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ひと月ぶりに

いつも読んでいただきありがとうございます。

ブクマ&評価、とても励みになっておりますm(_ _"m)


活動報告にも書いてありますが、体調不良とリアル多忙が重なり、文章を書く時間が取れず、ストックが底をつきかけております。

拙い文章を読んでくださっている皆さまの為にも、せめて毎日更新しようと努めてきましたが、どうにもこうにも間に合いそうもなく、九月中は不定期更新になりそうです。


大変心苦しいのですがご了承願えればと思います。

できうる限り早めの更新をしていきたいと思いますので、今後もよろしくお願いいたします。

 ぽかぽかぽかぽか、暖かい。

 久しぶりの大好きな人の匂いがする。

 顔をその広い胸にすりすりと擦り付けていると、ぎゅうっと抱きしめられた。


 頭が急激に覚醒してくる。

 ぱちりと目を開ける。シキの胸元にぴたりと頬を寄せている自分がいた。

 顔を上げると、シキがくったりと目を閉じて眠っている。


 昨日の夢じゃないよね?

 シキが自分の事を好きだと言ってくれた。それもちゃんと女として。

 好きだ、愛してると言われ、何度もキスされた事を思い出して、途端に恥ずかしくなってしまう。

 それでも嬉しくて、幸せすぎて、胸がいっぱいで苦しい。


 腕をまわしてぎゅっと抱きついて、シキの胸に顔をうずめて匂いを吸い込む。


 すりすりくんくんとしていると、ひときわ強く抱きしめられて、かすれた声が降ってきた。


 「……何してるの?」

 「シキの匂い好きだなと思って」


 そう言って、ぐりぐりと顔をこすりつけると、突然シキが動いて組み敷かれてしまった。


 「何それ?誘ってるの?」


 そう言われてシキの唇に塞がれる。

 シキのキスは気持ちいい。身体が溶けてしまいそうになる。

 されるがまま受けて入れていると、唇が喉を伝って、首筋を舐められた。

 更にシキの手が服の中にもぐりこんできて、素肌を撫で始める。


 「え!?ちょっと、シキ!やっ!何するの!?」

 「何って、誘ってるみたいだから抱いちゃおうかなあって……」

 「さ、誘ってない!待って!シキ!お願い!」


 必死でやめてと懇願すると、シキの手と唇が渋々止まる。

 じっと見つめられ、少し悲し気な顔でささやかれた。


 「嫌?」


 ずるい。嫌じゃない、嫌ではないんだけど。


 「い、嫌じゃないけど、その、心の準備が……」

 「……」

 「その、やっと気持ちを伝えられたばっかりで、あの、そういう事はまだちょっと早いというか、怖いというか、嫌ではないんだけど、その……」


 しどろもどろでなんとか伝えようとすると、シキはくすりと優しく笑って、おでことおでこをこつんと合わせてきた。


 「分かった。じゃあ今日は我慢する」


 今日は!?しばらくは我慢して欲しんだけど!

