表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/127

予期せぬ遭遇

 翌日一番隊のメンバーは、それぞれ箒の後ろに騎士を乗せて山頂へと向かって飛んでいた。


 「イアン副隊長、大丈夫ですか?しっかり捕まっててくださいね」

 「大丈夫ですよ。あまりしっかり捕まると、睨んで来る人がいますので」


 よくわからず首をひねると、ロアルとその後ろに乗っているアルトゥールが箒を寄せてきた。

 なかなか良い光景である。

 思わず、にたあと笑みがこぼれてしまった。


 「フィオナ、やっぱりお前何か勘違いしてるだろ」


 ロアルがぐいっと箒を寄せてきたので、バランスを崩したアルトゥールが、ロアルの腰をがっちり掴んで、落ちないようにと慌てている。


 それを見てまた、にたりと口が緩んでしまい、ロアルがため息を吐く。


 「ロアルさん、気にせずに。私口は固い方です」

 「だーかーらー」

 「おい、ロアル、そんなに揺らすなっ!」


 必死にロアルにしがみつくアルトゥールが可愛くて仕方がない。


 「ほら、ロアルさんアルトが困ってますよ」


 ニマニマしたままそう言うと、ロアルはもう諦めたのか、再びため息を吐いて離れていった。


 「フィオナさん、随分楽しそうですね」


 後ろから、笑みを含んだ声でイアンが話し掛けてくる。


 「はい!朝から良いものを見させて貰いましたっ」

 「ははっ、それはそれはなんと言うか、ご愁傷さまって感じでしたね」

 「はい?」

 「いえいえ、なんでもありません。まったくあなたは大したものです。これから第一級魔獣がいるかもしれない場所に行くっていうのに」

 「ああ、そうでした!気を引き締めないとですねっ」


 くすくす笑うイアンを乗せて、フィオナは山頂目指してぐんとスピードを上げるのだった。



 昨晩到着した騎士団はおよそ五十名、それから、医療室から三名だ。まだこの後、物資を持った後方支援チームがこちらに向かっているらしい。


 到着したセオ隊長とイアンはリヒトから状況を聞くなり険しい顔をした。

 思っていたよりも深刻な状況に、三人は話し合った結果、山頂に討伐に行くのは、リヒト率いる一番隊と騎士団の精鋭十人程度という事になった。


 なにせ、第二級魔獣がうようよいて、その中には第一級魔獣がいるかもしれないのだ。

 実力が伴わない者を連れて言っては足手まといになるとの判断だった。


 そういうわけで、残りの騎士達には、ベースキャンプの設営と、山の麓付近に魔獣が残っていないかを見回って貰っているのだ。



 山頂の少し手前で、セオ隊長を後ろに乗せたリヒトが、下に降りるように、合図をしてきた。

 それに従って皆森の中に降りてゆく。


 「皆さん、ここからは歩いて行きましょう。なるべく気づかれたくないですからねー」


 リヒトは相変わらず口調こそ穏やかだが、目つきが完全に戦闘モードになっていた。


 山頂に近づくにつれて、むせ返るような瘴気が漂ってくる。

 思わず顔を歪めて口を覆うと、隣を歩いていたアルトゥールが心配気に聞いてきた。


 「フィオナ大丈夫か?こういう遠征は初めてなんだろう?」

 「え、うん、大丈夫」

 「アルト、お前昨日のフィオナを見たら驚いてたぞ。リヒト副隊長と二人で数百匹の魔獣を殲滅させたんだから」

 「え……。数百匹?」

 「そんなにいなかったよ、二百匹ちょっとかな?多分」

 

 口元を抑えながら答えると、それでもアルトゥールは心配そうな顔を向ける。


 「そうだとしたら、なおさら疲れているんじゃないのか。気持ちが悪いのか?」

 「違うの、臭くて」

 「え!?」


 アルトゥールがフィオナからさっと距離を取って、自分の服をそっと嗅ぐ。


 「違う違う、瘴気がだよっ」

 「あははっ!アルト、お前馬鹿だな」


 小声で言い合っていると、前を歩くセオ隊長がくるりと振り向いた。

 ただでさえ怖い顔つきに、ギロリと睨まれるとめちゃくちゃ怖い。

 三人とも慌てて黙りこくると、セオ隊長は口元に人差し指を当てて、しーっという仕草をした。


 その顔でその仕草、怖いけど可愛いです。


 間もなく山頂というところで一気に瘴気が濃くなり、うっと呻いてしまう。リヒトも同じようで、ひたすら眉間にシワを寄せて嫌な顔をしていた。

 

