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どんな職業で冒険したいですか? 私はお花屋さんをお勧めします。

作者: 瑞 ケッパオ

 

俺は本田 タカシ、高校生だ。

俺は色々あって死んだ。

そしたら神様の情けで異世界転移した。


この世界では、魔王とモンスターが人々を苦しめている。

という事で僕は冒険者になり、魔王やモンスターを倒す事を決心した。


俺は冒険者ギルドに行き、見習い冒険者となった。

しかし、このままではモンスターを倒せない。


今の俺の職業は『村人』だ。

村人では何も出来る訳ない。

身なりだって今は麻で出来た『布の服』だし、使える武器も魔法もない。だって村人だもの。




「すみません、 転職(ジョブチェンジ)したいんですが?」


長い金髪に、黄色いスーツに赤ネクタイが特徴的な受付の女性に声をかけると、彼女は笑みを浮かべ、口を開く。


「お客様? 失礼ですが、黄ばんだボロ雑巾に転職希望の方ですか?」


「ほんとに失礼だなぁ!? 違います!」


俺は否定する。

この人はいきなり何を言ってるんだ?

確かに俺の服装はみみっちい、布の服だもの。

もっとも、挨拶するように喧嘩を売るのが、この世界の常識とは思いたくない。



「お客様のレベルはおいくつですか?」


「レベル1です。 ……今日、こっちに来たばかりなので」


「へぇ、良い年こいてレベル1って事は、もしかして『異世界』から来たとか、でスカ〜?」


「はい、この世界とは違う世界から来ました。……って、何故わかったんですか?」


間違いなく、この受付さんは余計な一言を言った。

ここは敢えて無視しよう。それよりも気になる事をこの人は言った。



「実は私も、こことは違う世界、日本という所から来ました」


「え!? 俺も日本からです! 偶然ですね! 俺は本田 タカシって言います!」


「え? 本田 タカアシガニ?」


「タカシです! どう間違ったらタカアシガニになるんですか!?」


まさか、自分と同じ転移者がいるとは、思わなかった。


この人は口が悪い、けれど日本人というだけで親近感が湧く。 仲良くした方が良いだろう。



「ちなみに、この世界で生活されて、どのくらい経つんですか?」


なんとなくだが、彼女に聞いてみた。


「だいたい20ヶ月と1年です」


「なんだその言い方! 分かりづらいわ! そこは3年未満って言えばいいでしょ」



「この世界の生活って大変ですか?」


「そうですね、……普通は難しいです。特に言葉とか」


受付さんは俺の問いに、間をおいて答えた。


「確かに、言葉とか大変そうですね」


「はい、この世界ではよー? 名古屋弁が標準語っちゅー事になっとるだがね」


「なぜ……名古屋弁……なんだ……??」


うーん、名古屋弁は、自転車(けったマシーン)しか知らない。

上手くやっていけるだろうか?



「幸いにも私は前世で、あの地蔵院(じぞういん) 春雄(はるお)と同じ、名古屋市に住んでたので、すぐ慣れました」


「地蔵院 春雄って誰? 有名人なんですか?」


「あ、私の中学ん時の学年主任です。 カワハギに顔が似てる事が有名でした」


「あの伝説の……!? って身内ネタかよ、知らねーよ!」




そういえば、転移者の受付さんは、金髪(ブロンド)だ。

どう見ても日本人には見えない。


「受付さんって、ハーフなんですか?」


「私、アメリカ生まれアルよ! いわゆる、()()()()ってやつネー」


「それを言うなら()()()()でしょ? あと、なんで中国風?」


アメリカ生まれで名古屋育ち、おまけに似非チャイニーズとか、意味不明(カオス)すぎる。



「そんな事より、本題に入りましょかー?」


「……あ、はい」


急に話をそらされた。この人自由すぎるだろ……!


