十六話
あと二話で最終回入ります
―――――――。
昨日の記憶があやふやで何があったのか覚えていない………いや、正確には覚えているが、あまり実感がない。
――彼女………私じゃだめかな………なんて。
「~~~っ!」
頭を思いっきり枕に向かってヘドバンする。顔に溜まった熱を逃がすように激しく顔を枕へと叩きつける。
(………まずい)
何度かは感じたことのあった感情が抑えきれない。今までなぜ抑えられていたのかが不思議なくらいに心臓が張り裂けてしまいそうに高鳴る。
(……………まずいっ!)
この名状しがたい感覚に揉まれながらも、どうにか落ち着こうと試みる。深く深呼吸をして無理矢理にだが落ち着かせる。
……ふぅ、だいぶ落ち着いたな。
チラッと時計を見たら軽く五分くらいたっている気がするのだが気にしない。
そろそろ下へ降りないと、いつまでも俺が降りてこないから翔太達が心配するだろう。
うじうじしても始まらない。まぁいろはにあってから考えるか。
モゾモゾとベッドから出てからパジャマから着替える。その時、コンコンっとノックがした。
「……緑くん?」
一緒いろはかと思ってドキッとしたが、正体はみさきちゃんだった。一瞬安堵の息を吐いて………ん?なんで俺は今ドキッとしたんだ?
「……緑くん?寝てる?」
「み、みさきちゃん!起きてるよ!」
二回呼ばれたため心做しか自分の声が大きく出たような気がする。
「良かった。もう皆下で待ってるから、早く来てね」
と、ドアの向こうの気配が消える………気がした。自分は気配感知とか出来ないからほんと気がするだけなんだけど。
パパッと着替えて寝癖が立ってないのを確認してから階段を降りた。リビングのドアを開けると、翔太とみさきちゃんがソファーに座ってテレビを見ており、いろははダイニングにある椅子に座ってテレビを見ていた。
テーブルの上には既に朝食が並んでいた。俺が来たことに気づいた翔太が顔だけ向けてきた。
「おはよー緑。珍しいなお前が最後なんて」
「………まぁな。たまにはこういう日もある」
ベッドの上で悶えてましたとは馬鹿正直には言わずに適当にはぐらかす。直ぐに興味を失った翔太は「ほーん」と言ってみさきちゃんとイチャつき始めた。おいコラ。
「……みーくん」
「……っ、いろは……」
いろはを見た瞬間、先程よりも激しい胸の高鳴りを感じる。まるでいろはまで聞こえてるんじゃないか?と思うほどの大きなのドキンだった。
「………みーくん!」
「…………!」
何を思ったかいろはがぎうううう!と抱きついてきた。心臓が壊れそうな程にバクバクと音が鳴る。顔に急速に熱が集まり、頭がふわふわとしてきた。
「………っ、い、いろは…!」
何とかして離れようといろはの肩を掴んで離れさせようとするが、何処から持ってきた!と言いたいほどにいろはは動かなかった。
「……き、決めたもん……!みーくんが本気出す前に私の虜にするって決めたもん!」
「……っ!」
言葉を聞いてもっと熱くなる。
(……まずい……!な、なんか頭がフラフラと…)
「そこまで」
意外に助けてくれたのは先程まで翔太とイチャついていたみさきちゃんだった。
少々強引に剥がされ、いろはから離れた俺は先程まで入ってきたドアに背中を預け、何も疲れていないはずなのに肩で呼吸をしていた。
「おーおー大丈夫か緑―――――」
「………っ、こいっ!翔太!」
「うわ!お、おい!緑!」
翔太の腕をつかみドアから出ていく。
「な、何だよ緑!」
「作戦会議だ!」
赤い顔のままリビングを出る。先程まで俺をからかう気満々の顔から雰囲気を察したのか真面目な顔になる翔太。
―――助かる。
腕を離して階段を登る。翔太は何も言わずに着いてきてくれる。部屋へ入れて念の為に鍵を閉めておく。
「………翔太」
「分かってる。お前の言いたいことはな」
何故か翔太が正座になっていたので俺も正座で翔太の目の前に座る。
「………頼む、教えてくれ……でないと俺―――」
―――いろはを想うだけで、どうにかなっちゃいそうだ。
パタン!と二人が出ていったドアを見つめる。びっくりするほどに顔を赤くした緑くん。そしてあの動揺………………黒ね。
自分でもびっくりするほど今、私の顔はあくどい顔をしていると思う。
「………いろはちゃん」
緑くんに負けないくらい顔を真っ赤にしているいろはちゃん。
確かに昨日翔太が抱きつけとは言っていたがまさか本当にやるとは………緑くんのためならほんとこの子価値観おかしくなるのね。
「………あなた…………結構肉食女子なのね」
「ち、ちがうもん!」
「何が違うのよ…………」
もはやいろはちゃんの「ちがうもん!」条件反射。
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最終回も近づいてまいりました。一応後日談にてダブルデート、普通のデート水着回を予定してます。
完走までもうしばらくお付き合いください。