ラスボスは…
扉の外が騒がしいのですわ。
青い顔をした騎士団長が国王陛下の耳元で何事かを囁くと、陛下の顔もまた青を通り越して土気色になったのです。
さあ!フィナーレですのよ!
暫くして会議場に入ってきたのはエルフのおじいちゃん。
そう、明日から わたくしの雇用主です。総ギルド長です。生き字引的なおじいちゃんで、あと…
「……妖精王…オーベロン殿………」
そう。エルフのおじいちゃんは王様より偉い人だったのです!
半年前…わたくしが女神様からの神託で公爵家を出ると打ち明けると、オーベロンおじいちゃんは二つ返事でわたくしの身元引受人を買って出てくださったのです。
「オーベロンおじいちゃん!」
わたくしはおじいちゃんに駆け寄ります。
「おお、おお。元気じゃったかの、ディアナ嬢ちゃん」
「はい、おかげさまで」
「そりゃ良かったわい!なんせ嬢ちゃんは明日からわしの娘じゃからのお」
「「「「「「「はあ!?」」」」」」
お父さまを除いた全員が声をあげました。
あ、お父さまには事前に言ってありますの。だって公爵家から除名される手続きは必要ですもの。渋るお父さまに女神さまが御神託で駄目押ししてくださって万事解決!ですわ。
「オーベロン様、あの…あのですね…?私は養女には出さないと言いましたよね?ディアナたんを奪われるならギルド本部の前でマッパで叫びながら自害するって言いましたよね!?」
お父さまがオーベロンおじいちゃんに詰め寄ります。
あらやだ。そんな愉快な脅しをかけたんですね お父さま。
「養女は諦める、と言ったじゃろう?心配するでない」
おじいちゃんは白いお髭を手なぐさみながら笑いました。
「うちの曽孫のそのまた孫の夜叉孫の嫁に来んかのお?と誘っとるだけじゃ」
「なお悪いわ!!!」
「どういうことですか!?どういうことですかッ!あなたああああ!!??」
椅子と一体化して、空気より自然になっていたママン ーーー わたくしの産みのお母さまがお父さまに詰め寄ります。
美人の般若顔恐ろしいですぶるぶる。
「わたくしはディアナがよいと言うならばと黙っておりました!ですが!ですが嫁に出すとは聞いておりません!というかですねあなた!どうしてそういうことを黙っていらっしゃったのですいつもいつもいつもあなたさまはわたくしに隠し事ばかりしてそんなにわたくしは頼りないですか信用が置けませぬかいい加減にしてくださいませだいたいあなたさまは昔からそうですあの時だってわたくしh………」
おおう。ママンお怒りです機関銃説教炸裂です。あまりのママンの剣幕に皆さまポカーン( ゜д゜)ですわ。
「なんの騒ぎですか」
おじいちゃんに遅れて入ってきたのは見目麗しい和風イケメンのタキさまです。
オーベロンおじいちゃんの曽孫のそのまた孫の夜叉孫というのはこの方ですが、この方と結婚など……!そ、そそそそそそんんんんんな!!恐れ多い!!
タキさまはSランク冒険者でお耳の尖った先祖返りのハイエルフ。しかも次期ギルド長候補というスーパーイケメンです。
「ディアナ嬢、準備は整いましたか?」
にこりと微笑まれるとわたくしでもドギマギしてしまうのですが、実はこのタキさまのお顔。こちらの世界の人間には不評です。のっぺりしてお面のよう…らしいです。某映画の『平たい顔族』現象です。
こんなにカッコイイのにね……っと、コ、コホン!
「恙無く。では参りましょう」
わたくしは ゆっくりと優雅に立ち上がります。
同時にヒカルがガバッと立ち上がってツカツカとタキさまに接近。こともあろうか胸倉を掴み上げました。あわわわわわわわわわわ!
でも かよわい女子のすることです。流石のタキさま!振り払うこともなくされるがままです。
ボソボソ、と数度言葉を交わすとヒカルは突き放すようにタキさまを解放し、チッと舌打ちしました。おおう…
え?え?何をお話ししたの?ヒカル?お姉ちゃん聞きたいですわ。
「今度こそお姉ちゃんを守りなさい。お姉ちゃんに何かあったら、こんな世界3日で滅ぼしてやるんだから」
聖女がまさかの魔王発言!?お顔怖いよ輝ちゃん((((;゜Д゜))))
「命にかえても」
うっっっっっっは!タキさまカコイイ(*´Д`*)
え?でもなに?守られる立場なのわたくし!?
話が見えません( ^q^ )
もうね。顔文字連発なのは許してくださいませ。だって話がみえないのですもの!!
「ディアナ嬢」
タキさまが騎士さながらに手を差し伸べます。
恥ずかしさと嬉しさが悶絶カオスと化した内面を悟られぬよう、わたくしはその手にそっと自らの手を重ねました。
こうして、『悪役令嬢ディアナ』の生涯は幕を閉じ、庶民ディアナの生活が始まるのです。
「では、皆さま御機嫌よう」
ちゃっちゃらーちゃー……ちゃらーらーらー……………ででん!でででd………………
ブツリ。