 それでもシキの辛そうな顔を見たらそうは言えず、つい謝ってしまう。


 「シキ、ごめんなさい……」

 「いいよ。フィオナ、大好きだよ」


 そう言って軽くキスされて、ほっとする。

 とりあえず、シキの気が変わらないうちにと、ベッドから起き上がった。


 「シャワー浴びてきますっ」


 勢いよく部屋から飛び出し、バスルームに駆けこむと、シャワーを浴びながら反省したのだった。

 すりすりして匂いを嗅ぐのは誘うという事なんだなと。



 「ルティ、おはようございます」

 「ルティおはよう」


 シルフと共に散歩から帰ってきたルティアナに挨拶をすると、ピンクの瞳がじっとフィオナとシキを捉える。


 「やーっとくっついたか。まったく散々世話掛けさせやがって、せいぜい倍にして恩を返しなよ」


 にたりと笑うルティアナの前で、シキが後ろから抱きしめて来る。


 「シキっ!?」

 「いいじゃない。もうルティ公認なんだから。ルティ、昨日はありがとう。今晩三人で飲もうか」

 「そりゃあいいね。シキ、こっそり隠している酒、あれ持ってきなよ」


 抱きしめていた腕がびくりと強張る。


 「え……。なんのこと?」

 「私に隠し事できると思ったら大間違いだよ。キッチンの床下の更にその奥」


 シキががっくりと首に顔をうずめてくる。

 どうやら隠していたへそくりが見つかってしまったようだ。

 可哀想になってつい頭をよしよしと撫でてやると、シキの顔は幸せそうに蕩けた。


 「まったく腑抜けた顔をして。ほら、二人ともさっさと仕事しなよ。あと仕事中いちゃつくのはほどほどにな」


 ルティアナはそう言って二階に上がると研究室へこもってしまった。


 「ほどほどならいちゃついていいって事かな?」 

 「シキ!だめですよ!ほら、仕事しましょう」


 シキから離れて、軽く叱ると、ふわりと優しく微笑まれてしまい、ちょっとだけならいいかなと心が揺らいでしまった。



 久しぶりの魔植物園に、フィオナは思い切り深呼吸して森の空気を吸い込む。気持ちがいい。

 後ろからついてくるマッド君三号にも、嬉しくてつい顔が緩んでしまう。

 ゆっくりと箒を飛ばしていると、蔦やムスビソウ、ツヅラフジがわらわらと集まってきた。


 「みんな久しぶり。ただいま」


 箒から降りて、彼らを撫でて声を掛けると、森中がわさわさと答えるようにざわついた。


 「フィオナは本当に森に愛されてるよね。でもあんまりフィオナにべたべたまとわりつかれると、ちょっとむかつくね」

 「は?」


 箒から降りたシキに、突然抱き寄せられて、深くキスをされる。


 「あっ、ん、シキ、こんなとこで……」

 「わざとしてるんだから、黙って」


 そのままシキに身をゆだねて、キスされていると、蔦達は、渋々フィオナから離れて森に消えていってしまった。

 それを見てシキはやっと離してくれる。


 「ふん、思い知ったか」


 あまりの子どもっぽい捨て台詞に、思わず堪えられずに笑ってしまう。

 でも可愛い。こんなシキも大好きだ。


 今日は久しぶりに畑の管理をする。

 わさわさと揺れているチューリップ畑も、ひと月ぶりで懐かしく感じてしまう。


 「はあー、なんだかやっと帰ってきたんだなあって実感しますねー」

 「久しぶりの園内はどう?」

 「なんだか心が落ち着きます。シキ、チューリップの水やりと肥料が終わったら、芝生でちょっとだけお昼寝しませんか」

 「いいよ。じゃあさっさと仕事終わらせちゃおうか」


 シキはそう言ってフィオナを撫でると、他の畑の管理に行ってしまった。


 チューリップに近づくと、久々のその迫力に一本後ずさりそうになる。

 ワイバーンを倒せても、デーモンミノタウロスを倒せても、目の前のチューリップにたじろいでしまうのは何故だろうか。


 思い切ってチューリップに近づくと、あっという間に口に花びらを押し付けてきて、めしべが口の中に入ってくる。

 

 相変わらず激しいっ!


 口の中をめしべに蹂躙されながら、蜜を舐めとるとその甘さに違和感を感じた。

 あれ?糖度が随分落ちてる?

 それともひと月も離れていたせいか、味の感覚がおかしくなっているのだろうか?


 ひとまず離れて、他の区画のチューリップの味も確認するが、やっぱり甘さがひどく薄く感じる。これだと、ポーションに影響が出てもおかしくないくらいだ。


 こんなになるまでシキは気付かず放って置くだろうか?それは絶対に有り得ない。

 それならやはり、自分の味覚がおかしいのか?


 不安になっていつもより多く、チューリップの味を確かめていく。

 魔植物園に来てから三ヶ月過ぎた頃から、身体に耐性ができ始め、催淫効果が前より効きにくくなっていたのだが、さすがにいつもよりかなり多く蜜を舐めすぎたせいか、全ての区画の糖度を確認し終わった時には、ふらふらになってしまった。


