人間として
「・・・落ち着きましたか?」
「うん・・・ごめんね、急に・・・」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それにしても、桜花さんって、すごく優しくてお淑やかな人だって聞いてたんですけど、あんな風に取り乱したりするんですね。あと、意外と怪力ですね」
落ち着きを取り戻した私に、紫月くんが笑いかける。
端から見ればドキドキしてしまうような優しい笑顔も、小馬鹿にしたように言われていると、少し憎たらしい。
「失礼ねー。女の子に向かって怪力はないでしょう」
「ごめんなさい、禁句でしたね」
謝るときもニコニコしている紫月くんに、若干の苛つきを覚える。
そのままムッとした顔をしていると、ついには吹き出す紫月くん。
お父さんと互角なくらいムカつくかもしれない。
「もう、からかわないでよね。・・・で、お父さんのところに行くんでしょう?案内するわ」
「やあ、良く来たね、神凪紫月くん。俺は天花寺淳人。桜花の父だ」
威圧感のある、髭を生やした大柄な男性。
この人は、私の父である天花寺淳人。
見た目に反して茶目っ気のある性格をしている。
「桜花の母の、天花寺志織よ。よろしくね、紫月くん」
明るい笑みを浮かべる綺麗な女性は、母である天花寺志織。
こちらは見た目通り明るい。
「初めまして、神凪紫月です。これからお世話になります」
「ああ、よろしく」
こうして見ると、とてもこれから家族になる人同士には思えない。
まるでホームステイをする留学生と、ホストファミリーみたいな・・・
・・・少し例えが分かりにくいような気もするが目を瞑っておいてほしい。
「紫月くん・・・いや、紫月。これから俺たちは君の家族になる。気軽に接してくれ」
「えっと・・・気軽にとは、どのようにすれば・・・?」
「俺のことはお父さん、志織のことはお母さんと呼び、桜花のことは・・・まあ何でもいい」
「なんで私だけそんなに雑なのよ!」
「はい、分かりました、お父さん」
「なんで素直に言うこと聞いてんのよ!」
ブチギレた私を無視して父は続ける。
「そして、今回鷹矢の身勝手でこのようなことになってしまった。本当にすまない。確かに桜花のことは大切だが、君の命を無理矢理奪ってまで治療の効率を求めることはしない。安心してくれ」
「・・・ですが、僕はそのために生まれてきたのですよ」
「違う。君にはクローンとしてではなく、神凪紫月という一人の人間として生きる権利がある。人間が持っていて当たり前の権利だ。邪魔させはしない」
父のその言葉に、一瞬、紫月くんの顔から笑みが消える。
が、すぐに元の表情に戻った。
今のは、一体・・・・・・
「・・・そうですね。では、一人の人間としての生活を、楽しむとしますか」
こうして、私たちとクローン少年は家族となった。