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死神との邂逅


 伏真(ふしま)が走り出したときだった。空中で肥大化を続けていた光から、巨大な一本の光線が射出された。

 それが目に入ると同時に、伏真を烈風が襲った。

 伏真は瞬く間に吹き飛ばされ、そのまま茂みに投げ出された。


「クソ、なんだよ……!試し撃ちのつもりか?ふざけやがって!」


 何にせよ、悠長なことは言っていられない。

 今の間にも秘女(ひじょ)滝柴(たきしば)達に迫っている。このまま進行すれば、そう時間がかからずに追い付かれてしまうだろう。


「クソ!こんなところで立ち止まってんじゃねぇぞ!」


 伏真は立ち上がると、再び走り始めた。


* * * * *


 静けさを取り戻した森の中、少女達は歩く。

 背後を向くと、光の塊が少しずつこちらへ近づいてきているのが分かった。

 シャミアは落ち着かない様子で、常に辺りを見回している。どこから秘女による奇襲を受けるか分からないという恐怖もあったが、何よりも走り去った少年のことが気がかりだった。


「ユリカ様……本当にあれが最良の選択だったんでしょうか?私には、彼を危険な目に逢わせるだけとしか思えません」


 シャミアは俯き、そう口にした。


「私もそれは分かってるわ。でも今の滝柴ちゃんを見て分かるように、あの光の側に居続ければ、いずれ私達まで衰弱してしまうの」


「だからって、治したとはいえ、傷を負ったばかりの人間がまた秘女と戦うなんて……!」


 ユリカは立ち止まり、背後を向いた。その目線は彼方を見つめている。


「正直、勝てるかどうかと聞かれると厳しいでしょうね。でも、あの手の秘力(ひりょく)が人間に干渉できる例は稀よ。衰弱させられるのは恐らく秘女だけだと思うわ」


「でも、さっきの激しい音と光、もしあれを撃ち込まれたら……!」


 ユリカは何も口にしなかった。恐らく始めから分かっていたのだろう。

 この戦いには、何か一つ、犠牲が必要なのだと。伏真自身もそれを理解した上で、彼女達を守るために率先して戦場へ身を投じたのだと。


「(伏真くん……本当に、ごめんなさい……!)」


 ユリカは涙を落としながら、何度も何度も心の中でそう呟いた。


* * * * *


 しばらく走ると、周囲よりも強く日が差し込んでいる場所があった。拓けた場所に出たのかと思い、慎重に顔を覗かせたが、それは違った。

 ここは光のほぼ真下。そして、そこにあったのは巨大なクレーターであった。


「ここが、さっきの光が撃ち込まれた場所なのか……?」


 グロッカのときとは比べ物にならない範囲が被害を受けていた。

 その中央には、長い黒髪を伸ばした少女が佇んでいる。


「そこで何してんの?」


 声をかけられた。気づかれたと思い、茂みに身を隠したが遅かった。

 少女は一発、こちらへ光線を放った。伏真はすぐに逃げ出し、なんとか直撃を免れた。


「人間……あんたが伏真明(ふしまあきら)?それとも秘女狩りの方か?」


 飛び出してきたのは、想像もしなかった言葉だった。秘女狩りという単語の意味は分からなかったが、彼女ははっきりと口にした。伏真明と。


「一体どこで俺の名前を知った?何もんだよお前……!」


 少女は微笑すると、再び口を開いた。


「あんた、まだ自分の存在の重さに気づいてないんだね。なら、ちょっとお話が必要かな」


「何……?」


「本来なら滝柴幽恋(たきしばゆうれん)、もといベリアドーラが死んで解決するはずだった問題が、あんた一人の行いで思わぬ方向に歪んだのさ」


 少女が首に手を当て、首を傾げると、パキッと甲高い音が鳴った。


「この世界は人間は秘女に勝てないっていう前提で、力の均衡を保ってる。もちろん大勢で暴動を起こせば、並の秘女一人くらいは殺せるけどね。でも、あんたはたった一人で秘女を倒してしまった。それが何を意味するか分かる?」


 伏真はしばらく考えると、再び口を開いた。


「均衡は乱れ、秘女と人間の力関係が破綻する……」


「話が早くて助かるわ。今の均衡を保ちたい、いや、保たないと都合が悪い連中がいる。有り体に言えば、私達の目標は伏真明、あんただよ」


 驚愕のあまり、言葉を失ってしまった。もはや滝柴を救うどころの話ではない。

 狙いは伏真明。今となっては、滝柴はそのついでとして狙われているに過ぎないのだ。


「俺が……目標だと……?」


「そうよ。だからまぁ、ここで死んでくれたら楽なんだけどさ」


 少女はそう言うと、伏真を睨み付けた。

 伏真は自らの危険を察知すると、すぐさま弓を構え、一本矢を放つ。

 少女は体を傾け、易々とそれを回避してみせた。


「クソ!」


「さて、じゃあ次は私の番だねぇ‼」


 彼女がそう口にした瞬間、数百本という光が伏真に向かって撃ち出された。

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