とある公爵のひとりごと
「今日という今日は愛想が尽きた!お前との婚約は解消だ!!」
そう第五王子が高らかに宣言した。いや、叫んだと言っても良い。
何も王子がこのようなことを言い出すのは初めてでは無い。王子とディアナが6つで婚約してから月一で王子が口にする言葉だ。
だが今回は時と場所が悪かった。
王立アカデミーの卒業パーティーで、錚々たる貴族たちの前で。国王王妃両陛下の前で。
私 ーーー ディアナ・ランカスターの父親、リヒャルト・ランカスターは頭を抱えた。
娘はいつものように慈母のように微笑みながら「あらあら、まあ…」などと答えているが……
「いつもの戯言ではないご様子。理由をお聞かせくださいませ」
「お前は聖女ヒカルに無礼を働いたであろう!」
「……は?」
………は!?
私同様、事の成り行きを見守っていた生徒や卒業生、保護者一同は首を傾げた。
そういえば、王子の後ろに隠れるようにして異世界の少女がいた。
ご婦人たちは皆、思い思いの美しいドレスを身に纏っているというのに、少女は制服であった。
そもそも、聖女と呼ばれる異界人の少女はこの世界では『平民』である。
王弟の娘が多少何をしようと『無礼』は有り得ない。
「殿下?熱でもございます?だいj……」
娘が『いつものように』、つい。王子の額に触れて熱を計ろうとしたのだろう。その娘の腕を背後から掴んだ男がいた。
第1騎士団長の息子ヨハン…であったか。
娘は小さく悲鳴をあげ、倒れこむ。ビリっと薄衣で作られたドレスの裾が悲鳴をあげた。
「なにを…なさいます、の?」
膝をついたまま、娘は言った。
ああああ!今すぐに助けに行きたい!!私の可愛いディアナたんが!!!
だが私は前日に「手出し無用」と娘からきつく言われていたのだ。
それはもういい笑顔で、「断罪いべんと(?)を邪魔したらパパを嫌いになりますわ」と。
決して『パパ』と呼ばれて了承したのではない!ないったら!!
場は異様な空気に飲まれていた。
いつもならディアナを「ディアナたんはあはあペロペロ」などと言いながら甘やかしている王女殿下も止めに入らない。娘に横恋慕していたであろう司教の息子(庶子であるが)も事の成り行きを伺っている。「姉さま〜!」と実の姉に異様な執着を見せる息子も動かない。
「と、とにかく……婚約は解消だ!私はお前の支配から解放され、じ、じ、じじ自由に、生きるっ!!自由に振舞って、自由に恋をして、愛する人と結ばれたい!」
ツッコミどころ満載である。
娘のお目付けがなければ第五王子などリードの放れた躾のなってない犬である。まったく…我が甥ながら……
「では、わたくしはもう必要ない、と?」
「そっ…そうだ!」
「国王陛下の御前で……皆様の前でそれを言うからには覚悟がおありですね?」
「おっ…おう……」
「…………陛下?」
これに慌てたのは兄である国王だ。
「待て、待て待て待て待て待て。ディアナよ、ここで決定して良い話ではなかろう」
「へ、い、か?」
……ヒッ!
会場中が息を飲んだ。
『女神の溺愛』という最上級の加護を持つ娘の『威圧』、半端なかったです…
「わたくしは、恥を、かかされたので、ございますよ?…ね?王妃陛下?」
「許しましょう」
「エリザベートオオオオオオオ!」
兄夫婦の力関係が浮き彫りになる瞬間である。我が王家は殆どの夫婦が嫁の尻に敷かれているのだ。しかも、王妃はそもそもこの婚約には反対だったのだ。溺愛している姪のディアナの婚約者が、王が内緒で囲っていた愛妾の息子だと言うことに猛烈に腹を立てていた。
「ディアナ・ランカスターと第五王子ルードヴィッヒの婚約は解消するものとする!」
王妃が高らかに宣言する。王子と違い、実に腹に響く声だ。
「「「「「………っしゃああ!!」」」」」
娘が拳を振り上げた。
と、同時に、同様に拳を振り上げた者たちがいた。
ムシャクシャしてやった。後悔はしていない( ー`дー´)キリッ