ギャル巫女転生
皆さまご機嫌いかがでございますか?ディアナ・ランカスターでございます。
王弟の娘に生まれ、女神の絶大な加護を頂き、アカデミーでは3年間 主席をキープし、この国一番の美貌を誇るディアナでございます。このような勝ち組のわたくしではございますが、たった今、婚約解消という土を付けられてしまいました。
あら、どうしましょう。
もう嫁の行き手がございませんわ。
…っしゃ!計画通り!!でございますわ。
そう、計画通りでございます。何しろ、わたくしはこの出来事を知っていたのですから。
実はわたくし、異世界からの転生者でございまして。あ、お約束でございますね。とんだメタ発言をお許しください。
転生前は、わたくし、ギャルでございました。いいえ、ビッチではない方のギャルです。
家がちょっと特殊でして、厳しく躾けられた前世のわたくし ーーー 仮にギャルとしましょう ーーー は、ちょーっとだけ反発してしまいまして。
高校進学と同時にスカートを短くし胸元をはだけさせ、スマホを持ちタップタップさせながら歩き、髪を金色に染めてアイロンでカールさせ、目も悪くないのに真っ青なコンタクトレンズを装着し、お化粧で睫毛が重くなるほど つけまを盛り、日常生活が困難なほど爪をデコりました。
それだけで友達ができると信じていたのです。
結果は惨敗でした。所詮、ぼっちはぼっちなのでございますよ。
その日も、放課後 誰かが「ギャルちゃんカラオケいこ!」と誘ってくれるのではないかと最後の一人になるまでそわそわしながら待ち、結果しょんぼりしながら帰路についていたのです。
こういう時は歩きスマホだ!私、悪い子なのよ!とイヤホンで外界の音を遮断して趣味に没頭します。歩き恋愛シュミレーションゲームです。
でも、いつもだったらドキドキしていた恋愛シュミレーションアプリのセリフも上滑りです。
練習したのに、カラオケ…。マックだってファミレスだって、脳内シュミレーションはバッチリでした。それなのに…………
トボトボと家に帰り着く寸前。
皆さまもうわかりますね。……死にました。
殺されたのです。
うちの信者の方でしょうか。刃物を振り回して………
あまり痛くはありませんでした。
死後の世界は残念ながら三途の川はありませんでした。
うちの教義はなんだったのでしょう。
何もないぼんやりと薄明るい空間で、目の覚めるような美男子に平謝りされました。せっかくのギャル装甲が剥がれ、黒髪にすっぴんになっていたのが残念だな、と思った程度です。
ギャルは感情の希薄な娘でした。
美男子は言いました。
君は僕の巫女で、ちょっと試練を与えるつもりが死んでしまった、と。それにより君を見守っていた姉がひどく怒っていて、と…。
まあ、要するに美男子の姉と呼ばれる存在のオモチャになれというお申し出でございました。お申し出、というか決定ですね。
キラキラしている姉神さまにギャルは言いました。
あなた様のような金の髪が良いです。
叶えましょう。
友達が欲しいです。
もちろん、叶えてあげましょう。
……恋が、したいです。
すべて叶えましょう、私の娘になるのなら!
姉神さまは言いました。満面の笑みを浮かべ、瞳はキラキラどころかギラギラしていました。ギャルは知らなかったのです。ただの要望で世界が動いてしまったのです。言っちゃいけない人におねだりしてしまったのです。
姉神さま、異世界の最高神でございました。
裕福な家庭。優しい両親。可愛い弟。初めての友達。弄り甲斐のある婚約者。
やりたかった格闘技も習えました。美味しいお菓子やお肉も食べれました。大声で歌も歌いました。大声で笑うことも泣くことも叱られませんでした。
何という幸福でしょう!死んで…よかった……!
わたくしは毎日、姉神さま…いいえ、お母さまに感謝の祈りを捧げ、お供えも欠かしませんでした。
その結果、恐ろしいことに転生ギャルことディアナは女神の愛を独り占めです。ヤバイです。わたくしの加護が、女神の寵愛から溺愛に変わった頃から、この国はさらに豊かになりました。災害が無くなったのですもの、当たり前ですね。
そんな風に、わたくしの二度目の人生は流れていったのです。
この幸せがずっと続くと信じていたのです。
『異界の聖女』が現れるまでは。