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僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
道府県参り
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五感

屋根上に行くと燐香さんがお茶菓子を持って座っていた。


虎雅「お疲れ様です。」


燐香「おう、来たか。」


燐香さんはポンポンと瓦を叩き、座るように促してくる。

僕は促せれた通り、燐香さんの隣に座る。


虎雅「燐香さんは夜ご飯食べないんですか?」


燐香「この貰い物をお腹が減ってる美味しい時に先に食べたいからな。私は好きなもの先に食べたい派なんだ。」


小さいお盆に可愛い雪だるまの生菓子とお茶を膝の上で器用にバランスを取っている。


燐香「もし、お前が夜の匂いがわかるなら、この雪だるまの胴体の方をあげよう。」


虎雅「いいんですか!?あ、でも3日ご飯抜かないと…」


燐香「こんなの腹の足しにはならないから、空腹は変わらないだろう。でも甘いものは気分を安らげてくれる。嫌いじゃなかったら夜の匂いがどんなものか言ってみろ。」


虎雅「はい!」


スゥ…っと、鼻から息を吸う。


虎雅「朝と近い匂いと、燐香さんが持ってるお菓子の甘い匂いとお茶の匂い…。あとはもわっといろんな匂いが一体化してどう言葉に表せばいいか…。」


燐香「まあ、昨日なにも分からなかったお前にしては上出来だ。ほら、手出せ。」


燐香さんに言われた通りに手を出し、生菓子をもらった。


虎雅「ありがとうございます!」


普段なら一口で食べてしまう大きさのお菓子だったが、この時は3口に分けて食べた。


こんなに甘いものだったんだなぁ。

ぶわぁと味蕾が開く感じ。


燐香「ほら、茶も飲め。味がついたものをあまり飲めないんだろう?」


虎雅「いいんですか!」


燐香「ああ、でも私のことは誰にも言うなよ。」


虎雅「はい!」


飲みかけのお茶をもらう。

こんなに緑茶って甘く感じるんだな。

だからお茶とお菓子の組み合わせなんだと実感。


燐香「夜の匂いは、人がうごめいた後の匂いが舞ってるから複雑な匂いになる。朝はその匂いが落ちて消えていきあの澄んだ匂いになるんだ。」


虎雅「なるほど!そういう事だったんですね。」


燐香「だから凶妖も朝行動に移すんだ。」


虎雅「あ…」


そういえば少し前に刹牙が言ってたな。

夜に準備して朝に行動に移すって。

匂いを確実に感じるために朝行動するって事だったんだな。


燐香「人は脳や考えは発達していったが、生き物として他の核となるものをどんどん衰えさせて行っている事に気づいていない。

すごいともてはやされている人間はそれが通常なんだよ。私たちが衰えてるって発想がないんだ。

それがどれだけ恐ろしいことか分かるか?」


僕の想像力が追いつけなくて、黙ってしまった。


燐香「衰えると使わないと体が判断し、それを体の機能から無くす事がある。それは進化とも言うし、退化とも言う。

視覚、聴覚、触覚、味覚は普段よく使うが嗅覚は意識的にあまり使わないだろう?

だから現代の人たちは味の濃いものが好きなんだよ。ガツンとわかりやすい味が鼻に通るから。

でも薄味でもとても美味しいかったり、いい匂いのものがあるだろう?

この和菓子やお茶、あそこに咲いてる花もいい香りだろ。

それが感じられなくなったらどう思う?」


虎雅「…寂しいです。」


燐香「そうだな。だから今の人間はもっと五感を大事にしないといけない。

人の暮らしを良くするために発展するのも大事だが、近くにあるいいものを気づけない人間を増やすことはいけないことだ。」


燐香さんは月を見る。

僕もつられて月を見る。


虎雅「丸いですね。」


燐香「明日が満月だ。少しかけてるだろ。」


よーく見ると少しかけてるような…。


燐香「毎日のように色々なものを注意深く感じ取っていると、細かいことも分かるようになっていく。今の稽古も仕事も大事だと思うが、近くの小さな変化を読み取ることも大事だ。

日本は季節の移ろいが素晴らしい国だ。私はこの国に生まれてこれて嬉しい。

けど、人間自身この季節の移ろいを壊そうとしている。

壊していることに気づけてない人間はもう…人間ではない新しい生き物なんだろう。

しかし、この四季は永永無窮であるから素晴らしいんだよ。

この時の流れを止めてしまってはいけない。

だから、みんな手を取り合って協力し、時の流れを止めない努力をしないといけない。」


虎雅「燐香さんは凶妖より人間に対して思うことが多いんでしょうか?」


燐香「そうだな。元は人間が凶妖を生み出したからな。人間はやりすぎに気づけない愚かな生き物だよ。」


虎雅「そうですか…。」


燐香「お前は今たくさんの事を吸収しないといけない時期だ。だけど無理をしてはいけない。無理をしていいのは死に際だけだ。分かったか?」


虎雅「…はい!」


燐香「死なない程度に稽古をやって、人生の死に際で本領を発揮するくらいでちょうどいいんだよ。神様は人に乗り越えられる試練しか与えないから。まあ乗り越えられなかったら、それが自分の人生の終わり。」


虎雅「そうですか…。どんなに苦しくてもですか?」


燐香「ああ、その試練はどう行った形で乗り越えるのか分からないから人は悩み、挫ける者もいるだろう。だけどそれを見つけられるまで諦めなければなんだって乗り越えることが出来る。

自分の可能性を自分や他人で決めてはいけないんだ。お前も昨日まで夜の匂いが分からなかったのに、今は分かるようになっただろう?そう言うことだ。」


虎雅「なるほど…。わかりました!」


燐香「うん、それでいい。明日は雪が降る。冷えるからもう中に入れ。」


虎雅「え?こんな晴れてるのに?」


澄み切った星空だけどな。


燐香「ああ、雨の匂いとこの気温だ。きっと雪になるだろう。」


虎雅「…?」


僕は匂いを嗅ぐがまだ分からなかった。


燐香「明日直接雪の匂いを嗅いで、匂いを覚えるといい。ほら、早く入れ。」


虎雅「燐香さんはまだ入らないんですか?」


燐香「私はもう少し月を見てから入る。」


虎雅「…分かりました。体に触らない程度に。おやすみなさい。」


燐香「ああ、おやすみ。」


僕は一足先に部屋に戻って、飲み忘れていたスムージーをゆっくり飲み干し、風呂に入る事にした。

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