第一章 始まりの日
誤字・脱字にご了承願います!
今年の春に帝都中央図書学園に入学した宮沢勇哉。それが自分の名前である。これ以外に自己紹介することがないので、あしからず。
それはそうと、帝都中央図書学園とは名前の通り、学園の中に膨大な本が納められている。その数多の本を抱える図書館の名称は大図書回廊と呼ばれるほどだ。
本の蔵書数は世界一といっても過言ではないだろう。それもそのはず、世界中の本がこの学園に集められているのだから当然である。
なぜ、そのように集められるようになったかというと、現在の世界の人々の多くが本を読まなくなってしまったということがあげられる。
どうしてそうなったのかはよくわからない。しかし、現代の人々は紙に書かれた文字を見ることをやめ、デジタルに目を向けるようになった。
誰にも必要とされず利用されなくなった施設の行く末は決まっているだろう。過去の叡智を保存してきた図書館もその存在に意味がなくなれば存続できるはずもない。書籍はすべてデータに置き換えられ、場所をとる紙媒体を手に取る者はほとんどいなった。そのため世界中の図書館に納められていた多くの本は捨てられることとなっていき、貴重な本まで失う事態までに陥った。あんまりな話だと思うかもしれないが、必要とされないものを維持していくのも多大な資金と人の手がかかるのだから仕方がないことなのだろう。
その人類の叡智の喪失を食い止めるべくして、この学園は設立されたのだ。世界中で失われつつあるあらゆる本という本を集めてできた大図書館に学校が併設されているような感じである。そのため、貴重な蔵書が数多くあり、学生は申請さえすれば自由に閲覧することができた。
自分は実家が代々本屋という家に生まれ、読書も大好きなこともあってこの学園へと進学することを決めた。ただ、他の生徒も本が好きでここへ来た、というのはそうそうあることではなく、自分は珍しい部類に入るのだ。
あと、自慢ではないが本を読んできただけあって雑学や歴史なんかは結構詳しい、と思う。
「よっ!朝っぱらから神妙な顔立ちでどうしたよ。はっ、まさか……腹でも下したのか?」
「んなわけねーだろ。お前は相変わらず無駄に元気にぬるぬる動いてんな」
この軟体生物のようにくねくねぬるぬると動いて挨拶してきたのは勘解由小路政宗というやつで、この学園での最初の友達である。仲良くなったきっかけは……特にない。気がつけば仲良くなっていた。そんなものだろう。ただ、初めて会ったときから面白いやつだとは思っていた。
入学してまだ一ヶ月程しかたっておらず、こいつともまだそんなに長い時を同じくしてはいないが、性格は解りすぎるほどに理解した。
政宗は馬鹿なのだ。どうしようもなく馬鹿なのだ。重要なので二度言うことにしておこう。
そんなことを思っている間にも、馬鹿こと政宗が机の上に乗っている最中だった。
「一番、政宗。歌を歌いまーす。皆さんご注目!」
「またあの馬鹿がなんか始めるきだぜ?」
「本当に馬鹿ね。今に始まった事じゃないけどさ」
この様子をクラスメートたちは様々な目で見ていた。呆れる者や馬鹿にする者、同調する者もいた。
だが、誰一人として政宗のことを心から嫌う者はいなかった。なんだかんだ言っても、皆は政宗のことを認めているのだ。馬鹿だと。そして、なぜか憎めないと。それは政宗の人柄なのか人徳なのか、それは解らない。
まぁ、最終的には馬鹿なことをするからそうなるんだ、というオチがまっているわけだ。
そう思うが早いか、政宗は調子にのりヒートアップしたせいで机の上に立っていることを忘れていたようだ。足を踏み外し床へと落ちた。
結果としてクラス中から笑い声が響き渡る。そして、担任の先生が教室の中へ入って来て怒られる。毎日と変わらぬ光景に、笑いこそすれ見飽きることはなかった。だって、面白いんだもん。
話は変わるが、政宗の家は実は相当に珍しい家系なのである。今となっては勘解由小路という名の家は数えるほどしか存在しないのだが、先祖は陰陽師だったらしい。本人がそう豪語していたのでそうなのだろう。
ところで、なんで政宗の話を出したかって? そりゃ、回想で友達が誰も出なかったら、悲しい人って思われそうだから登場させたのさ。
まぁ、こんなどうでもいい話は置いといて、話をもとに戻そう。
さて、そんな感じで何時ものように全ての授業を終え、放課後となった。
学園に入ってからの習慣として、放課後は図書室へと行くようにしていた。世界中の本が集まっているのだ。本好きにしたら行かない訳にはいかないのである。
「今日はどんな本を読もうかなっ、と。おっ、懐かしいな」
図書館へと入り、本棚の間をふらふらと歩いていると、とある本が置いてある場所に目が止まった。それは、御伽話や神話、伝記などがある本棚だった。
「小さい時に良く読んだな。あのころは童話や御伽話を読んでワクワクドキドキしたな~」
昔のことを思い出しつつ、本棚から一冊の本を抜き取ってみた。タイトルには『白雪姫』と書かれていた。
