大嫌い
せいさんに連れられてきた地下室。
ムーディーな部屋にろうそくで明かりが灯っていて、真ん中にベッドがあり、かすかにクラシックが流れている。
世永「じゃあ、そこにある服に着替えて。」
浴衣が置いてあった。
言われた通り、着替える。
虎雅「着替えました。」
本を読んでいる、せいさんに声をかける。
世永「OK。じゃあその布団で、俺がここに戻るまで横になってて。お腹空いたり、トイレ行きたくなったときだけ動いていいけど、その他はずっと横になって絶対眠らないようにして。」
虎雅「わかりました。」
カバンからおにぎりと水筒を出しておく。
世永「じゃあ、カバン預かっておくね。携帯入ってる?」
虎雅「はい。」
世永「OK、もう持ち物なんもないよね?」
さっき着替えた時に全て自分の物は外したからないなと、体を触って確認する。
虎雅「はい、何もないです。時間はどのくらいですか?」
世永「教えない。時間を考えないで自分の自我を保つため何が出来るかを考えて。自我を保つ方法は人それぞれだから虎雅にあったものを見つけられたら終わるよ。今日で無理なら明日って、何日も続くけどなるべく早めに気づいてくれた方が、虎雅に武器の特訓できるから頑張って。」
虎雅「わかりました!」
世永「じゃあ、また後でね。」
と言って、僕の服とカバンを持ってせいさんは地下室から出ていった。
僕は言われた通りベッドで横になった。
ふっかふかでろうそくの揺らぎがいい感じに睡魔を呼び込む。
朝寝坊したのにまた寝そうになる。
だめだ、せいさんが言ってたこと考えなきゃ。
自分本位、自分本位、自分本位。
僕はどうやったら自我を保てるのだろうか。
自我を保つと言われてもだいぶアバウトだよな。
自分本位で自我を保つ。
自分の中の欲望…?
自分本位の欲望が本能なら、
僕は何を望むのだろう…。
静かに流れる音楽は僕の耳に入ってこなくなった。
それほど自分の考えに集中できたのだろう。
自分が世界の中心で何か一つ望むものを与えられるとしたら、何を僕は望むのだろう。
家族を返せ。
時間を戻せ。
幸せだけをくれ。
違う、違う…。何かが違うような…。
勝手に命を奪うな。
僕の人生は僕のもの。
他人には操らせない。
考えすぎなのかよくわからないが、噛まれた傷が痛む。
と、同時に怒りが湧いてくる。
眉頭にシワが寄るのがわかる。
こんな怒りは感じたことがない。
喉がぐわぐわとして叫びたくなるほど、
喉の手前で言葉が渋滞してる感じ。
僕は家族を失う瞬間を、二度も目の当たりにしてきた。
僕の弱さのせいで誰も助けることができなかった。
みんな誰のせいでもないのと言うがそうだろうか。
僕がもっと握力があれば、母さんを助けられたんじゃないか?
僕がもっと早く避難しよと言えば、父さんは車ごと流されなかったんじゃないか?
僕が二階の部屋を使っていなければ、おじさんおばさんは死ななかったんじゃないか?
目を閉じて、溢れ出そうな涙を抑える。
僕は泣いてはいけない。
4人もの大事な命を守れなかった人間だ。
僕の選択で全ての人生が決まる。
もっと鍛えていれば、早く行動していれば、甘えなければみんな生きていたのかもしれない。
僕は僕のことを嫌いになった。
だけど、僕に4人とも
「生きろ。」
と、僕に言ってくれた。
父さんが車の中に閉じ込められて流されたとき。
母さんが濁流で手が離れてしまったとき。
おじさんおばさんが僕が寝ている二階で生き埋め状態になっているとき。
自分の死が間近に迫っているときに自分の生より僕の生を想ってくれた。
だから僕はみんなのために生きる。
自分のことは大嫌いだがそんな僕に生きろと言ってくれたみんなのために。
この自分に対しての怒りが僕の自我を保ってくれる。
そう気づけた時、
とん…と、おでこに何か当たる。
僕はびっくりして目を開ける。
世永「優秀、優秀。虎雅、頑張ったね。お疲れ様。今は何も考えなくていいよ。」
そう言いながら、僕の額に人差し指と中指の二本指で触れるせいさん。
僕はその言葉の通り何も考えないことにした。
そしたら目から、涙が止まらなくなって声をあげて泣いた。
せいさんは何も言わないで、背中をさすりながら僕が泣き止むのを待った。




