臓方
次の日、昼までに学校の手続きを終えて
4時間目まで授業を受けて早退すると先生に伝え、樂と待ち合わせしている屋上に向かう。
樂「遅い。」
虎雅「え?でも昼休み始まってすぐなんだけど。」
樂「昼って言ったら10時からだろ。お日様てっぺん登って来てるだろうが。」
虎雅「えー…ごめん。」
時間感覚が合わないな。
樂「手続き済ませたか?」
虎雅「うん、今日から早退欠席OKだって。」
樂「そうか、ちゃんと管理しとけよ。」
虎雅「はーい。でここから電車?」
樂「違う。」
虎雅「バス?」
樂「違う。」
虎雅「え!歩き?」
樂「ちげぇよ。俺の手掴んで良いって言うまで目開けんな。」
虎雅「…?わかった。」
言われた通り手を繋ぎ、目を瞑る。
その様子を見て樂は小さい声でなにか喋っている。
と言うより歌ってるのか?
うわぁ、これどう言う状況?
虎雅「ね…」
声を出した瞬間、握られたままの手で脚を殴られる。
喋るなってことか。
やることがないので樂の声に耳を済ましていると、
歌っているのは分かったけれど、歌い方がまさかのラップだった。
その衝撃で勝手に驚いていると、ふわっと体全身にそよ風が吹いたのがわかった。
樂「もういいぞ。」
樂からOKが出たので目を開くと、屋上の踊り場にいたはずなのに、全く別の場所にいた。
虎雅「へ?京都?」
と思わず声を出して聞いてしまうほど、
とても綺麗な石庭の上に僕と樂は立っていた。
樂「いや、東京。」
と言って、樂は向こうの屋敷に向かって歩き始めた。
ジャリジャリと、何のためらいもなく樂は歩いていくが大丈夫なのだろうか?
一応樂が歩いた足跡に沿って歩いていく。
玄関前近くまで歩いていくとバンっと、勢いよく扉が開いた。
「おい!何度言えばわかるんだ!せっかくの傑作が台無しじゃないか!」
と言いながら、涙ながらに怒る着物姿でストールのようなものを巻いた30代くらいの男性。口の周りに歯型の傷が残っている。
虎雅「す、すいません!」
樂「いいんだって、趣味だから。」
と言って、屋敷に入っていく樂。
バシッと、泣きっ面の30代男性に腕を掴まれる。
「新入りだね、お名前は?」
涙を拭きながらむすっとした顔で半仕掛けられた。
虎雅「佐伽羅 虎雅です。よろしくお願いします。」
「虎雅ね、よろしく。私は臓方の華宮 世永、えいちゃんって呼んね。」
あるロックスターが頭の中によぎったので、
せいさんで了承してもらった。
家に上がらせてもらい、家のこと学校のことを色々聞かれた。
とても長い廊下を進むとどこからか動物の鳴き声が聞こえてくる。
虎雅「何か動物飼ってるんですか?」
世永「うーん、保護に近いかな。妖力が無くなればまた元の住んでいた場所に返すよ。」
妖力?
虎雅「へぇ、そうなんですか。せいさんの自宅で全部保護するんですか?」
世永「ううん、他の臓方の4人と分担して面倒見てるよ。」
虎雅「そのハツガタってなんですか?」
世永「うん、あとで全部説明してあげるよ。」
と言って、襖を開けると樂が座布団を全部使って寝っ転がって携帯をいじっていた。
世永「ねえ、今日は仕事で来たんでしょ?」
樂「うん?そうだけど?」
世永「じゃあちゃんとしようよ。虎雅が見てるよ。」
樂「別にいいじゃん、お前もこっちこいよ。」
ポンポンと座布団を叩く。
その様子を見て、せいさんがむすっとしながらピッと樂の足元から座布団を2つ引き抜き、僕に1つ渡してきた。
虎雅「ありがとうございます。」
世永「うん、好きなとこ座って。」
と言って、座るせいさん。
とりあえず近場に座った。
世永「樂はどこまで虎雅に話したの?」
樂「えーと、条件と凶妖が親たちを殺したってことかな。」
携帯をいじりながら答える樂。
世永「うわぁ、よくそれで虎雅も着いてきたね。だいぶ端折られてるよ。」
虎雅「そうなんですか?でもやる気はありますよ。」
世永「じゃあいっか。今からちゃんと説明するね。」
と言い、小さい戸棚から資料とあの本を取り出して説明し始めた。