「そういや、一番初めに読んだ本がこれだったような気がするなぁ。久々に読んでみようかな」
童話を読むのは小学生以来の気がする。でも、本を好きになったのは間違いなく童話や御伽話を読んだからだ。
原点を見るような気持ちで『白雪姫』を開いたのだが、要約するとこんなことが書かれていたのだった。
むかしむかし、白雪姫という大変美しくお姫様がいました。
お妃は白雪姫の美しさを嫉み、狩人に命令して殺そうとしました。しかし、白雪姫は森へ駆け込み難を逃れました。
姫は森をさまよい、やっとの思いで一軒の小さな家に辿り着きました。そこには小人たちが住んでおり、働く代わりに姫はそこで住まわしてもらうことになりました。
姫が生きていることを知ったお妃は、毒殺しようと毒を塗った林檎を白雪姫に食べさせることに成功しました。
姫は倒れ、小人たちは嘆き悲しみました。
そこへ姫の美しさを聞いた王子が小人たちのもとへ訪れ、姫の亡骸が欲しいと頼みに来ました。小人たちは了承し、王子に譲り渡すことを決めました。
王子は喜び、白雪姫の唇に自分の唇を重ねました。すると驚くことに姫は目を覚ましたのです。
白雪姫は王子と共に行くことを喜んでいましたが、小人たちはそうではありませんでした。姫を連れ去ろうとした王子をなんと、家の中へ閉じ込めてしまったのです。王子は捕まる前に姫だけ逃がすことが出来ました。
そして、それからというもの白雪姫は王子のことを思いながら嘆き悲しみながら日々を過ごすようになりました。
ちょうどその頃、お城でもお妃が行方不明となってしまい、城中がざわざわと騒ぎになり大慌てになっていました。
城からもお妃がいなくなり、国中が混乱し始めたそうな。
めでたし、めでたし。
「って、なんだこれは!こんな話が『白雪姫』だと?」
意味が解らない。
読み終わると図書館中に響き渡るほどの大声で叫んでいた。話の途中から沸々と怒りとも呆れともとれる感情が湧きあがっていたのだから仕方がないことではあった。
案の定、周囲にいた人からは睨まれることとなった。そんな視線を感じつつも、もう一度読んでみることにした。
もしかすると、自分の頭がどうかしていたと思いたかったからだ。
「こんな話のどこがめでたいんだ?」
だが、何度読んでみても内容は最初に見たものと変わらなかった。表紙を見ても『白雪姫』と書かれているし、子供のころに見た表紙と同じなので内容が異なるということは考えにくい。
確かに前半は自分も知っている一般的な『白雪姫』の話に相違ない。だが、中盤から後半にかけては滅茶苦茶もいいとこだ。
物語は書かれた時代や背景によっては、原本が同じでも内容は変化するもことは暫しある。グリム童話のような驚愕的な最後を迎える内容のものや、子供がみてワクワクする内容のものなどさまざまである。
だからといって、この話はおかしいとしか思うことが出来ない。何故かと問われても、直感でそう感じたとしか言えないのだけれど……
ハッピーエンドではないにしても、物語の特性上は何らかのオチがあり、綺麗にまとまっているものが多い。
「これ以上一人で悩んでも仕方ないか。明日にでもクラスの連中に話してみよう!」
もしかすると、クラスの誰かがこの変な物語について知っているかもしれないと考えたので、今日の所は帰ることにしよう。そして、本をもとの棚に戻し、図書館を後にしようと歩き出した。
その時、とある扉が目に入ってきた。その扉は、傍から見ると図書館のどこにでもあるものと変わらない。ただ、一点のことを除いてだ。
実は、この扉は学園の不思議の一つとして有名なのである。どこの学校にでもある七不思議みたいなものだ。大抵の場合は、生徒たちがあの教室は怪しいとかなんとか噂を始め、好奇心の多い連中がさらに拡大したのが発端となることが多いと思う。
使い古された例を挙げるならば、真夜中に徘徊する人体模型やひとりでに鳴るピアノとかである。しかし、実際に存在しているのか確証がないものばかりである。
それと同様に、自分の目の前にある扉にもある話が存在する。それは何かと言うと、この扉は開かないのである。だから、学園の皆は《開かずの扉》と呼び、中に何があるのか噂されるほどだ。そんな事かと思うかも知れないが、生徒はもちろん教師、図書館の管理人ですら扉を開ける方法を知らないし、何があるのかも不明らしい。そう言うことなので、学園の不思議の一つに数えられているというわけである。
「開かないって言ってもなぁ、普通のドアなんだよな。……鍵穴がついていない以外はだけど」
そう、この扉には鍵穴が存在しないのだ。それなのに、押しても引いても、横にずらしても開く気配すらない。
「本当に中に何があるんだろう? 誰も見たことがないってことだし、何か重要なものでも保管してるのか? こういう秘密を前にされると、覗き見たいのが人の性か」
珍しく、らしくないと自分でも思うセリフを呟いてしまう。あの変な本を読んだせいだと思いたいものだ。
書きたいものを書いているので、特に何も考えずに見切り発車してます。
いまは昔書いてたものを少し手直ししてるくらいですけど。




