聖女と王女と騎士見習い
その少女を見た時に身体中に電撃のようなものが走りました。
少女は前世のわたくし…ギャルの妹でした。
ぎゃああああああ!!落ち…落ち、落ち着いてギャル!世界には同じ顔が三人はいるって何かで見ましたわ!!
「……ヒカルです…」
名前も同じ!?
いやいやいや待って!ここ異世界だからそういうこともあるよね!?妹のはずが……
「……………(チッ)…」
聖女ヒカル、舌打ちしました。
あ、はい。間違いなく輝ちゃんですねー。
あーあーあー、テステス。お母さま?ご覧になっていらっしゃるのでしょうお母さま?
この頃には祭壇に向かい合わずとも女神お母さまと念話ができるようになっていました。
すると、お母さまの神託はこうでした。
もうすぐ魔王復活しそうだったから可愛い子もらってきちゃった☆てへ☆
そうですか。そうでしたね。お母さまも神様なんですね……。
そう寂しそうに言うと、お母さまは慌ててとりなしてきました。
だだだだ大丈夫!他にも呼んだから!!ママの可愛い子はあなただけなんだから!!
みんなあなたのためよ!!!
わけがわかりません。
居心地いいぬるま湯から出たら、頭からいきなり冷水を浴びせられた気分になりました。それってなんて荒業!?
でもこのおかげでジワリと思い出してきたのです。
この世界は恋愛シュミレーションゲームによく似た世界だと。
わたくしは婚約破棄される運命の《悪役令嬢ディアナ》なのだと。
………ごめんなさい。正直滾りました。
だってお母さまがわたくしに酷いことするはずもないですから。しかも、わたくし婚約者のルードヴィッヒ様のことは弟のようにしか思えませんから。
神の与える試練。きっと弟神さまのようにハードモードでしょうが、受けて立ちましょう!!
その日から、わたくしは精力的に行動いたしました。
婚約破棄は必須。ディアナが悲惨な運命を辿るストーリーは『国外追放』、『修道院』、『斬首刑』、『行方不明』の4つ。
修道院と斬首刑を回避するならば、騎士団長の息子か第五王子ルートしかない。
意を決して わたくしはヒカルをいじめまくりました。ヒロインはいじめられると攻略対象との親密度が上がりやすくなるのですよ!
やれリボンが曲がっている、胸元が空きすぎている、スカートが短い、爪が汚れているし長すぎる、寝癖が付いている、目やにとよだれの跡があるじゃないの顔は洗ったのか、ついでに食べかすも付いている、廊下は端っこを歩け、姿勢が悪い、目つきが悪い、地面に唾を吐くな、食べながら歩くな、大股で歩くな、脚を広げて座るな、粗野な言葉遣いは治せ。あなたは平民なのだから、目上の者に話しかけられるまで待たなければならない。etc.etc...
それはもう、ネチネチネチネチ!
ああ いやだ!なんて酷い…!わたくしの行動、令嬢にあるまじき、いや社会的理性のある動物である人間にあるまじき行為ですわね!
なのに!なぜか周囲は止めないのです。止めないどころか慈愛の表情で見守っているのです。だれかとめて!!
しかも!ヒカルも薄っすら頬を染めて言われるがまま、されるがままなのです。抵抗しろよマイシスター!!
挙句には「お姉ちゃん…って呼んで、いい?」と懐かれました。
こ……こんなに辛く当たっているというのに!輝ちゃんはサドだった気がしたのですが、マゾだったのですか!?
ですが、転生前は姉妹で口をきくことも許されなかったので、なんだか ほっこりしちゃいました…。
お好きになさいませ、と冷たく言うと、ヒカルは嬉しそうに笑いました。
解せませぬ。
あ、そうそう、わたくしの聖女いじめを一人だけ止めてくれました。
わたくしの初めてのお友達、レジーナ王女です。婚約者であるルードヴィッヒ王子の腹違いの姉君です。わたくしの従姉妹ですがお友達です!親戚は友達に入らないとか言わないでくださいませ!!悲しくて泣きます!
あんな子に構うのは およしなさいませ。あなたはわたくしだけを見ていれば良いのですああああああディアナたんディアナたんハアハア可愛いよディアナたんはあはあペロペロ
いつもながら意味不明の語尾ですわ。
竿さえ持って産まれりゃブチ犯して孕ませて正妃にするのに!とかよく言ってますがわかりません。でも美しくて優しくて賢く愉快な、自慢のお友達なのですよ。わたくしにはもったいないほどの。
夏季休暇と冬季休暇にはお父様たちとの別荘生活を蹴って、国外追放されても良いように就職先を見つけておきました。
王都に来ていた総ギルド長のエルフのおじいちゃんに気に入られ、窓口係として研修したら内定を頂きました。ちなみにエルフのおじいちゃん、3000歳以上のご高齢だそうです。異世界の神秘、半端ないですわね。曽孫のそのまた孫の夜叉孫の嫁においでと言われましたが、丁重にお断り致しました。
諦めてないようですけどね…。
こ、こほん…!
事が終われば市井に降るべく体力をつけようと、暇を見つけては騎士さま方に混じって走り込みなどをしていたら、騎士団長の御子息ヨハン様に鬼のように叱られました。
「ここに居たい(鍛錬がしたい)のです…」とお願いしたら真っ赤になって渋々 許可していただけました。
この世界の貴族男子に、年頃の娘のジャージパンツ姿は刺激的すぎましたでしょうか?でもわたくし、心は もうすっかりおばちゃんですのよホホホホホ。