南の森のまっすぐな道
妙な鳥の鳴き声で起きた。
ほほへっほへへほっほー ほほへほへへほっほー
なんとなく日本のキジバトに似てたので 帰ってきたのか! と飛び起きたが木の台の上で麻の布に包まれてた。昨日の部屋のままだ。窓の外では中庭で男達が黒い岩を叩いていた。あれ、黒曜石かなあ。槍の先に付いてるの、あれだよな・・・
鳥の声の主は石垣の上にいた、ニワトリぐらいの茶色い鳥だ。食えるのかな。
「おはようございます。どうですか。眠れましたか?」
昨日の青い服を着たしもぶくれの太ったおばちゃんがパンとスープを持って部屋に入ってきた。
顔の割に声がすごくかわいい。日本の萌えアニメで声優できるレベルだ。
「はい、どうぞ。あたしみたいな美人に朝食を持って来てもらうなんて、あなたは幸せ者なんですからね(ウインク)」
「あは、どうも。あの、昨日はありがとうございました」
「いいのですよ。わたしはカシュー。このバーク城で治療を担当しているの。聖女と呼ばれています」
「その、魔法で治療って、初めて見ました。この国では皆あんな魔法が使えるのですか?」
「まさか。小さな火魔法ぐらいなら大抵の人は使えるでしょうけど、治癒魔法の使い手は少ないのよ。特に骨折をすぐに治せるような使い手はね。ふふ 食べたら食器は置いといていいですよ。」
聖女のおばちゃんが部屋から出ていくと入れ替わりでやたらかっこいい兄ちゃんが入ってきた。
あんたは若いころのジェームスディーンか。
「お前、カシュー様に気安く声をかけるな。皆の憧れなんだ。万が一、手を出したらタダでは済まんぞ」
「あ、はい」
えー あれが憧れなのか。・・・まあ、聖女だしな。
パンはライ麦パンだろうか。スープはほぼ温かいだけの薄い塩水で、小さなよくわからない肉が入っていた。
「馬車が来た。昨日言ってた館に行ってもらう」
ウォールナット騎士団長が来て俺を馬車に乗せた。てっきり馬車と言ってもあの大きな鳥が引っ張るんだろうと考えてたが、ちゃんと普通の馬だった。馬もいるのか。牛も居たし、異世界でも元の世界と割と似ている。そういえば元の地球でも家畜にできる種類の動物はすいぶん限られていると聞いたな。
馬車はとてもシンプルなもので、屋根は無くただの荷馬車のようだ。荷台の上に座った。
「では いきます」
御者は女性で、よく見ると昨日のオオカミと居た女の人だった。振り返るとオオカミが一緒に走っていた。少しビビる。
「あの、昨日 川で会った人ですよね」
「は、はいっ 昨日は、その、すみませんでしたっ」
「えっ、あっ いえ、大丈夫です。もうケガも治りましたし。事情も聞いたので気にしてませんよ。」
「ケガというか、その、えーっと・・・」
森の中のまっすぐな道を走っていく。時々目の前を鳥が横切る。
「どうしてこんなにまっすぐな道なんですかね。普通、地形に合わせてグネグネするもんじゃないですか?」
「あ、それはですね、道を切り開く時に魔術師が魔法を放つので」
「え、つまり森に魔法を撃って木やら岩やらを吹き飛ばすのですか」
「ええ、と言っても一度にやるわけじゃないです。何人もの魔術師が何年もかけて進んで行くんですよ。見習い魔術師の訓練も兼ねてますね。田舎のほうじゃ川沿いに道が出来てたりするのでこんなにまっすぐではありません」
「なるほど・・・」
きっとまっすぐな水路もそうなんだろう。
こう魔法が便利だと科学技術は発展しないのかな・・・そう言えばここに来てから金属をあまり見てない。騎士団長の剣ぐらいだろうか。そう言えば生活費を銅貨で、と言ってたな。銅はあるんだな。貨幣があるなら買い物もできるはず。資本主義社会か。という事は城の騎士団には給料が出てるのかな?もしくは食料の現物支給だろうか。
「えーっと、あなたはバークの騎士団の人なんですよね」
「い、いえ、騎士団には男性しか入れません。わたしは臨時雇いで。あの、えっとプラムといいます。普段は、えーっと、逃げた牛を追いかけたり、森で狩りをしたり、偵察だったり・・・色々です。騎士団長にはよく仕事をもらいます。昨日も・・・ あのっ 昨日は 本当に、ごめんなさいっ その、胸を触ったりしてしまって」
そこ?
「ええ、別に大丈夫です。えと、プラムさん。きれいな人に触られて俺もうれしいですよ。あれは魔力か何か調べてたんですか」
「えっ えっ きれい えっ 誰 わたし? わたしがきれいですかっ」
「あの、危ないから 前を 前を見て」
プラムの耳が真っ赤になった。言われ慣れてないようだ。結構きれいな顔立ちしてると思うんだけどな。今日は顔の汚れを落としてる。昨日顔が汚れていたのは多分、迷彩だな。素顔だと肌が白いから森で見つかりやすいんだろう。
森の中のまっすぐな道をしばらく走り続けると、建物が見えてきた。石作りの立派な建物だ。
「お疲れ様でした。こちらがお住まいになる館です」
「あ、はい。ありがとうございました」
「あのっ もしよろしければ、お名前を・・・」
「あ、そうだった。俺はアオキユウタといいます」
「アオキユータ 様。またお会いできると思います ですので また よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。俺はこの国の事、まったく知らないし何の力もありません。だから何か頼る事もあるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「はいっ いつでも。私、城壁の東の外側に住んでます。なんでも、何でも言ってください。私にできる事なら、なんでも」
なんだかそんな言われ方をしたらまるで惚れられてるみたいだ。
きっとケガをさせたり手を縛ったりしたのを気にしてるんだろうけど。
馬車を見送ってから建物の前にある泉を眺めてた。真ん中から湧き水が出ているようだ。美しい。取水口があって、石作りの溝で建物のほうに水が引かれている。これはきっと最初に泉があって、それでここに館を建てたんだろうな・・・
館の面積は・・・体育館ぐらい?高さはそんなにない。そしてその横にはサッカーコート程度の畑がある。
しかし荒れ放題。しばらく何もやってなかったな・・・
これ、俺が管理するんだろうか?
まあ、とりあえず館の中を見るか・・・ と、玄関の前に立ち扉を開けようとしたら内側から開いた。