建前と本音
紫月くんが静かに目を閉じて、開く。
「貴方の伯父に、天花寺鷹矢という方がいるでしょう?」
「いるわね・・・いっつも険しい顔してるわ」
「実は、その伯父様が貴方のことを大変溺愛していらっしゃってですね・・・」
「は!?そうなの!?」
私は思わず大声を上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。
伯父は、会うときは常に怖い顔をしていて、私は会話するときもビクビクしていた。
まさか、そんなことがありえるの?
「随分と驚いてらっしゃるようですけど、事実ですよ?それに、クローンのことは伯父様が命令したことですし」
「何よそれ、詳しく聞かせて」
「はい。桜花さん、貴方は3歳の頃、突然心臓の不調によって病院に搬送されたそうですね?」
「え、うん・・・そういえばそんなこともあったわね・・・・・・」
「それが全ての始まりなんですよ」
紫月くんが悪戯っぽく笑い、続ける。
「その後貴方は一命を取り留めましたが、下手したら死んでいました。まあ、それを見て貴方を深く愛する伯父様が黙っているわけがありませんよね?」
「あ・・・・・・」
「ふふ、察しましたか?・・・伯父様は、また貴方がこのようなことになって、命を落とすのを恐れた。そこで、万が一のため・・・貴方の臓器やら何やらがダメになってしまった時のために、移植のドナーが必要だったんです。しかも、何の拒否反応も起こさずに移植できるドナーが。・・・・・・ここまで言えばもう分かりますよね?」
紫月くんが次に言いたいことが分かった。
でも、口にするのが恐ろしかった。
身内が、こんな惨たらしいことをしていたなんて、私には考えられなかった。
「貴方が何かの病にかかり、ドナーが必要になったとき、すぐに移植ができるように。僕は貴方の、替えの部品なんです。・・・優秀な人材が必要、というのは建前でしかない。伯父様は、貴方にどうしても生きてほしいんでしょうね。僕に拒否権なんてないそうですよ。貴方が必要になるのなら、心臓や肺、その他諸々を大人しく差し出すだけ。僕はそのためだけに生きているんです。酷い話でしょう?」
「っ・・・酷いなんてもんじゃないわ!腐ってる!!人権を剥奪されて、私のドナーになるためだけに生きてるだなんて・・・こんな酷い話はないわ!」
紫月くんの話を聞いているうちに、伯父への怒りがふつふつとこみ上げてくる。
ついには怒鳴ってしまった。
「ま、まあまあ落ち着いて。僕も覚悟はできてますから」
この少年も、なぜヘラヘラと笑っていられるのか。不思議でならなかった。