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張り紙

 ポーションを作り終わって、管理棟に戻ると、タイミング良く、正面入り口から誰かが入って来た。

 フィオナが、明かりをつけると、そこには、アキレオとユアラが仲良く腕を組んで立っていた。

 今日は仲がよさそうで良かった。


 「アキ室長にユアラさん!」


 思わず嬉しさに駆け寄ると、ユアラがアキレオの腕を離して、フィオナに優しく抱きつく。


 「フィオナ、遊びに来たわよ」

 「本当に来てくれたんですね!嬉しいです!シキ、今日はみんなでカレーにしませんか?」


 四人でカレーパーティなんて楽しそうだと思い、振り向くと、シキは訝し気な顔でユアラを見ていた。


 「えーっと、どういう風の吹き回しかな?」


 シキが顔に笑顔を貼りつかせてユアラをじっと見て尋ねると、美しい顔がさっと顔を曇らせた。


 「おいおい、シキ、俺のユアラをいじめんなよ」

 「いじめられていたのはこっちだと思うんだけど?今まで散々ここに来ては、僕をののしって暴れて、いろんな物を壊して、謝りに来たことさえなかったのに。警戒されても文句は言えないと思うけど」


 今までそんな事をしていたのかと、フィオナは絶句してしまう。

 ユアラはぐっと顔を上げると、シキを真っすぐ見てから頭を下げた。


 「シキ!今までごめんなさいっ。私、ちょっと勘違いしていて、あなたの事良く思っていなかったの。でもフィオナと話して、誤解だって分かって、それで今日はフィオナの所に遊びに来たのもあるけど、あなたにちゃんと謝ろうと思って」


 ユアラが誠意のこもった眼差しでそう告げると、シキは笑顔を貼りつかせるのも忘れて、ぽかんとして固まってしまった。


 「シキ、今まで本当にごめんなさい。すぐにとは言わないから、許してもらえるかしら」

 

 ユアラがその美しい顔を歪めて訴えると、シキは我に返った。


 「ごめん、ちょっとびっくりしちゃって。その、誤解していたって何?」

 「それは、その……」


 言いよどむユアラに代わってアキレオが明るくぶちまける。


 「ユアラさ、俺とシキが陰で付き合っていると思っていたんだって!あはははっ!」

 「はあ!?」


 普段あまり大きな声を上げないシキが、珍しく叫んだ。


 「なんでそんな考えになるの!?信じられない。アキと!?そんな気持ち悪い事あるわけないでしょう!君の頭の中どうなってるの!?」

 「だって……。シキったら、アキに異様に優しいし、アキも私と喧嘩するとシキの所に行って帰ってこなかったりするし……。それにね、一回、見ちゃったの。泣いているアキをシキが肩を抱いて慰めている所を」


 シキはそれを聞いて、うっとうめいて頭を抱え込む。


 「シキ?大丈夫ですか!?」


 フィオナが思わずシキの肩にふれようとすると、シキにぎゅうときつく抱きしめられた。


 「ちょっ!シキ!な、何するんですか!?」

 「フィオナ……。死にたい」

 「えええええ!?なんで!?今の会話に死ぬ要素は一個もなかったですよ!?」


 フィオナがシキの背中をぽんぽんと叩くと、シキはそっとフィオナを離して、ふらふらとしながら二階へと上がって行ってしまった。


 「えっと、アキ室長、ユアラさん、上がってください」


 シキに抱きしめられた所を見られて、顔を熱くしながらも、そう言うと、アキレオとユアラは顔を見合わせて笑った。


 二階に上がると、シキはぐったりとソファに横になっていた。

 フィオナはキッチンのテーブルに二人を促す。


 「ユアラさん、今日一緒にカレーを作りませんか?」

 「いいの!?教えて欲しいわ!」

 「じゃあ、作りましょうか」


 フィオナがユアラとキッチンで夕飯の支度を始めると、アキレオがソファに近づいてシキを揺さぶった。


 「ねえ!シキー、お酒!お酒飲もうよー」

 「死ね」

 「うわっ、こわっ!フィオナちゃーん。ちょっとなんとかしてよ」


 アキレオの助けを求める声に、野菜の処理をユアラに任せると、手を拭いてソファに近づいた。


 「シキ」

 

