表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/127

シオン

今回はシオン視点です。

 ベッドの横で裸で気持ち良さそうに眠っている愛しい彼女の髪を撫でる。

 柔らかい癖のある茶色の髪を優しく撫でていると、起こしてしまったようで、もぞもぞと動きだした。


 「シオン君……、あれ、私寝ちゃってた?」

 「うん、寝ちゃってたっていうより、気絶してた」

 「ひどいよお、あんなに激しく何回も」

 

 眼鏡を外した彼女は一段と童顔で同じ年とは思えなく、その可愛さに額に唇を落とす。


 「君が煽るような事を言うのが悪いよ。何?アルトに下着を見られたとか、押し倒されたとかって。僕に人殺しをさせたいの?パティ」

 「だーかーらー、何度も言ったじゃないか。冗談だって。訓練中に、作戦でアルト君を動揺させようとしただけだよ」

 「見た事には違いないんだよね?」

 「そうだけど、私が一方的に見せただけだから、アルト君を半殺しにするとかやめてくれよお?それ、治療するのこっちなんだから」

 「なんで君はそういう事を軽々しくしちゃうかなあ。わざと?嫉妬させたいの?」

 「ちがうよお!でもシオン君が嫉妬してくれるのは嬉しいかな」

 「君の肌を見ていいのは僕だけだよ」

 「独占欲強いなあ、君は」

 「パティ。好きだよ」

 「うん、私も大好きだよ」

 「じゃあ、もういい加減結婚しよう」

 「えー、もうちょっと待ってくれよ。私室長になりたいんだかさ。ね、もう一年待ってよ」


 パティが覆いかぶさってキスしてくる。

 くそ、ずるがしこい女め。

 でも好きだ。

 


 「シオン君!もう!あんなに言ったのに、アルト君の脇腹、手加減なしにバッサリ切ったでしょ!」


 パティが帰ってくるなり、突っかかってきた。


 「あいつがしつこく模擬戦をしたいっていうから仕方なかったんだよ。あれでも手加減した」


 嘘はついてない。

 あれでも随分手加減してやったのだ。本気でやったら数秒で殺してしまう。

 手加減はしてやったが、試合中にこいつがパティの肌を見たのかと思ったら、無性に腹が立って、えぐるように横腹を薙いでやった。

 しかも、たまたまアルトゥールの惚れた魔植物園の女が見に来ていたから、女の前で無様に負かしてやった。ざまあみろ。


 「フィオナたんが、応急処置をしてくれたから良かったけど、アルト君の傷、相当傷が深かったよ!もう!」


 可愛い口が他の男の名前を連呼するので、少し腹が立って、唇をキスで塞いで、ベッドに引きずり込む。


 「パティ。あんまりアルトアルト言うと、僕、あいつの事殺しちゃいそうだから、僕の名前呼んで」


 唇を離して優しくささやくと、パティの口から熱を帯びた声が漏れる。


 「シオン君……」

 「パティ、好き。すごく愛してる。結婚しよう」

 「来年ね」


 どうやってこの女に『はい』といわせればよいのだろう。

 子供を作ってしまえばいいと思って、何日も抱きつぶしたことがあるが一向に妊娠せず、それとなく聞いてみたら、シキの作った避妊薬を飲んでいると暴露された。

 いっそのこと、周りに付き合っているのをばらしてしまおうと思っていたら、ばらしたら別れると言われてしまった。

 この女は、こんなあどけない顔をして用意周到だ。

 くそっ。

 でも好きだ。



 王宮騎士杯の前日、魔植物園の新人の女がポーションを納品に来た。

 名前なんだっけ?そうだ、フィオナとか言ってた。

 前に起こった張り紙事件の礼を言われてしまい、そういえばと思い出す。

 あれは彼女の為にしたのではなく、自分の為にしたのだ。

 そもそも噂の発端はすぐに人をおちょくる性格のパティがしでかしたことで、その尻ぬぐいするのは彼女の夫となる自分の役目だ。それに分かるように尻ぬぐいをしてやって、パティの好感度を少しでも上げようとする作戦でもある。