きっとこの受付さんは、頭の中がお花畑なのだろう




「タカアシガニさんは、希望の職種はありますか?」


「タカシです……! 魔法と剣術が使える『魔法剣士』が良いですね」


「良いですネ〜」


「ですよね!」


「……」


「…………?」


「……共感しただけかよ!? 」


「私は女の子、共感を得たい生き物なのデス。そこんとこ大目に見てヨー。 ゥイヒヒヒヒヒ……」


「ちゃんと仕事してくれよ! あと、その笑い方は、女の子がして良いものじゃないのでは?」




「ところで、俺は魔法剣士になれるんですか?」


「は? ……ゥイヒヒヒヒヒヒ、なれる訳……ヒヒ、無いダロぉ〜、立場をわきまえろ半端(ハマチ)野郎〜」


「辛辣だな……」


「貴方のレベルでは魔法剣士にはなれませんネ、低レベルで転職できる職業には、魔法剣士は含まれておりません」


「なるほど、そう言う事ですか……。 ちなみに今なれる職業だと、何がありますか?」


「『戦士』『魔法使い』『僧侶』『商人』『旅芸人』……あとは『お花屋さん』ですね!」


「お花屋さん!?」


お花屋さんってなんだよ?



「はい、お花屋さんです。 オススメですよ?」


「いや、お花屋さんになった所で、モンスターと戦ったり、ダンジョン攻略したり出来ないでしょ?」


「殺したモンスターに(そな)える花に困りませんよ?」


「いらんわ!」


「あと、陰気臭いダンジョンに、花を飾り付けるサービスが、女性冒険者から大好評です」


「しらんわ!」


「どうです? お花屋さんになりませんか?」



「ならんわ! 今の説明に興味が持てる点すらないけど??」


「そうなんですよ〜」



……ダメだコイツ。



「ほら、あそこの方をみてください」


受付さんの手の先には、白銀の鎧に身を包んだ女性がいた。

おそらく、あれは聖騎士(パラディン)だろう。


「あの方は、お花屋さんから聖騎士(パラディン)にクラスチェンジされたんですよ?」


「マジでぇ!? お花屋さんからァ!??」


俺は受付さんの言葉に、目玉や内臓が飛び出そうな勢いで驚いた。


「どうやったら『お花屋さん』から『聖騎士(パラディン)』になれるんですか!?」


「まず、ガッとやるがよー? そーしたら、バッとして、クイッとすりゃー、完璧だがね!」


「適当に言うな!? あと申し訳程度の名古屋弁はやめてください!」


もしかしたら、花屋さんになった事で、草花を大切にするという博愛の心を培い、聖騎士(パラディン)になれたのではなかろうか?



「ちなみに、あそこにいる『魔剣士』の方も『お花屋さん』からクラスチェンジしたんですよ?」


「えぇ!? まさかの正反対!?」


聖騎士(パラディン)とは属性が逆であるはずの魔剣士さえも、昔はお花屋さんだったらしい。


魔剣士の人はイメージ通り、漆黒の鎧で全身を纏ってる。 物凄く厨二臭がする見た目だぞ?

どうしたら花屋が、ああなるんだ?


俺の予想は完全に否定された。

これは、わからない。

花屋がなんなのかわからない。



「前職がお花屋さんの方は、ここにいるほとんどの方が、該当しますよ?」


受付さんがそんな事を呟く。

彼女の言葉だけでは、真偽がわからないので、俺は辺りを見渡す。



「あそこにいる『暗殺者(アサシン)』の方も?」


「はい」


「じゃあ、そこにいる『竜騎士』の人も?」


「はい」


マジかよ。お花屋さんスゲー。



「……じゃあ、入り口付近にいる『剣闘士(グラディエーター)』の人もですか? 物凄くマッチョですけど?」


「あの人はお花屋さんじゃないです。前職は『魚屋さん』です」


「違うんかい! そして、なんだよ魚屋さんって!?」



「どうです? オハナヤサンになりませんか?」


「オハナヤサンってなんだよ、リヴァイアサンみたいに言ってもならないっすよ」



「じゃあ、黄ばんだボロ雑巾はいかがですか?」


「絶対、それだけにはならねーよ!」




「よろしければ、職業カタログがあるので、そこから選んで貰ってもよろしいですか?」


「カタログあるんかい!? あるなら、最初から見せてよ!?」


俺は色々な職業が記されたカタログに目を通す。

そこで、気になる職業を見つけた。



「この『モンク』って職業は、低レベルでも慣れるんですか?」


「はい、なれますよ。 あまりオススメはしませんね」


受付さんは、『モンク』をあまり勧めて来ない。お花屋さんより、よっぽどマシだと思うが?



