弟と聖職者見習い
日々は目紛しく過ぎ去ってゆきます。
その日は大広場で断頭台の掃除がされてました。もう数十年使って居ないので油を指す程度ですね。
ゲームのヴォルフガングルート、要するに弟ルートでは、ディアナはこの断頭台で斬首刑でした。スマホゲームでしたから直接的なスチルはありませんでしたが、なかなかに酷い結末でした。聖女をいじめると、あれほどの罰を受けるとは……ブルブル…
わたくしが断頭台を眺めていると、ひとりの男性が近付いて来ました。
弟です。
小さな頃は女の子のように愛らしく、天使のようでしたが、声変わりする頃にはどんどんイケメンになってきました。社交界ではお嬢さん方が放っておかないでしょうに、未だに浮いた話もありません。大変言いにくいですが、弟はわたくしが物心つく前から甘やかしたのでシスコンです。その辺がモテない理由でしょうか。わたくしのせいで残念男子になってしまったのでしょうか。
待っててね、お姉ちゃんが居なくなったら、きっと……
あ、これ、転生前にも思ったことです。鬱になりそうなことを思い出しちゃいました。
『私』は、……妹を、捨てt……………………
「姉さま」
秒で現実に引き戻されました。さようなら鬱思考。ただいま現実。
うん、で?なんだい、弟よ。
弟は思いつめたように わたくしを見つめます。
「姉さまは、卒業したらバカ王j……いや、ルードヴィッヒ王子と結婚されるのですか…?」
いまバカって言いましたね弟よ…。
たしかに殿下はバカです。成績も下から3番目だし、母国語さえも怪しい。でも、アレでも、未来のあなたの主ですよ?
「その予定です」
ぶち壊すけどね!その予定!
「姉さまは……姉さまは、僕の、もの、だよね……?」
「違います。わたくしはわたくしのものです。結婚しても、奴隷に落ちても、罪人になっても、例え死んだって。わたくしはわたくしのものです」
弟はショックを受けたようでした。
「……酷い、よ。僕には…姉さましか居ないのに……!あの異界の女は姉さまを「お姉ちゃん」とか呼んでるし、レジーナ様は権力にモノを言わせてl姉さまの所有権を主張するし…!!ヨハンもピョートルも、なんか最近 姉さまを見る目がおかしいし!王子は婚約破棄するする詐欺だし!!!」
弟よ、泣くことですか?これ。
「ヴォルフ…?」
「ああ、いっそ……!いっそ………?……そう、いっそ…………」
あ、闇堕ちの予感です。
やべえやべえ。
わたくしは弟を抱きしめました。
「わたくしはわたくしのものです。でも…ね?ヴォルフ?あなたは、わたくしのものよね?」
耳元で優しく囁きます。
そう、これが弟の幼い頃からの燃料なのです。このマゾ加減はお父様譲りでしょうかね。
総じて王家の男はマゾが多いように思われます。支配されたい願望というか…。
「は……はい………!はい、姉さま!僕は、姉さまの、モノ、です!」
「……だったら、駄々を捏ねては駄目。良い子になさい?」
「は…はい……!!」
よし!鎮圧完了!!
婚約破棄イベントまでに、この弟の性癖を満足させてやれる妙齢の女性を見つけねば!……わたくしの知る中では、レジーナ様が一番の適任なのだけれどねえ…
そして先ほど弟が言っていたピョートル様。
最近、わたくしに「修道院ってどう思いますか?」などと不吉なことを訊いてきたのでお茶を濁しておきました。
不審に思って私兵に調べさせた結果、ピョートル様の遺伝子上のお父君である司教猊下が修道院で複数の女性を囲っているという事実が発覚。推測するに、この女性たちの一人がピョートル様のお母上ということですわ。
お母上救出作戦でも決行するのでしょうか。
さすが婚約破棄イベント直前!不穏な空気が立ち込めております!