勅命書
またまた更新遅くなりすみませんm(_ _"m)
もうしばらくリアル多忙が続きそうです(;´・ω・)
少しずつでも書き進めていくのでよろしくお願いします。
「あれ?誰か来たね」
朝食中にシキが立ち上がった。
本当になんで分かるんだろう?
それにしても、前によく似た状況があったな。
思い出して、フィオナも立ち上がって後について階段を降り一階へと向かった。
「よお!おはよう!シキにフィオナちゃん」
「ナック隊長なんですか?またこんな朝早くに」
「はい、お届け物。今日はフィオナちゃんにだよ。ん?あれ、その首……」
今日は魔植物園内での仕事なので、気にせず髪をまとめていて、うっかりキスマークの事を忘れていた。ばっと手で首を隠すが、ナック隊長はにやにやとした笑みを浮かべている。
「いやあ、派手にやられたねえ。どおりでアルトが元気ないわけだ!そっかあ、なるほどねえ」
「ナック隊長、フィオナいじめるのやめて貰えます?」
「えー、いじめたのは君でしょ?」
そう言われてシキが黙り込む。
「はいこれ、フィオナちゃん宛に書状ね」
渡された封書には、差出人の名前が書いておらず、金色の封蝋で閉じられている。
「それって国王からの勅命書!?」
シキが封蝋を見て不審そうな声を出した。
「え!?」
よく見れば封蝋の紋章は国王を示すものだった。
恐る恐る封を開けて、中に入っている書状に目を通した。
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魔植物園所属のフィオナちゃんへ
先日のオーム山脈での魔獣討伐ご苦労様でした。
ところで君、討伐中にコロラ王国のヒュラン王子を助けたでしょ?
ヒュラン王子が君にお礼をしたいから、コロラ王国で行われる、討伐成功の式典に招待したいって直々に書状が来たよ?断れないから行くって返事しちゃったから。
出発は二日後の正午。
リヒト副隊長と、セオ隊長、あと息子のケインと護衛が一緒にいくから準備しといてね。
とは言っても、式典はローブで出ればいいから、ドレスとかは準備しなくていーよ。
分からない事が合ったらリヒトにでも聞いて。
じゃあ、よろしくねー。
国王レイヴン
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なんだこのチャラい手紙は。
本当に国王が書いたのか。手紙を見つめたまましばし固まる。
それにしても、ヒュラン王子から直々に指名がくるなんて。
ものすごく行きたくない。
あからさまに嫌な顔をすると、シキが怖い顔で尋ねてきた。
「フィオナ、なんて書いてあった?」
説明するより早いと、無言でその書状をシキに渡した。
手紙を読んだシキから一気に殺気が膨れ上がる。
そんな殺気丸出しのシキに対して、しれっとナック隊長はもう一通封書を差し出す。
「シキ君あとこれはルティアナ様に書状ね。言っておくけど、君勝手に見ないでよ。これも国王からルティアナ様への勅命書だから」
思い切り舌打ちしてシキは手紙を受け取ると、忌々し気にナック隊長に尋ねた。
「これの護衛って誰がいくの?」
「ケイン王子の近衛が数名と中央騎士団から十名ほど」
「少なくない?」
「仮にも友好国だからね。大げさにできないよ。その代わり精鋭が行く。それにリヒトにセオ、フィオナちゃんでしょ。そこらの騎士団一部隊より圧倒的に強いくらいじゃない」
なんだか物騒な話をし始める二人の会話に思わず口を挟む。
「これってただの式典へ行くだけなんですよね!?なんでそんな戦力がどうこうって話になるんですか?何かの討伐じゃないんでしょう?」
シキとナック隊長が二人そろって苦い顔をする。
「フィオナ、ヒュラン王子と話した?」
「話しましたよ?」
「どうだった?」
「どうって、その、なんというか……」
ちらりとナック隊長を見ると、苦笑いして何がいいたいのか察したように口を開く。
「大丈夫。正直に言ってへーき。誰にもいわないから」
