしく。」
虎雅「あ、今日豪さんのところに行くんです。短い間でしたがお世話になりました。」
ペコっとお辞儀をする。
燐香「そうか…。豪は気難しいが根はいいやつだ。言葉は刺々しいし、見た目は厳ついが、いいやつだからあんまり嫌わないでやってな。」
虎雅「そうなんですね!分かりました。」
燐香「うん、じゃあまたどこかでな。」
虎雅「はい!また!」
燐香さんは下に帰っていた。
僕は肺いっぱいにこの屋敷の朝の匂いを入れ、部屋に戻った。
すると、2人は出る準備をしていた。
樂「おい、何してたんだ。お前の物が一番散らかってるぞ。」
虎雅「ごめんって。すぐやるー。」
僕は急いで荷物をまとめ、朝ご飯を3人で食べる。
そして、屋敷を出る前に1人で嵐さんの部屋に向かった。
虎雅「失礼します!」
襖の前で声を掛ける。
「はい!どうぞー!」
嵐さんの声が聞こえる。
部屋に入ると、嵐さんはお菓子を作っていた。
白餡に色付けしている最中だったみたいだ。
嵐「あ、もうそろそろ出る時間か!」
嵐さんは布で手を拭く。
虎雅「はい!でも先に嵐さんに渡しておきたい物があって…」
嵐「何々?ラブレター?」
ポケットに手を入れてイヤーカフを嵐さんに渡す。
嵐「…え?これどうしたの?」
虎雅「燐香さんから預かったんです。嵐さんに返して欲しいって。」
嵐「え…?燐香知ってるの?」
虎雅「はい。たまたま屋根上で出会って仲良くなったんです。今日お別れすること話そうとしたら、これを渡されたんです。燐香さん、嵐さんと仲直りしたいらしいですよ?ちゃんと2人で…」
ぼろぼろと涙を流し始める嵐さん。
虎雅「え!どうしたんですか!?」
嵐「燐香帰って来てたんだ。仲直りしたくてこれをたーくんに?」
虎雅「はい。ちゃんと2人で話し合ってくださいね。」
嵐「…うん。」
虎雅「あと、いつもお菓子とお茶ありがとうって言ってました。」
嵐「燐香が?」
虎雅「はい。仲が良いのか悪いのか分かりませんが、僕より大人なんだからちゃんと2人で仲直りしてくださいよ?」
嵐「えー…?…うん。」
なんとも言えないという表情で困惑しながら、わかったと答える嵐さん。
嵐さんはいつもつけていた鼻の上につけていた布を外す。
すごい深い傷が右から左の頬にかけてある。
鼻は少し曲がっているようだ。
とても痛々しい。これも凶妖がやったことなんだな。
すると嵐さんは髪の毛を耳に掛ける。
大一さんのように大きな福耳だった。
左耳には燐香さんから預かったものと同じイヤーカフがついていた。
お揃いだったのか。
嵐さんは右にそのイヤーカフをつけて、フゥっと一度深呼吸をして心を落ち着かせていた。
そしてまたあの布を付け直す。
ちょうどあの布でイヤーカフが見えなかったみたいだ。
嵐「ありがとう。ちゃんと仲直りするね。」
嵐さんはまつげを濡らしながら、満面の笑みをする。
虎雅「はい!今度僕がここに来たらみんなでご飯食べましょうね!」
嵐「はは…。わかった!それまでに仲直りしとくね!」
少し切なそうな顔をしたが、すぐにまた笑顔になった。
2人が仲直りできそうでよかった。
僕は一旦部屋に戻り荷物を取り、みんなが待っている玄関に向かう。
絢愛「おーい!こっちこっち!」
樂「遅い。」
虎雅「ごめん!嵐さんと話してた!」
絢愛「そうだったんだ!あ、嵐さん!」
嵐さんと大一さんが来る。
大一「3人ともよく寝れたか?」
「「「はい!。」」」
大一「それは良かった。あと…2人は曲者だが、臓方の仕事をこなしてる良いやつだ。外見だけで惑わされるなよ。」
絢愛「はい!」
虎雅「分かりました!」
嵐「嗅鋭敏通は、感覚を鋭くさせないと極められないから少しでも衰えた!と思ったらご飯抜いたり、沢山の匂いを嗅いでまた感覚を取り戻してね!」
絢愛・虎雅「はい!」
嵐「みんなとまた会える日を楽しみにしてるよ!」
嵐さんと大一さんと団員さんに別れを告げた。
その中には燐香さんはいなかった。きっと仕事中だったんだろう。
だけど、あの白あんとと緑茶の匂いがかすかに香っていた。
今度ここに来れたとき、燐香さんと嵐さんみんなでご飯を食べるのが楽しみだな。
僕たちは豪さんがいる福岡に新幹線で向かった。