 木々の向こうに開けた場所が見える。山頂だ。それと同時に、禍々しく蠢く魔獣の群れが見えた。


 「では行きましょうか。私の魔法が発動し終わったら皆さん一気に攻撃して下さい」


 リヒトが範囲魔法の体勢に入ったので、フィオナも横で同じように範囲魔法を発動する。


 最初にある程度減らしておいてしまいたい。


 二人の魔法が着弾すると同時に、一番隊と騎士達が一斉に山頂に向かって走っていった。


 山頂はかなり広い草原のようになっていた。

 そして、その草原全体に何百匹もの魔獣が蠢いている。


 「フィオナさん、私達は空から向こう側の魔獣を範囲魔法で片っ端からやって行きましょう。ここに集まられると面倒です」

 「はいっ!」


 今日はもう遠慮するつもりはなかった。見れば第二級の魔獣がかなり多い。長引くとまずいと勘が告げている。


 魔力の消費を考えず、仲間達の方へ届かないギリギリまで広範囲に魔力を展開し、光の矢を降らせていった。


 「やっぱり強いですね。一撃じゃ倒れてくれません」

 「そうですね、では私が弱っている魔獣を狙ってトドメをさして行きましょう。フィオナさんは遠慮なくバンバン範囲攻撃してください」

 「はいっ!」


 相変わらずの連携で次々と魔獣を倒していくと、ひときわ大きく瘴気の濃い魔獣が殺気を振りまいて向かってきた。


 「ファイヤーグリズリーですね、一級ですよ。気を付けて」


 リヒトはそう言うと同時にファイヤーグリズリーに向かって攻撃する。

 さすがに攻撃してもなかなか倒れてくれない。それどころか、時折口から炎を吐き出して、リヒトの相手をしながら、フィオナを狙って来る始末だ。


 「リヒト副隊長、一分下さい!」

 「はーい、お任せ下さいー」


 第一級魔獣と戦っているとは思えないほど、のんびりした声が返ってくる。


 集中して魔力を練ると、光魔法最大の攻撃力を誇る術を発動させる。


 すかさずリヒトが距離を取った。


 ファイヤーグリズリーの真上に魔法陣が展開され、そこから、光の柱がドンと音を立てて、巨大な熊を一気に塵と化した。


 さすがに魔力を大量に消費してしまった。くらりとする頭で、リヒトの元へ行くと、ふっと笑われる。


 「いやあ、良いもの見させて貰いました。けど、フィオナさん我慢せずそろそろ飲んだ方が良いですよ?」


 腰に付けたポーチを指さされて、少し迷って金の上級魔力回復ポーションを一瓶空けた。


 くらくらしていた頭が、急に楽になる。

 やっぱり魔植物園のポーションは凄い。


 リヒト副隊長も、あらかじめ配られていた、薬室の魔力ポーションを時折飲んで、魔力が切れない様にしているようだった。


 ひたすら魔獣を狩り続け、半日も過ぎると、山頂の魔獣もだいぶ数が減ってきた。昨日騎士団が大量に持ってきたポーションを飲みながら戦っているので、皆身体こそ動いているが、なかなか倒せない魔獣とその量にだいぶ疲弊しているようだった。