 だからそんな風にきらきらした目で礼を言われると、困ってしまうのだ。


 彼女と話していたら、目ざとくアルトゥールがやってきた。

 僕と彼女が楽しそうに話していたのが気に食わなかったのだろう。ウザい奴。

 アルトゥールは彼女を離れた場所へ引っ張って行った。

 聞き耳を立てる。正直盗み聞きは得意技だ。周りは教えていないが実はそれなりに魔法も使える。特殊な風魔法を使って二人の会話を拾い始めた。


 どうやら奴はこの場で告白するようだ。

 こんなムードの欠片もない場所で仕事の合間に告白だなんて、馬鹿なやつ。

 ほら、早く言って振られてしまえ。

 ぐずぐずじれったい奴だな。

 そう思っていたら、他の奴らも気配を察してアルトゥール達に注目し始め、結局告白はやめてしまったようだ。

 更に何か話し始めたので、聞き耳を再開する。

  

 「フィオナ、俺、今回の王宮騎士杯優勝するから」

 「アルトなら本当に優勝しちゃいそうだね」

 「王宮騎士杯は副隊長以上は参加できないから、俺は確実に優勝する。それで優勝者は、副隊長以上の人間に試合を申し込めるんだ。俺はシオン副隊長を指名するつもりだ。この前フィオナの目の前で負けたからな。だけど、今度は絶対に勝つ。だから、勝ったら、二人きりで話す時間をくれないか?」

 「いいけど、別に今話してくれてもいいよ?」

 「いや、勝ってから話したいんだ」

 「分かった。応援してるよ」

 「ああ。フィオナ見に来てくれよ」

 「うん、シキに時間取ってもらえるように頼んでみるね」


 僕を相手に選ぶとはいい度胸だ。

 顔に凶悪な笑みが浮かびそうになるのを、とっさに抑えた。

 勝って格好良い所を見せて告白しようとたくらんでいたのだろうけど、残念だね。

 そううまくいかないのが人生だと思い知らせてやろう。

 パティの下着を見た罰だよ。


 それにしても、あのフィオナって子、鈍感にもほどがある。

 ポーションを渡されたアルトゥールのあの顔ったらないな。笑える。ざまあみろ。


 それにしても、勝って告白かあ。

 そういうのも悪くないかも。

 たまらなくいい事を思いついて、思わず口の端が凶悪に持ち上がってしまった。



 王宮騎士杯二日目。

 決勝戦はアルトゥールと中央騎士団のデリオス。

 デリオスねえ。まあ、アルトゥールが勝つだろうな。でも負けらてしまっては楽しみが減ってしまうので、釘を刺しておこう。


 「アルト、決勝戦頑張れよ」

 「はい、絶対勝ちます。これに勝ったら、シオン副隊長を指名させてもらいますよ」

 「ああ、構わないよ。楽しみにしているから絶対に勝ってこいよ」

 「はい!」


 絶対に勝てよ。負けたら計画が台無しなんだから。


 釘を刺したおかげか、アルトゥールは熱戦の末デリオスに勝ったが、肩に軽い怪我をしたようだ。

 情けない。

 医療班の元にアルトゥールが連れて行かれ、治療が終わってから、挑戦試合が開催されることになった。

 医療班を見ると、パティがアルトゥールの上着を脱がそうとしていた。

 ああ、本当に試合が楽しみだよ。ぶっ殺してやる。

 刺すような目で二人の様子を見ていると、横から急に声を掛けられた。


 「シオン、視線だけでアルト君を殺そうとするのやめろ」

 「あれ、ケイン王子じゃないですか。なんでここに?主賓席で大人しくしていて下さいよ。何かあったらどうするんですか」

 「大丈夫だよ。お前の部下が、べったり張り付いているから」


 ケインの後ろからかつての部下、アイニャがひょこっと顔を出す。子猫のような愛らしい容姿とは反して、非情で冷徹になれるところが気に入っていた。


 「ボス、お久しぶりっす」

 「その呼び方やめてくれない。人に聞かれたらどうするの?それに今は騎士団副隊長だから」

 「もういい加減そんなつまらない所にいないで帰ってきて欲しいっす」

 「嫌だ。そっちの仕事家に帰れないし」

 「あ、彼女さん、アルト君の肩撫でまわしてますよ?」

 「ああん?あいつマジで殺すか」

 「ボス、素が出てるっす。今はクールで笑顔の素敵な副隊長さんなんですよねっ」

 

 くそむかつく部下だな。

 でもこいつは他の誰より優秀だ。こいつが側にいるなら王子がふらふら出歩いていても大丈夫だろう。


 「じゃあ、シオン。またね」


 ケインが行ってしまうと、アイニャの気配も一緒にすっと消えた。本当に気配を消すのが上手いな、あいつ。

 医療班を見ると、治療が終わったのか、アルトゥールが会場中央に戻ってきて、進行役が対戦相手を誰にするか聞いている。


 「挑戦試合の相手は、南騎士団副隊長、シオン・カルナ!」

 

