裸の付き合い
風呂は大浴場のようになっていて、
パラパラと人がいる。
僕は体を洗い、湯船につかる。
少し薄暗い浴場の天窓からは星と月が見える。
それをボーっと眺める。
「おい。大丈夫か?」
振り向くと大一さんだった。
虎雅「あれ?家に帰らないんですか?」
大一さんは僕の隣に座る。
大一「今日一旦帰ってまた戻ってきた。四国のイブを立て直さないといけないから、手を貸すことにしたんだ。」
虎雅「そうなんですか…。僕…、皆さんに迷惑かけてしまってるようで申し訳ないです。」
心任せに言った言葉が、各地に影響を及ばすなんて思ってもみなかった。
大一「嵐にも言ったが、この凶妖のことは人が生み出してしまったものなんだ。それは世永や頭の未世麗たちに聞いているだろう?」
虎雅「はい。今の人間は命を軽視して、人間の都合で殺してると教わりました。」
大一「そうか。そのことを理解してくれているなら分かるだろう?
イブを辞めていった人間は、自分都合で他の命を軽んじていることを。
だから凶妖が敵、居てはいけない存在だから殺すという考えの者が多い。
多くの人間は自分が都合がいい方に考えたいものなんだ。だから自分たちの暮らしを脅かすものは殺すんだろう。
だから山から降りて来た熊や猿、イノシシなんかニュースで射殺されたものがたまに出てくるだろう?あれが人間のどす黒いところだ。」
虎雅「…でも殺されかけたから、殺すんではないですか?」
大一「あいつらは基本食べ物を求めに山を降りてくる。それが嫌なら山に食べ物を放り込んでやればいいんだ。俺も今日投げ込みにって来た。
だからあいつらは俺の畑を荒らさない。毎日同じ時間にあげれば、言葉が分からなくても信頼関係は生まれるものだ。」
虎雅「なるほど…。」
大一「臓方の屋敷の付近はそれをやってるから山奥でも人が獣に襲われてなくて済んでいるんだ。
人間には金という通貨があるが、動物にはその概念がない。だから畑を漁るんだよ。それが嫌なら分け与えることをしないといけない。困ってる者がいれば助ける、それで初めて共存出来る世界が出来るんだ。」
虎雅「凶妖を保護するだけではなかったんですね。」
大一「そうだ。どんなに保護しようと増え続けたらこちらも手が追いつかない。
しかし、手が追いつかないからと言って殺すのは違う。俺たちが生み出してしまったんなら、凶妖たちを増やさない努力をしないといけない。
だから臓方の屋敷は、自然に近い場所に拠点を立てて自給自足がある程度出来るように整えている。
ゴミの最小限、使いまわせる物は使えなくなる限界まで使う。
今の時代、便利なものが多いが不便を楽しむ余裕がない。
自分である程度選択出来るいい暮らしが出来ているんだから、少しの不便を楽しむことで他の生き物が少し暮らしやすくなるんだったらやって損はないだろう?」
虎雅「そうですね。僕たちは今の暮らしに甘え過ぎてるのかもしれないですね。」
「お話中、失礼します。」
後ろから声をかけられ振り向く。
白い薄着を着た団員さんだ。
「しばらく湯船に浸かられていたので、良かったらお水どうぞ。」
大一「おお、ありがとう。」
虎雅「ありがとうございます!」
キンキンの氷水をもらった。
では、とそのまま他の団員さんにも渡しに行っていた。
汗がたくさん出てちょうど水を欲していたのか、
冷たい水がとても美味しく感じる。
虎雅「あの人はお風呂の当番してるんですか?」
大一「いや、自分の意思でみんなに水を渡してる。」
虎雅「…なんでですか?」
大一「他を思う心が強いんだろう。その優しさが伝染するからこの風呂場も屋敷も綺麗なんだ。
お前、どこかで掃除してるの見たことがあるか?」
たしかに屋敷をかくれんぼで歩いてる時も
朝、昼、夜どこも掃除をしている人を見ていない。
虎雅「いや、見たことないです。」
大一「全員が無意識的に屋敷を綺麗にしてるんだよ。気になった者がすぐさま片付けたり、埃をとったりしているから掃除する人間がいらないんだ。
これは嵐が教育したものだ。あいつの優しさがみんなに伝染し、思いやりの輪が広がった結果がこの屋敷の美しさを保っている。
俺の時は、当番制にしてたから驚いた。こんなことが出来るとは思わなかったからな。」
虎雅「すごい…。」
そういえばと思い、天窓をみる。
普通であれば湿気で窓に水垢が付いてしまうものだけど、とてもクリアに外の景色が見えていた。
大一「あいつの優しさは伝わる者には伝わっている。だから、今離れていった奴らもきっと気づいてくれる日が絶対来る。俺は嵐を信じているからな。
だからお前もやった後悔をするな。過去の自分は変えられないが今と未来は変えられる。
悩むなら行動をして人に見せろ。行動した者に人は着いてくる。だからとりあえず体を動かしまくれ。」
虎雅「分かりました!」
そのあと大一さんに体の鍛え方を教えてもらった。
真っ裸で少し恥ずかしかったが、今の時間を無駄にしないために、少ない時間をどう活用するかを考えながら筋トレをした。
見た目を磨くこと、向日さんが言ったこと今なら分かる気がする。
大一さんの腕枕がとても温かくて心地よかった。
この大きい背中についていきたいって思った。
僕は僕なりの心と体の磨きをかけよう。
人からも動物からも安心して背中を預けれる人間になろう。
そう僕は思った。