 「みんな気を抜くなよ!あと半分だ!頑張れ!」


 ロアルの叫び声が聞こえた。

 頑張らなければ。

 フィオナも貰っていた薬室のポーションをぐいっと飲み干して、リヒトと二人範囲魔法を発動したのだった。



 「やっと……、終わったか……?」


 最後の一体をアルトゥールが薙ぎ倒すと、全員がばたりとその場に倒れ込んだ。がたいの良いセオ隊長まで、肩で息をして、座り込んでいる。

 アルトゥールもぜいぜいと息を切らして、大の字に転がった。


 「アルト大丈夫?」

 「ああ、大丈夫だ。フィオナは……、大丈夫そうだな」


 あまり息が上がってないのでそう見えるかもしれないが、さすがにふらふらなので、アルトゥールの横に腰を下ろす。


 「あれ、アルト、腕から血が出てるよ!?」

 「ああ、さっきちょっとしくじった。でも大した事ない。帰ったら医療班に治療してもらうさ」


 そうは言うが出血が止まっていないようで、服がじわじわ赤くなっていく。


 「だめだよ、ちょっと見せて」


 無理やりアルトゥールの腕をとると、治療魔法をかける。


 「いいよ、フィオナも魔力あんまり残ってないだろ?」

 「止血するくらい平気だよ」


 治療をしていると、ロアルがふらふらとやってきて、アルトゥールの腕の傷を見て顔をしかめた。


 「アイビー、魔法使えるか―?ポーション出してくれー」


 ロアルが、疲れた声をなんとか張り上げると、アイビーは魔法で箱を出して、傷薬や回復ポーションを皆に配っていった。


 しばらく休み、そろそろベースキャンプに戻ろうかという時、山頂の向こう側、オーム山脈の奥の方から、何か音が聞こえた。


 獣の鳴き声のような、人の叫び声のような音が徐々にこちらに近づいてくる。


 「なんの声……?」


 思わず呟くがロアルもアルトゥールも、答えないまま緊張した面持ちでじっと声のする方を睨んでいる。


 声が近づくにつれて急に瘴気が濃くなった。ただでさえこの山頂は瘴気が酷く立ち込めていたのに、それを上回る瘴気の濃さに只事ではないと気づく。


 「皆さん、ちょっとやばいのが来ますよー、身体が辛い人は、今の内にベースキャンプに戻りない。遠慮したら死にますよ」


 振り向いたリヒトの顔は、本気だった。


 「マシュー!一番隊と騎士を連れて今すぐ戻れ!」


 ロアルが怒鳴った。

 一番隊のメンバーは残ると言うかと思ったが、疲弊している騎士達を箒に乗せて、速やかにその場を離れていく。正しい判断だ。


 残ったのはリヒトにセオ隊長にイアン、ロアルとチエリにアルトゥール、それからフィオナだった。


 「チエリ、お前も帰れ」

 「だめですよ、チームなんだから。それにだいぶ回復してます」

 「ったく、お前は。やばくなったらすぐに逃げろよ」

 「うす!」


 近づいて来た音はもうすぐそこまで来ている。

 平で広い山頂の向こう側の尾根から、人影が飛び出して来た。

 騎士のような出で立ちの者が、十人ほど転がるように駆けてくる。

 そして、その後ろを巨大な影が三体追いかけるように、歩いてくるのが見えた。

 

 見覚えのある姿に心臓が掴まれたように、ぎゅっと縮んた気がした。


 「デーモンミノタウロス……」


 思わずこぼれた言葉に、全員が身体を強張らせた。


 「取り敢えず、あの人達を助けないとですね」


 真っ先に動いたのはリヒトだった。

 箒に飛び乗ると、一気にデーモンミノタウロスに向かっていく。

 

 一瞬遅れて、皆リヒトに続いた。


 「だ、誰かあ!た、助け、助けてっ……」


 走って来た騎士風の男の一人が、こちらに気がついて声を上げた。

 追われている男達の中で、数人はデーモンミノタウロスに時折反撃しながら、前を走る者を逃がそうとしているように見えた。


 リヒトがそこに加勢するように、デーモンミノタウロスに攻撃を加えた。

 

 途端デーモンミノタウロスが、一斉に吠えた。


 「ぎゃあおおおおおおおおおお!!!」


 山全体が震えるような雄叫びに、身体がビリビリと威圧され、箒で飛ぶ事さえ辛く感じてしまう。


 「チエリ!」


 振り向くと、チエリが今の咆哮でバランスを崩し、身体を跳ねるように打ち付けて、落下した。


 「ロアルさん!チエリちゃんを!」

 「分かった!フィオナ、気をつけろ!」

 「はい!」


 そこに先頭を逃げてきた騎士風の男達がやって来て、その中でいやに派手派手しい鎧を身につけた男が声を上げた。


 「おい!貴様ら!私を守れ!私はコロラ王国第一王子、ヒュラン・クレトス・コロラであるぞ!」


 コロラ王国第一王子!?

 思わず目を剥くと、ロアルも倒れ込んだチエリもまさかという顔をしてから、彼の身に着けている鎧の胸元の紋章を見て、はっと息を呑んだ。

 二人の様子からどうやらその男が本物の王子らしいと分かる。

 獰猛な肉食獣のような目つきをしたその銀髪の王子は、更に続けた。


 「私を守れと言っているだろう!何をしている!」


 驚きに動きを止めてしまった三人に、ヒュラン王子は苛立たしい声を上げた。

 もちろん初めから助けるつもりではあったが、いくら王子であってもその態度は何なのだ。

 それに今現在、デーモンミノタウロスはリヒトが引き留めていると言ってもよい状況だ。それを見て、更にそんな事を言うなんて、なんて愚かな男なのだろうかと、内心舌打ちをする。


 それでも友好国の王子だ。怪我をさせたらまずい。


 「ロアルさん、チエリちゃんと一緒に王子を連れて離れて結界を!」

 

 ロアルも内心では同じことを考えているようで、王子に見えないように嫌な顔をするが、すぐにうなずいて、王子とその共を連れて、離れていった。


 フィオナは気を取り直すと、急ぎリヒトの加勢へと向かったのだった。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