「じゃあ、正直に言うと、めちゃくちゃ腹の立つ王子でした。我儘だし、偉そうだし、あ、偉いんだろうけど……。部下を見殺しにして自分だけ助かろうとしようとする人だし。シキが持たせてくれたポーションを大した怪我でもないのに奪っていったり。とにかくすごく嫌な奴で、二度と会いたくないって思いました」
一気にまくしたてると、シキが更に苦い顔になる。
「フィオナにそこまで言われるとか、噂以上の屑王子らしいね」
「だねえ。国王も、本当は断りたかっただろうけどねえ」
「とにかく悪評の絶えない王子なんだよ。なにか裏があるとしか思えないよ」
「でも、レイヴン国王とコロラ王国のフェリクス王はとても仲がいいんですよね?」
王子がなにかくだらない事を考えていたとしても、フェリクス国王が好きにはさせないのではないだろうか。というか、国王はあの王子をもう少しなんとかできないのか。
「そうなんだけど、昔からフェリクス国王とヒュラン王子は仲悪いので有名だからね。だからヒュラン王子からの招待というのが国王もどうも引っかかっているみたいなんだよね。まあ、あの人の事だから色々探りは入れているんだろうけど。そんなわけで、フィオナちゃんも一応警戒だけはしておいてね」
ナック隊長が帰るとシキが後ろから覆いかぶさるように抱きついてきた。
「信じられない。やっと帰ってきたと思ったのに。ルティに言ってフィオナを行かせないように国王に直談判してもらう」
首筋に顔をうずめながら言うシキは本気だ。
「シキ、だめですよ。私も行きたくないけど、友好国からの正式な招待なら断ると角が立ちます」
「そんなの上の人間がやればいい。こっちには何の関係もない。討伐で一か月も遠征に出して、その上くだらない式典の為にまた半月以上もここから離れなきゃいけないなんて馬鹿げている」
半月以上?
言われてみれば、コロラ王国まで魔導馬車を使って行った場合、五日はかかると聞いた。そこから王都までも数日かかるだろう。往復だけで半月。更に式典に出席となればコロラ王国に二、三日留まる事になるだろう。
安易にちょっと式典に出席するだけと考えていたが、思っていたより大事になりそうな事に今更ながらに不安がこみ上げてきた。
「それに招待してきたのがヒュラン王子だっていうなら尚更行かせられない。同行者にケイン王子もいるし。もう絶対に嫌だ」
きつく抱きしめられて、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
自分だって行きたくはないのだ。
本気で頼めばルティアナの権力を使って、欠席することも可能だろう。
でも、やはりそれは違うような気がする。
「シキ、私も行きたくないです。でも、ルティの力を使って自分だけ行かないのはなんかズルしてるみたいで嫌なんです」
きつく抱きしめている腕に手を添えてそうつぶやくと、首元で深く息が吐き出される。
腕をほどかれて、向かい合う様に身体を回される。
頬に手を添えられた。
キスされるのかなと、じっと見上げていると、顔が近づいてきて、ゴツンと軽く頭突きをされてしまった。
「いった!何するんですか!?」
「八つ当たり。そんな風に言われたら、行かせないって言えなくなっちゃうじゃない。ああああ、嫌だ。だけどいい大人で、上司の僕が自分の我儘の為だけに行くなとは言えないし。はあ……、何だろう。僕の日ごろの行いそんなに悪いのかな」
苦悩で悶えているシキに思わず吹き出してしまう。
「笑いごとじゃないよ。やっとフィオナが帰ってきて、好きだって言ってもらえて、もうすぐ抱けるって思ってたのに……」
そう言えば、避妊薬は作るのに五日かかると言っていた。シキはまだ素材集めも終わっていないようだったから、出発までには間に合わないだろう。
さすがに可哀想になってしまい、シキの頭に手を伸ばして、ぐっと引き寄せ唇を合わせる。
自分からちゃんとキスをするのは初めてで、なんだかすごく恥ずかしい。
唇を離して、そっとシキの顔を伺うと、目を丸くして固まっていた。
「えっと、シキ、私も離れちゃうの寂しいです。でもこれも仕事だと思うので、ちゃんとやりたいです。だめですか?」