「モンクって、武器を使わずとも戦える修行僧、武闘家みたいなのでしたっけ?」


俺は受付さんに『モンク』について確認してみる。


「いいえ、モンクは他人に自分の都合を押し付けたり、愚痴を言ったりする職業です」


修行僧(モンク)じゃなくて、文句(もんく)かよ! くだらねぇなぁおい!」


「別名『クレーマー』とも呼ばれてますね」


「だろうな」



「……『修行僧(モンク)じゃなくて、文句(もんく)かよ!』だって……!? ……ぷっ」


なんか受付さんが、間を置いて、急に顔を伏せ出した。

ツボに入ったらしい。


「ひぃ……ふふ……ゥイヒヒヒヒヒヒ……、はぁ〜」


「その笑い方やめてもらいません? あと、最後のため息は何?」


「いや〜、すみません。 歴代4番目くらいにクッソつまらなかったもので」


「そんなに受けて、つまらんのかい!?

しかもワースト4位ぃ、中途半端! ちなみに一番つまらなかった事は?」


「中学時代の、カワハギ顔の学年主任の一発芸」


「さっき言ってたカワハギ(はるお)かい!?」



「まぁ、そういう訳で『モンク』はやめた方が良いですね」


「……どういう訳だよ?」


「周りが、どよめくんですよー」


確かに、ダンジョン攻略でクレーマーなんかをパーティに加える奴なんていないだろうな。

「俺も仲間に入れてくれよ」と言った所で、役に立つ訳もなく、無視されるだろうな。



受付さんは、モンク(クレーマー)について、更に語る


「どよめきのレベルを、()()()()()()説明すると、東京オートサロンでR33 GT-Rが、世に初めてお披露目された際に起こった、見た目に対する世間のどよめきに似てますね」


「……なんでわかりにくく言ったんだよ! ガチでピンッと来ねぇ、わかんねーよ!」


この受付さんは、本当にこの世界に来て3年未満という程度(レベル)なのだろうか?


「ちなみに私の今日の服装は、R33 GT-Rが好きな故に、98年式のペンゾイルニスモを意識した配色なんですよ?(コマスいいよね!)」


受付さんの服装は、上着は黄色い無地のスーツに赤いネクタイ。

下は黒のスカートに赤いフリルが付き、黒タイツを履いている。

そして、長い金髪と合わさる事で、ペンゾイルニスモを表しているのだろう。

……わかんねーよ!

昔、グランツーリスモしてたけど思いだせねーよ!


「俺、それについては、よく知らないんで、てっきり阪神ファンかと思ってました……」



「モンクに対する周りの反応を、分かりやすく言えば、みんなが楽しみにしていた給食の唐揚げを、運搬中にぶちまけてしまった給食当番ちゃんを見るクラスメイトの反応に似てますね」


「うわっ!? それは辛い!」


「二人組のペアを作ってと言われて、いつもペアになっている友人が休んでしまったがためにぃ……、独りになってしまった時の、周りが自分を見る目に似てやがるんだよ! まずさぁ? 奇数のクラスなのに、『二人組み作れ』とか、教師はバカなの?って思うわけよ! 人数余る事分かっててやってるよね!? 妥協してんじゃねーよ、糞教師(カワハギ)の野郎!」