 まるで魔植物園に来たばかりの時のように、催淫が回ってしまい、身体は熱く火照り、足はガクガクして立っていられなくなってしまう。


 しかも特区に行くわけではないからと思って、ポーションの入ったポーチを研究棟に置いてきてしまった。


 さすがにまずいと思い、心配そうに近くに寄ってきたマッド君三号にシキを呼んできてと頼む。

 マッド君は精いっぱいの速度で、森の中へと消えていった。


 もうチューリップ畑の管理なんて、慣れていた筈なのに、帰って早々こんな風になってしまうなんて。

 座っても居られなくなって、芝生の上に転がり、ぼうっと何も考えられなくなる頭と熱く火照る身体に身悶えしながら、段々身体が痺れていく感覚にまずいなと思う。


 意識が飛びそう。


 耐えられず、目を瞑って落ちそうになった時、シキの声が聞こえた。


 「フィオナ!?」


 口を開こうとして、熱い吐息しか出せず、虚ろな目でシキ見ると、ポーションを口に含んでいるのが見えた。


 抱きかかえられて、ポーションを飲まされる。

 いつもされている事なのに、なんだかおかしい。唇がふれた途端、身体がどんどん熱くなって、シキをもっと欲しいと思ってしまう。


 いつも通り三回にわけて飲まされて、シキが離れていくと、途端に寂しく感じてしまい、涙目になる。


 「フィオナ、大丈夫?すっかりチューリップには慣れたと思ってたけど。ひと月空けちゃったからかな?」

 「シキ……。もっと……」


 かろうじて出るようになった声で、シキを見つめて懇願する。

 もっと欲しい。シキにふれて欲しい。


 「ああ……、もう、フィオナ、相当催淫回ってるね……。だめだよ、今したら、フィオナ止まんなくなっちゃうよ?」

 「や……。シキ、して」

 「もう……」


 シキの唇が優しくふれてくる。

 それだけで、身体が燃え上がるように火照り出す。

 こんなこと今まで一度もなかったのに。

 今ならもう何をされても構わないから、ふれるだけのキスじゃなくて、もっと深くして欲しいと、シキの唇を舐めた。シキは驚いて、ぱっと唇を離すと、せつなそうな顔をする。


 「ちょっ!フィオナ、だめだって。あーもう、何この拷問。今朝今日は抱かないって言っちゃったし、あー、本当、辛い。ポーション早く効いて」

 「シキ……」

 「そんな甘い声出さないで」

 「シキ、好きぃ」


 自分で自分が何を言ってるのか訳が分からなくなっていく。

 急に目の前を大きな手がふさいできた。

 暖かい何かに頭を乗せられる。多分シキの膝だ。


 「フィオナ、ちょっと寝ちゃって」


 目を塞がれて、そっと頭を撫でられると、それはそれで気持ちよくて、うつらうつらしてくる。

 眠りに落ちる瞬間耳元でシキの声がした。


 「あー、もう、明日は絶対抱く」



 お昼ご飯のカレーを作りながら、フィオナは死ぬほどへこんでいた。

 まさかチューリップの催淫で、自分があんななにおかしくなるとは思わなかった。

 どんよりと鍋をかき回していると、後ろからシキに頭を優しく撫でられた。


 「そんなへこまないで」

 「まさかたったひと月空けただけで、チューリップ畑で倒れるとは思ってませんでした」

 「びっくりしたよ。だいぶ耐性がついてきたと思ってたのに」

 「なんか、糖度がすごく落ちてる気がして、でもひと月ぶりだから、味覚の方がおかしいのかなって、いつもより沢山の蜜を舐めちゃったんです」

 「そういう事か」

 「でも、シキがあそこまで糖度下げる事ないはずだから、やっぱり私の舌がにぶっているのかな……」


 そう言ってがっくり肩を落とすと、シキが何故か視線を彷徨わせて、ぼそっと白状した。


 「ごめん。実は一週間肥料あげてなかったんだ」

 「え!?」

 「チューリップの蜜は在庫いっぱいあったから、ちょっとサボった……。寝不足が続きすぎて身体が流石に辛くて、後回しにしちゃってた。ごめん」

 「なんだあ……、良かったあ。私ひと月で糖度チェックも出来なくなっちゃったのかと思った」

 「いや、そんな事はないよ。ちゃんと合ってる。最初に言っておくべきだったね。そうすれば、あんなにフィオナが催淫にやられる事無かったのに」


 チューリップ畑での自分のとんでもない発言と行動を思い出して、急に恥ずかしくなって、顔がボンと熱くなる。


 「今まで、あんな事、なかったのに……。最初の時だって、動けなくなったけど、あ、あんな、変なふうにはっ。まさかチューリップに何か改良でもしたんですか!?」

 「してないよ」


 シキがくすりと笑う。


 「だったらなんでっ」

 「なんでって、そんなの決まってるじゃない。フィオナが僕の事好きで、欲しいって思ってくれてるからでしょう?」

 「え!?」

 「だから僕としては逆に嬉しかったけど。あー、でも軽い拷問ではあったかな」


 何も言えなくなって、顔を真っ赤にしながら、わなわなとシキを見てると、耳元でささやかれた。


 「やっぱり今晩抱く。ちゃんと心の準備しておいてね」


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