クローン少年との出会い
「初めまして、天花寺桜花さん。僕は神凪紫月。貴方のクローンです」
「・・・は?」
目の前に突然現れた少年の言葉に、私は目をパチクリさせる。
歳は15歳ほど。私の4つ歳下くらいだ。
青みがかった黒髪に桔梗色の瞳、白い肌。女の子にも見える、整った中性的な顔立ち。
目の色も、髪の色と髪質も、私とその家族によく似ていた。
「え、ちょっと待って。私のクローン?どういうこと?」
「今お伝えした通りですが・・・」
「うん、そうなんだけどね?いつどこでどうやって私のクローンができたの?」
クローンとは、人間の卵子に別人の遺伝子を組み込むことによって生まれる、分身のようなものだ。
何故私のクローンが?というか、日本でクローンを作ることは禁止されていたんじゃなかったの?
様々な疑問が湧き上がってくる。私はそれを振り払うように目の前の少年、紫月に説明を求めた。
「少し長くなりますが、それでいいのなら」
「構わないわ。気になるもの」
「分かりました。では、お話しします」
紫月くんは少し間を置いてから話し出す。
「・・・まず、桜花さん。貴方は幼少の頃から、非の打ち所がない天才少女だった。そうですね?」
「へ?まあ、周りからはそう言われてたけど・・・・・・でも、なんで私?っていうか、なんでクローンが必要だったの?」
唐突な質問に驚きつつも、私は頷く。
将来は偉大な人物になる。
大財閥の令嬢として生まれ、様々な習い事に挑戦していた私は、自分で言うのもあれだけど、周囲の人から期待の眼差しを向けられていた。
お父さん曰く、3歳で、足し算引き算だけでなく、かけ算割り算も完璧にできるほどで、習い始めたピアノも、僅か半年でピアノ歴5年の子供の実力を超えたらしい。小さい頃のことなんてよく覚えてないけど。
しかし、よりによって何故私のクローンが作られることになったのだろう。
不思議だった。他にも優秀な人は沢山いるのに。
「ちょっと、一気に質問しないで下さいよ・・・まず、何故クローンが必要だったのかという点から。簡単に言ってしまえば、優秀な人材を増やしたかったからなんですよ。10年に一人とか言われる天才のクローンを作り出せば、人工的と言えども優秀な人間が増えていくわけですから。まあ、これだけが全てではないんですけどね」
「全部話して。私、知りたいの」
勿体ぶる紫月くんを急かすと、彼は少し顔を曇らせる。
「・・・・・・どうしてもと言うのなら。ショックを受けても自己責任でお願いしますよ?」
紫月くんはそう言って、悲しげに笑った。