 シキはソファに寝転がったまま背を向けてしまう。

 すねているシキを見るのは始めてかもしれない。新鮮だ。

 アキレオを見ると、なぜかニヤニヤと笑っていて、微妙にむかついた。


 「シキ、機嫌直してください」

 「無理」


 なにがそこまでシキの機嫌を損ねたのだろう。まあ、原因はアキレオだろうが。


 「じゃあ、あと三分以内に起きてくれなかったら、シキの分のカレーはなしにします」


 シキの肩がぴくりと震えた。

 反応したシキにフィオナはほくそ笑む。

 フィオナは腕時計を見る。


 「あと二分ですよ」

 「あと一分」

 「三十秒」

 「二十秒」


 そこまで行った時、シキががばっと起き上がる。

 あきらかに不貞腐れた顔をしていて、フィオナはその可愛さに笑ってしまいそうなのをなんとか堪える。


 「フィオナ、ずるいよ」

 「シキがいつまでも拗ねてるからです」

 「さすがフィオナちゃん!最高!」

 「アキ死ね」

 「いや、今日お前本当に怖いから」


 フィオナはくすっと笑ってユアラの所に戻った。

 二人でカレーを仕上げると、四人分盛り付けてテーブルに運ぶ。

 シキとアキレオはすでに飲み始めていた。


 カレーを目の前に、アキレオが目を輝かせる。


 「アキ室長、今日はこの前とは少し違うんですよ。食べてみてください」

 「すげえうまそう!いただきます!」

 「ユアラさんも食べてください」

 「ええ!いただくわ」


 二人はカレーを口に入れて、目を丸くする。


 「うまーいっ!」

 「本当!美味しいっ!」


 喜んで食べる二人にフィオナは顔ほころばせる。ちらっと横を見ると、シキが美味しそうにカレーを食べていた。


 「シキ、どうですか?」

 「おいしい」


 シキは諦めたようにふわりと微笑んだ。

 どうやら機嫌が直ったようで、ほっとする。


 食事が終わってフィオナがお茶を淹れると、急にユアラがそわそわとアキレオを見て何かを言いたそうにしていた。

 そんな様子にアキレオが、はあっと少し短いため息をついて、飲んでいたカップをテーブルに置く。


 「フィオナちゃん、シキ。今日はさ、ちょっと話したい事があってきたんだよ」


 急に真面目な顔になるアキレオに、何だろうと首を傾げた。

 アキレオはシキを見て目を細める。


 「シキ、話しを聞いても怒るなよ?」

 「聞いてもいないのに分からないよ」

 「そうだよなあ……。ユアラ、あれ出して」


 アキレオに言われて、ユアラは眉を下げて困った様にポケットから一枚の紙を取り出した。


 「これが数日前に、王宮の掲示板に貼られてたの」


 フィオナは広げられた紙を見て息を呑んだ。

 その紙には、フィオナがロアルと手をつないでいる写真が大きく貼られていて、その下に文字が書いてあった。


----------

 フィオナ・マーメル、魔法警備隊第一部隊隊長、ロアル・ミスコと街デート!

 南騎士団黒豹アルトゥールと二股か!!

----------


 「な、なにこれ……」

 「誰かが掲示板に貼ったらしいの。私もアキも知らなくて、用事で遅く出勤してきた子に聞いて、慌ててはがしに行ったんだけど、かなりの人が見た後だと思うわ。王宮中その噂だらけになっているの」

 「わ、私……」


 思わず声が震える。


 「大丈夫だよ、フィオナちゃん。君の事を知っている人はもちろんデマだって分かっているから。でも、君明日配達の日でしょ?知らずに配達にきて、嫌な思いさせたくなくてさ。ユアラと相談して知らせに来たんだ」


 フィオナはその紙から目を離せなかった。

 カタカタと身体が震える。

 今までも、アルトゥールと付き合っているなどと噂は流れていたが、これは明らかに悪意のある嫌がらせだった。

 

 「ねえ、この写真って、開発室の魔導写真機でしょう?一般には出回っていないんじゃなかった?」

 

 シキが不思議そうにじっと写真を見る。

 ロアルと手をつないでいる写真を見られて、フィオナは急になんだか分からない感情が胸の中に湧き上がってきて、思わずその紙を掴んで、ぐしゃりと握りつぶしていた。


 「あ!フィオナちゃん、だめだよ!気持ちは分かるけど、それ大事な証拠だから!犯人を特定するのには捨てたらいけないよ!」


 アキレオに慌てて止められて、ビリビリに破り捨てるのはなんとか思いとどまった。

 唇を噛んで、握りつぶした紙をテーブルに戻して、居たたまれなくて、ついうつむく。


 「フィオナ、ごめんね。あなたを傷つけたくて、これを持って来たわけじゃないのよ。こんな悪質なことをする犯人を見つけたいの。それであなたに話を聞こうと思ってきたのよ」


 優しくユアラに言われて、フィオナは泣きそうな顔をなんとか上げる。


 「さっきシキが言ったように、魔導写真機は一般には出回っていないんだ。あるのは開発室に三個。あとは各街の警備隊に一個づつ。街の警備隊員が勝手に持ち出すとは思えないし、フィオナちゃんの事を知らないだろうから、おそらくは王宮の誰かが写真機を使ったんだと思う」