「受付さん、落ち着いて! なんで後半、具体的なんですか!?」



なんか受付さんが過去のトラウマを自発的に召喚してしまったので、俺は彼女をなだめる。



「どーも、すみません。 私こうみえて、()()()()()なんですヨー」


「それを言うなら()()()()()だね? 住所不安定だと、ホームレスになっちゃいますよ?」




「そちらに、いくつか武器があるので、実際に手に持って、使いやすそうな物から、職業を選ぶのも、オススメですよ」


受付さんに、俺は案内される。

そっちには色々な種類の剣や槍といった武器が置いてある。


俺はその中から、目に付いた剣を握ってみた。


「これとか、どうですか?」


「お客さん?」


「なんですか?」


受付さんが、笑いながら声をかけてきた。


「それ、ハマチですよ?」


「うわっ、汚ねぇ! どうりで生臭かった訳だよ! なんでこんな所に、ハマチがあるんだ?」


「剣闘士の方が、転職前に使っていた物です」


「さっきの元魚屋さん(マッチョ)が使ってたのか!? そもそも魚で、どう戦うんだよ!」



俺は、違う武器を選ぶ。

手に持った物は、ハンマーだ。


「これとかどうですか?」


「ハンマーですかー、なかなか、渋い物を選びますね〜、ちなみに、ハンマーの語源ってわかりますか?」


彼女に、そんな事を聞かれる。

そういえば、知らないな。



「ハンマーとは、その形が撞木(ハンマーヘッド)(シャーク)の頭部分に似ている事から、『ハンマー』と呼ばれるようになったんですよ!」


「へぇ! そうなのか。 ……ん? それはおかしいだろ?」


受付さんは、それっぽい事を言ったが絶対違う。


「逆でしょ!? 頭の形がハンマーに似てるから、ハンマーヘッドシャークでしょ!」


「案外、逆かもしれませんよ〜」


「いや、それは無いわ!『 鶏が先か卵が先か論争』よりわかりきった事だろ!?」


「じゃあ、このハマチはどうなるんですか!!?」


「ハマチに関しては知らねーよ!」




「それでは、希望の職種の方は如何致しましょう? 無難にお花屋さんにしますか? それとも、人気の高いお花屋さんにしますか? 私はやはり、お花屋さんをお勧めしますよ?」


「全部お花屋さんじゃねーか! 幾ら勧めても、お花屋さんだけには、絶対ならないです! 嫌です!」


「私は嫌じゃない!」


「知らんがな! ……もういい! 別の所で転職します! ここには二度と来ねぇよ!」


「本田タラバガニさん、またのお越しをお待ちしてます。 記念にハマチはいかがですか?」


「それ、さっきのハマチじゃねーか! いらねー! ……ていうか、そのハマチ生きてるじゃん! めっちゃバタバタしてるじゃん!……あと、俺はタカシだよ!」


俺は、花屋を勧めてくる受付さんや、ハマチに関節技をキメる受付さん(同一人物)が、いない別の場で転職する事にした。




俺が冒険者ギルドを出ようとすると、ある人物が入ってきた。


その人物が入ってくると、ギルドの雰囲気が険悪な物になる。


彼は、漆黒のマントに、ドクロの面をつけ、何もしなくても、邪悪なオーラが身体から立ち昇っている。

『魔王』と呼ぶのが相応しい人物だ。


魔王はギルドに入ると、受付さんの元へ歩いていく。



「転職を希望する……」


魔王の見た目から出たような、凄みを感じる低い声が放たれる。


「そうですか、ご身分を提示してもらってもいいですか?」


受付さんは魔王に恐る事なく、ハマチをヘッドロックしながら接待を始める。


魔王はドクロの面を外す。


「我は魔王、真名は『地蔵院 春雄』だ」


春雄!? 春雄って、あの地蔵院 春雄!?



「あ、先生、魔王になられたのは本当だったんですねー」


受付さんの反応から、本物の春雄で間違いないようだ。


ここから魔王(はるお)の横顔が見える。 受付さんの言うとおり、確かにカワハギに似ている。


「今日は、『魔王』を辞めるために転職しにきた」


魔王(カワハギ)が淡々と喋る。



「希望の職種はなんですか?」


受付さんは、こんな状況に慣れているのか、表情一つ変えやしない。


「『魔王』から『黄ばんだボロ雑巾』に転職したい。 出来るか?」


「はい、よろこんでー!」


黄ばんだボロ雑巾になりたい奴って、お前だったんかーい!!


受付さんも笑顔で答えてんじゃねーよ!




こうして、この世界から魔王ハルオが消え、世界は平和になったとさ。


めでたし、めでたし。


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