 進行役の拡声器から自分の名前が呼ばれて、会場がわっと盛り上がった。

 通路から会場に足を踏み入れる。

 

 さて、アルト君、大好きな魔植物園の彼女の前で、無様な姿を晒してもらうよ。

 そして、パティ覚悟してね。

 じっと医療班を見ると、パティと目が合った。

 にっこりと笑ってみせると、なぜか席を立とうとしている。

 でも大丈夫。君が逃げられないように対策はしてあるから。

 いつの間にかパティの後ろにきていたフィオナが、しっかりとその肩を掴んで逃げられないようにしているのをみて、ほくそ笑んだ。

 いい子じゃないか。アルトゥールには勿体ないな。


 アルトゥールの元に行くと、奴は殺気をむき出しに、ギラギラした目を向けて来る。


 「それでは、アルトゥール対シオンの試合を始めます!」


 進行役が拡声器で高らかに声を上げた。

 

 瞬殺するのと、時間を掛けてちょっとづつ嬲るのとどっちがいいだろう。

 楽しいのは後者だけど、精神的にダメージをくらわせられるのは前者だろうな……。

 どうしようかな……。

 

 「はじめ!」


 ちょっと待って、まだどっちにするか決めてない。


 ちらりとパティを見る。

 ふっと自分の笑みが深くなるのが分かった。


 飛びかかってきたアルトゥールを軽く躱しがてらその腹を薙いで、後ろから首に当て身をくらわせて気絶させた。多分五秒くらい。いや三秒?


 会場が静まり返る。

 腹から血を流し、気絶しているアルトゥールを見て、審判が我に返り、勝者シオン!と宣言する。

 宣言と同時にパティとフィオナ、それから数名が駆け寄ってきた。


 「アルト!大丈夫!?」

 「ファル、治療魔法で止血してくれ、フィオナたん、ミック、アルト君を仰向けに!」


 仰向けになったアルトゥールの腹にパティは金のシールを剥がして傷薬をかけていく。

 さすが魔植物園のポーションだけあってみるみる傷が塞がっていった。

 すぐにアルトゥールが意識を取り戻して、医療班とフィオナに囲まれている状況に悔しそうな顔をする。

 勝つと宣言した女に介抱してもらうなど屈辱で仕方ないだろう、いい気味だ。


 「シオン君、やりすぎ」


 下からキッとパティが睨んでくるが、そんなの知った事ではない。

 立ち上がったアルトゥールをフィオナと医療班の男性が手を貸して医療室に連れて行こうと歩き出す。パティもそれに続こうと背を向けるので、手首をつかんで引き留めた。


 「え?何?シオン君」


 進行役の男が持っていた拡声器を奪うと、ここにいる全員に聞こえるように言い放ってやった。


 「パティ。愛している。結婚して欲しい」


 またもや会場はシーンと静まり返って、その後どっという歓声に変わった。アルトゥール達も足を止め振り返りこちらを凝視していた。そこで見ているといい。君の代わりに僕が大好きな人と幸せになる瞬間を。

 そのまま拡声器を使って更に追い詰める。

 

 「パティ、もう待てない。今すぐ返事が欲しい。僕と結婚してください」


 茫然と突っ立ているパティの前にひざまずき、拡声器を置くと、ポケットに入った指輪を取り出して、パティに差し出した。


 「ずるいよお、シオン君。こんな所で……」

 

 いつもひょうひょうとしているパティが泣きそうな声を出す。


 「ずるいのは君のほうだろ?ずっと逃げてたのは君だ。これは僕の最後のプロポーズだよ。断ったら、もう二度としない」

 「卑怯物ー」

 「何とでもいえばいい」


 パティは、くしゃっと顔を歪めると、だけど嬉しそうに指輪を受け取った。

 一気に会場が沸き上がる。

 こんなに盛り上がってくれるなら、せいぜい見せつけてやろうじゃないか。

 立ち上がると、パティを抱きしめて、深く口づけをする。

 闘技場は崩れるんじゃないかと思うほどの熱気と興奮で揺れていた。


 「パティ、好きだよ。愛してる」

 「私も愛してるよ」


 観念したように言うパティに、もう一度深くて長い口づけをした。


 どうだアルトゥール。この後でお前は告白なんてできるのか?出来ないよなあ?

 ざまあみろ。

 僕のパティの下着を見て押し倒した罪はまだまだこんなものでは済ませないぞ。



 パティをお姫様抱っこして闘技場を去るシオンの顔は凶悪に幸せそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