城
「パーシモン宰相、ウォールナット戻りましてございます」
「おおっ ウォールナット騎士団長 帰ったか。ええい挨拶などいらん。どうだ、いたのか?」
「はっ、それが、それらしき人物はいたのですが、どうにも・・・」
「はっきり言わぬか。」
「は、直接に見つけたのは雇いの獣使いでして おい、獣使い、こちらに来てどうだったか申し上げろ」
「ほう 獣使いか。よし許す。申せ」
「はい。オオカミ使いのプラムと申します。太陽が真上に来る時刻にピケの山の南側のタリナイ川に勇者が現れると聞いておりましたので朝から5匹のオオカミを放ち待っておりました。すると、昼過ぎにオオカミたちが何かの匂いに気付き、たどっていきましたところ全裸の男が川に」
「おお、やはりいたか!どうだ、圧倒的な力、凄まじき魔力であったろう」
「いえ、それが。見た目は良いのですが、体はひ弱で魔力も感じませんでした。」
「なにっ そんなはずは」
「しばらく手を出さず声もかけず見ていたのですが、火を起こすのに長い間 枯れ木をこすり合わせていました」
「なんと、子供が使えるような火魔法も使えんというのか」
「そして川に入り、ずいぶん長く遊んでいると思っていましたが、どうやら手づかみで魚を獲っていたようで」
「手で魚を・・・?まるで原始人ではないか。水魔法も雷魔法も、なんの力も無いというのか。ううむ、いや、力を隠しているという事はないのか?」
「私もそう思いました。そこでオオカミを使ってケガをしない程度に襲ってみたのですが・・・」
「どうなった」
「最初の様子見で男の左腕を噛んだのですが、いとも簡単に骨が折れてしまいました。あまりの弱さにオオカミたちもどうしていいかわからず、子を運ぶようにやさしくその場に押さえつけてから手を縛り、鳥に乗せ城に運んできました」
「なんという事だ。そこまで弱いとは・・・ いやしかし、まだ賢者という可能性があるぞ。力はなくともあらゆる知恵と知識を持つという伝説の大賢者ならば・・・まて、今 手を縛った と言ったな。事情は話してないのか?」
「パーシモン宰相、そこから先はワタクシが。かの者、賢者とも思えませぬ。言葉が通じなかったのです」
「なにっ 大陸語を知らぬというのか・・・ 」
「城に戻ってから城の治癒師に腕の骨をつなげさせたところ、しきりに不思議がっておりました。まるで魔法など初めて見たとでもいうような・・・とても多くの知識を持っているとは思えませぬ。賢者であるならば短時間で言葉も理解しましょうが、そのような気配も・・・」
「しかしっ、しかしだ! 代々伝わる伝説の予言によれば、今日の昼にタリナイ川に現れる異世界よりの勇者が世界を救うとある。この予言の書はいままで外した事はないのだ。おぬしらの手違いで本当の勇者を見落として、別の農民か木こりを連れてきたのではないか?」
「ですが・・・かの者は日焼けの跡も無く、手もまるで貴族のように滑らかでとても農民や木こりとは思えません。全裸であるのに今日初めて虫に刺されたかのような肌。あそこにいるはずの無いような人間です」
「そうか・・・獣使いの女、お前の見立てはどうか」
「オオカミに男の匂いを逆にたどらせたところ、山の中の苔むした岩の上で途切れていました。まるで突然そこに現れたかの如く。それに瞳の色が黒いのです。我々のように青や緑ではなく、また獣人でもありません。それと大変、その、見た目が良い男でありまして、あのような者が付近にいれば女たちの間で噂になると思いますが、聞いたこともございません」
「ふむ・・・これはどういう事か・・・」
「お会いになられますか?」
「今は止めておこう。しばらく様子をみたい。部屋を用意して服を着せ落ち着かせよ。そうだ、宝物庫に言葉の指輪があったな。あれを渡して話を聞くのだ。」
「言葉の指輪を・・・! この際、仕方ありませぬな。ところでその部屋は城の中に?色々と噂が心配です」
「そうじゃな、よし南の森を抜けたところに使ってない館があったろう。あそこに居てもらおう。身の回りの世話にいくらか侍女を回しておけ」
「はっ、しかし先日の騒ぎで女手が少し足りておりませぬ。」
「ああ、ウサギ女どもか・・・ 刑はまだであろ。地下牢にいるのか? では全員に恩赦をちらつかせて館の侍女にせよ。」
「ウサギ女達を・・・かの者は不満を言うのでは?」
「かの者が役立たずというのであればそれもしかたあるまい。勇者は民の希望でもあった。それが潰えたとなれば不満は我らに向くかもしれぬ。話を聞いて勇者と判明すればまた待遇は見直そう。とにかくかの者がどうなのか、はっきりさせよ」
「はっ」
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地下牢
「隊長、腹へったよ」
「そうねえオレガノ。でもきっとなんとかなるわ。」
「ごめん なさい、あたいの せい・・・」
「チャービルのせいじゃないわ。きっとなんだかんだで誰かが文句付けられて結局はこうなったのよ」
「あいつらウサギ女だと思って馬鹿にしやがって」
「あんまりカッカしてもしょうがないわミント。それより逃げるチャンスを待ちましょう。パクチー、牢は破れそう?」
「無理ですね、施錠も特殊で、この木枠も魔法で固めてあります・・・これはよほどの腕がないと開けられません」
「パクチーにも無理なんて相当ね。壁に穴を掘るのはダメ?」
「んー ローズマリー隊長の全力で10発ぐらいは撃たないと。夜中こっそりってわけにはいきませんよ」
「全力で10発・・・穴が開いてもその後ぐったりして動けないわね。ていうか牢の中がただじゃ済まないわね。やっぱり刑の執行で外に出た瞬間を・・・
・・・どうしたのバジル?」
「誰かきます」
「くっ、いよいよか・・・」
「カモミール起きなさい。」
「ふぇえ・・・隊長?」
「いい? みんな、建物の外に出たら魔法で拘束具を焼くわ。火傷するでしょうけど我慢して、頑張ってタリナイ川まで逃げるの。諦めちゃダメよ。川を越えて山に入れば」
「隊長、ちょっと様子が違います。どうも・・・これは騎士団長の足音です。1人だけです」
「ひとり?」
「お前たち、仕事だ。死刑は当面免除される」
「え・・・それは一体どういう」
「お前たちはこれから南の森の館でメイドとしてある男の世話をするのだ。・・・臭いな。水を浴びて着替えて荷物をまとめろ」