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どこか遠くにいるあなたへ

作者: ルファオーデン

もしあなたが、あの言葉をくれなければ私はここにいない。

俺は君が”僕”にしてくれたように今も誰かを助けているんじゃないかと思っている。

そして俺は、君の様に誰かを助けたいと願っている。

 いつからだったろうか。


 確か進級の時だった。自分自身がひどく変わったと思う。

 元からそうだったのか、それとも単に思春期だったのかは今や分からない。ただ自分に自信が持てず、やる事成す事すべてがつまらなく思えた。

 世界が色を失って見えた。

 

かつての俺からしても信じられないほどのかわり様だった。


入学式を経て周りが新しい学校生活に浸っている中、僕は一人俯き登校していた。

授業では机に突っ伏し何もせず、何にも答えなかった。印象は最悪だろう。さらには発言や回答、作文にいたるまでマイナス思考な内容で、いじめの対象となるまでさして時間はかからなかった。


僕はイジメに根気よく耐えて見せた。先生にも言ってやった。母親にも相談した。だが、母にも話しても忙しいせいか聞いている様には見えなかった。

知らぬうちに僕は疲れていた。


地獄のような月日は長く泥のように重くまとわりついた。一週間が一月に思えた。

そんな中、二つの出来事が起きた。

一つ目は授業のとき先生が気づかないのをいいことに、その授業の間ずっと嫌がらせや暴力の類を受けたこと。そして、それに耐えきれなかったこと。

二つ目は、頭痛や吐き気を母親に訴えても聞き入れてもらえず、学校に向かわされた。

しかし、途中で吐いたりした上に遅刻。さらには一時間で早退という事が起きた。

いつしか一つの願いが体を蝕み始めていた。


ある日、嬉しい発見があった。

ヒトは願うと実際に願いが体に反映されるという事に気づいた。顔はいつしか青白くなり、体は徐々に痩せていった。

楽しみが出来た。


そしてその日が来た。

ちょうど周りは静かで、死ぬにはうってつけだった。

ロープを用意して、ベランダへと足を急いだ。

そこで母親が父の部屋からため息混じりに出てきた。

ちょうど喧嘩を終えたばかりなのだろう。

母親は僕とロープを見るなり言った。

「何しているの。」

 幼いころ叱られて以来、守ってきた言いつけ。

人の眼を見て答える。

「自殺」


 母親は目頭あたりをつまみ、ため息混じりに言った。

「弱い。」


「弱すぎる。こんなに弱いとは、育て方を間違えた。私の責任だ。」


 絶句した。

 実をいうと少し期待をしていた。心配してくれるのでは、と。

 しかし母親はさらに続け

「やめてくれる。この忙しい時に自殺なんかされると困るの。後のこと考えてくれる?死んだ後どうするの。死ぬなら後にして。」


 もはや母親を母とも思わなかった。

 死ぬのもバカらしくなるほどのくやしさ。その日は自分をひたすら痛めつけた。

 夜寝るころには全てが痛かった。そのまま目覚めなければいいと思いながら瞳を閉じた。

 

 朝から、駅へと向かった。

 足が異様に重かった。

 あまりにも疲れたから外のベンチで少し休むことにした。体とイスが軋み音を立てた。

 視界が歪み真っ暗になった。





 周りから賑やかな音だけが聞こえる。

 正直うるさい。

 雑踏や店の呼び込みのような若い男の声、気分がいいのか甲高い女子達の騒ぐ音。

 目を開くとそこは祭りの会場だった。

 訳が分からない。だが気分がいい。

 祭り独特の胸の高鳴り。辺りを見渡せば、笑顔のひとたち、色とりどりの屋台。僕は歩いているようだった。

 空を仰げば並木の隙間から夜空が見えた。

 ふと気づいた。隣にニコニコしながら一緒に歩く女の子がいた。会ったことのない子だった。しかしどこか懐かしかった。

 見て思った。凄くかわいい。彼女もこっちを見た。すッと目が合った。嬉しそうだ。

 まるで全部を理解しているような、優しさと無邪気さにあふれた笑顔だった。

 すると彼女は急に僕の手をとって駆けだした。通行人の間を走りながら彼女が振り返り、あの笑顔のまま言った。

 『行こう。みんなが待ってる。』


「―――っ」

言葉が出なかった。

あぁ、俺は誰かに必要とされていると、

俺は幸せを感じた。視界が歪んでキラキラと光る中、広場に出た。

こっちにしきりに手を振っている集団がいる。そちらに向かって彼女は手を引いていった。

たどり着くと集団の中から「おせーぞ!」や「何やってんだよ。」といったヤジが飛んできた。それがまた気持ちよかった。

そこにいつ面々はやはり知らなかった。しかし懐かしくもあった。

「みんな・・・」

 そう語りかけようとした時、周りが急に明るくなった。


 光の先には見知った天井があった。自室だ。

 そこでさっきまでの出来事が全て夢だと思い知らされた。俺はベットから身を起こした。まるで加瀬が外れたかのように体が軽い。

 パジャマ姿で家の外に出て行った。色鮮やかでキラキラ光っていて世界が違って見えた。

 スッと息を吸うと、冷たく澄んだ空気が肺に入ってきた。

 こんな味だったのか。

 こんなに美しかったのか。

 そう呟いた。

 おそらく鏡を見たら今、俺は笑っているのだろう。


 そこからは早かった。俺は戻った。と言うより変わった。

明日を望み、今を生きる。学校で活躍をし始め、いい意味で目立ち始めた。生徒会すらこなした。

気づくと大切なものが出来た。うしろを見れば多くの友達がいた。


そして今、   年経った。未だにあの時笑顔をくれた、俺を救ってくれた少女には会えていない。

でも、きっと会えると思う。そう信じ続けている。

今年もまた暑い夏が来た。祭りの気配が足早にかけてくる音が聞こえる。


あと数時間で祭りだ・・・・・


そう声に出し玄関のドアを開けた。

きっと俺は笑っているのだろう。


また年が来あけたよ。君に初めて出会った時がどんどん過去になるね。

いつの日にかお会いできれば嬉しいです。きっといっぱい話すことが出来ているはずです。

あの日から今日までの”ありがとう”と君がつないでくれた”俺”の物語をお話しします。


忘れることは無い。

忘却などありえない。

頭に刻もう。

心に刻もう。

真に刻もう。

あの言葉を


いこう、みんながまっている


おかげで俺は ここにいる。


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