「……分かったよ。フィオナからキスしてくれたから、ちゃんと待ってる」
「ありがとうございます」
ぎゅっと抱きつくと、それでも諦めきれないのか頭の上から盛大なため息がおりてきて、こっそり笑ってしまった。
朝食を片付け、リヒトの所へ詳しい話を聞きに行くと告げ、管理棟を出た。
リヒトの所へ行くと、すぐに何をしに来たのか察したようで、苦笑いを浮かべて個室へと通してくれた。
「いやあ、面倒な事になってしまいましたねえ」
「でもリヒト副隊長とセオ隊長が一緒だと聞いて、少しほっとしています」
「なんでも馬鹿王子の書状には招待者にあなたの名前しかなかったそうですよ?どれだけ馬鹿なんでしょうねえ?国で行われる式典に王族も呼ばず、一介の王宮魔導士一人呼び出すなんて、あなたを狙っていますと言っているようなものですよ。討伐の時も、あの馬鹿王子はあなたの事を勧誘していましたからね。充分気を付けないとですよ」
「私だけ!?じゃあリヒト副隊長やセオ隊長は呼ばれていくわけではないんですか!?」
「ええ、国王がさすがにあなた一人をいかせるわけにはいかないので、ヒュラン王子救出に関わった中で役職の者をという事で、私とセオ隊長が選ばれたんです。それにこちらからはケイン王子が行きますからね。その護衛も兼ねてでしょう」
「リヒト副隊長すみません。巻き添えにしちゃったみたいで。遠征から帰ったばっかりで、また半月以上も出かけなきゃなんて、奥さんとお子さん寂しがっていませんか?」
「うちは大丈夫ですよ。奥さんも娘もまあ、なんというか自立性が強いというかお転婆というか、いないならいないで、好きに楽しくやっているような人達なので。あはは」
「そうなんですか?」
「それよりあなたの方が大変なんじゃないんですか?すっかり忘れて髪上げたままここに来ているけど、まだ首目立ちますからね?」
「あ!」
指摘されて慌てて髪を降ろし、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「私としては、シキ君が暴走するんじゃないかって思って、そっちの方が心配ですよ。何せ昔色々やらかしてますからね」
「それって薬剤室を半壊させたとか、そんな話ですか?」
「おや、知っていましたか。シキ君から聞いたんですか?」
「いえ、ちょっと噂で。詳しくは知りませんけど」
「じゃあ、詳しくはシキ君にそのうち聞いたらいいですよ。ともかく怒らせたら怖い人ですからね」
「シキはちゃんと言い聞かせてきたので大丈夫ですよ」
「え!?」
リヒトが驚きながら軽くのけぞる。
「あのシキ君を言い聞かせられる人がルティアナ様の他にいるなんて……」
いつも思うのだが、王宮内におけるシキの評価というのは大抵良くない。主に人間性の部分において。
「なんだかシキって、どこに行っても評判悪いですね……」
「いやいやそんな事はないですよ?私はすごい人だと思っています。おそらく魔導士としての強さなら私だっててんで敵わないし、知識や技術も飛びぬけてますからねえ。ただ、ルティアナ様以外の他人に心を開かないから、周りとうまくやれずに敬遠されているって感じでしょうか。でも、君が来てから少し変わったのかもしれませんねえ」
確かにシキにはそういうところがある。
唯一の親友アキレオの事さえ、最初は友だと認めたがらなかったくらいだ。
「まあ、とにかくあなたに何かあれば、シキ君が魔王と化して王宮を更地に変えるくらいはしそうなので。私も十分気を付けてお供させてもらいますから、安心してください。何せ弟子はすでに山一つ更地に変えてますからね」
「くうっ!」
痛い所を疲れて、がっくりとうなだれた。
その後、リヒトからコロラ王国までの詳しい行程を聞き、フィオナは警備部を後にした。
てくてくと王宮内の通路を歩き、少し考えて立ち止まる。
通路の真ん中でぼんやりと立ち止まったフィオナを、通りがかった人達が不思議そうに振り返っていった。
明後日コロラ王国に行ってしまったら、シキとはまた半月以上会えなくなってしまう。
頭の中でぐるぐると何度も考え、フィオナは覚悟を決めて、医療室へと足を向けた。