責任
世永「じゃあ虎雅に合う道具、見つけに行こうか。」
せいさんは立ち上がり、下駄を履く。
僕も急いで靴を履いてついていく。
せいさんは置き手紙を縁側に置いて、家に戻った。
せいさんの家に戻ると音楽と歌声が聞こえる。この声は樂だ。
なぜ歌っているんだろう。
世永「樂は喉を噛まれてしまったんだ。だからある条件を満たすと樂の言葉は言霊となって、凶妖を封印するんだ。」
僕の顔が質問したそうに見えたのか、せいさんが答えてくれる。
虎雅「なぜ、歌なんですか?」
世永「樂は元々小さい頃から歌が好きで、聖歌隊で将来を約束されていたソプラノ歌手だったんだ。
だけど、聖歌隊で活動していたあの日とても大きい地震が起きて、教会のランプやなんやらが倒れてきて人を襲い、挙句に近くの山が地滑りを起こし、その教会を襲ったんだ。
あそこにいた大半は物と土砂で生き埋め、数人は手足を切る重症。
樂は、たまたまいた場所に物が降ったりしなかったんだけど、土砂に巻き込まれて気絶してしまったらしい。
多分そのあと、喉を噛まれてしまったんだろうね。
凶妖は魅力的と思ったものに跡をつける癖があるんだ。
だから将来有望だったあの喉が魅力的に感じたんだろうね。
あの地震以来、樂の高音は出なくなった。
家族も将来も奪われたひとりぼっちの少年が、凶妖の存在を知ったとき復讐するって思うのはしょうがないと思う。
だからあまりうるさく言わなかったんだ。だから言霊の使い方も樂自身で決めてもらっている。」
虎雅「せいさんはなんで樂のこと、そんなに知ってるんですか?」
世永「樂の親と友達だったんだ。二人の幼馴染。まさかあの日二人は死んでしまって、樂が噛まれるとは思ってもいなかった。相当妖力が強い凶妖だったんだ。誰も察知できなかった。しかも俺の担当地域だったのに。樂には本当に申し訳ないことをした。」
せいさんの顔がどんどん暗くなっていく。
出会った時の笑顔のせいさんと、別人のように感じる。
僕はかける言葉が見つからなくて言葉を出せなかった。
世永「だから俺は一生をかけて樂を守るし、人が亡くならないように全力を尽くす。たまに思いが止まらなくなって、迷惑をかける時があるんだけどね。でもみんなの命が守れるなら俺の自我がなくなってもやるしかない。俺は許されないことをしたから。」
虎雅「せいさん、そんなに自分を追い詰めないでください。災害はひとりの責任ではありませんって、頭も言ってたじゃないですか。僕の責任でもあります。だから一人で背負わないでください。」
世永「ごめんね、姉ちゃんも言ってたのにね。でも守りたいものを守れなかった時の悲しみは、どうしても消えてくれないんだ。だからこれは俺に背負わせてくれ。」
と、微笑み、先に歩き出すせいさん。
頭は、災害は自然のことを想わない人間のせいと言っていたが、
せいさんは自分の能力の乏しさで大事な人が亡くなってしまうと考えている。
一人で背負うには潰れてしまう命の多さ。
しかし僕たちは同じ命を軽視しすぎた結果、
自分の大事な人が死ぬとは知らない。
どんなにいい環境で生活できたとしても、その生活が出来る基礎がないと成り立たないことに気づけていない。
僕たちは気づきが足りてない。
ただ、のほほんと生活して日々を送るだけ。
その1秒、どれだけの命がなくなっているんだろうとも考えずに。
僕たちは音のない警音に気づかないといけない。