 「開発室の誰かがやったって事?」


 シキが尋ねると、アキレオは苦笑いしながら頭を掻く。


 「それがさあ、あの写真機、結構誰でも手に取れる場所に置いてあって、そんな頻繁に使うものでもないし、誰か他の部署の奴がこっそり持ち出しても、誰も気づかなかったとおもうんだよねえ!あはは!それに一個は医療室に貸し出したまま忘れてたし」

 「君、室長でしょう。なにそのズボラな管理体制は。死ねば?」

 「シキ、ごめんなさい。あなたの言う通りよ。今後は私がそのへんの管理体制は強化するわ。アキに任せても無理だから」


 ユアラに謝られて、シキもそれ以上は言えず、難しそうな顔をする。


 「それでね、フィオナ。この写真を撮られた場所に覚えはあるかしら。ここがどこで何時くらいだったとか、その辺の事を聞きたいの」


 フィオナは渋々もう一度紙を広げなおす。


 「これは、先週休みをもらった日、ロアルさんとアルトと街に買い物に行った時です。でも別に二人と付き合ってるとかそんなんじゃありません!」

 「フィオナ、分かっているわよ。それで場所はどこかしら」

 「これ、最近有名だってロアルさんに教えて貰ったお菓子屋さんです。市場の飲食通りの真ん中あたりにある、シフォンって名前のお店です。これが撮られたのは、女の子ばっかりの店内にロアルさんが恥ずかしがってなかなか店内に入らないので、つい手を引っ張ってしまった時だと思います。時間は午後の一時から二時の間くらいかと」

 「そう、アルト君も一緒だったのに、わざと二人の写真を撮られてしまったのね」


 ユアラが忌々しそうに言うので、フィオナは慌ててそれを否定する。


 「あ、この時アルトは居なかったんです。お昼くらいに、アルトとロアルさんと三人で噴水広場にいたら、医療室のエレノラさんに偶然会って、具合が悪い彼女をアルトが家まで送って行ったんです。だから午後からはロアルさんと二人でした」

 「ちょっとその辺の事もっと詳しく話して」


 ユアラに詰め寄られ、フィオナはエレノラに会ってからの事を詳しく話す。


 「ふうん、そう。フィオナありがとう。私とアキで犯人を探してみるわ。すぐに見つけられるか分からないけど、頑張ってみるから」

 「ユアラさん、ありがとうございます」


 ユアラの優しさが心にしみて、泣きそうになってしまい、息を吸い込んで、なんとかこらえる。

 ユアラはフィオナの手をぎゅっと握りしめてから、シキを見る。


 「シキ、フィオナの配達しばらくやめたほうが良いんじゃないかしら」

 「そうだね。まあ、僕としては最初から行かせたかったわけじゃないし、フィオナが行きたくないのなら、もちろん速攻で配達はやめさせるよ」


 フィオナはシキの言葉に、それでも配達に行くとは言えなかった。


 「じゃあ、俺達はそろそろ帰るよ。フィオナちゃんご飯ごちそうさま」

 「フィオナ、元気出して。私達はいつでもあなたの味方だからね」


 帰ろうとする二人に、かろうじて笑みを浮かべる。


 「アキ室長、ユアラさん、ありがとうございます」


 二人が出て行こうとすると、シキが呼び止めた。


 「二人とも、知らせに来てくれてありがとう。ユアラ、またいつでも遊びに来て」

 「シキ……。私の事許してくれるのね。ありがとう。また来るわ」

 「ちょっとシキ、俺は!?」

 「うん、今日はちゃんと言っておく。アキも、ありがとう」


 アキレオは、素直にそう言うシキを見て目を丸くすると、にやにやしながら、ユアラの腰に手を回して帰っていった。


 二人が帰ってしまうと、一気に気が抜けて、顔から表情が削げ落ちた。

 なんだってこんな馬鹿げた事が起こるのか。

 それに自分だけではなく、アルトゥールやロアルにまで迷惑が掛かってしまっている。


 重いため息を吐くと、シキがそっと近くにやってきた。


 「フィオナ、ゆっくりお風呂にでも浸かってきたら?」


 シキの申し出に、フィオナは小さくうなずき、バスルームに行く。ぼうっと湯に浸かると、そのままふらふらと三階の寝室に入ってベッドに突っ伏した。


 頭がぐちゃぐちゃしてもう何も考えたくなかった。

 うつ伏せになって顔を枕に押し当てると、そのまま目を閉じる。


 眠れないかと思ったが、フィオナはそのままあっけなく眠りに落ちてしまったのだった。

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