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お買い物2

 「すごい!これが市場!?」


 通り一面に色とりどりの天幕を張った、多種多様な店がずらりと店を並べている様子にフィオナは興奮を押さえられず思わず駆け出していた。

 中央に大きな噴水がある円形の広場から放射状に伸びた通りが、それぞれ市場になっており、通りによって、食品だったり、衣料品だったり、日用品だったりと売っているものが分かれている。

 中央広場自体は、パラソルが立てられたベンチが沢山設置されており、広場のあちこちに食べ物や飲み物の屋台が出ていた。


 「うわああ!すごい!屋台がいっぱい!」


 今まで見たことがない光景に興奮してはしゃいだ声が出でしまい、それを見たロアルが吹き出して笑う。


 「何か軽く食べてから行く?甘い物も売っているし」

 「うん!どうしよう!何買おうかな!?」


 きょろきょろ屋台を見わたしていると、アルトゥールが屋台の一つに視線を向けていた。


 「俺は、あそこのドーナツが一番好きだ」

 「へえ!アルトがドーナツ!?俺はあっちの串焼きが一押しだけどね」

 「どっちも美味しそう!うーん、迷うなあ。でも、ドーナツかなあ」


 漂ってくる甘い匂いの誘惑に負けてそう言うと、アルトゥールがロアルに勝ち誇ったような顔をしていて、それがまた可笑しい。


 「うわっ!アルトむかつくー!」


 ロアルが拗ねたように言うのでフィオナは笑ってしまう。

 三人でドーナツを買って歩きながら食べる。こんな事をするのも楽しい。


 「甘っ!これ全部食うの俺無理。フィオナ、あとあげる」


 ロアルが半分食べた所で音を上げて、残りをフィオナの口元に持ってくる。

 シキによく同じようにされいているので、特になんとも思わず口を開けて待っていると、アルトゥールの手がドーナツを持っているロアルの手を掴んで、残り半分を一口でぱくりと口に入れてしまった。


 「あ!この、アルト!」

 「いらないんだろ?」


 口の端についた粉砂糖をペロリと舐めて、アルトゥールがロアルに意地わるそうな笑みを向ける。

 ロアルはチッと舌打ちをして、軽く睨みつける。


 そこでやっと自分が迂闊だったと気づいた。

 自分の好きな人が食べかけを他の人にあげたら嫌だよね……。ごめん、アルト。


 真っ赤な顔で二人のやり取りを見ていると、ロアルが気が付いて、顔を引きつらせる。


 「フィオナ!?なんか変な勘違いしてない!?」

 「し、してないです!い、行きましょうか!」

 「してるよね!?」

 「してないですう!」


 ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、三人で衣料品通りに向かった。

 衣料品通りの入口につくと、ロアルが店の説明をしてくれる。

 

 「広場から近い場所は人気のお店が多いんだ。その分質が良くて少し高めだったりするけどね。とにかく安い物を探すなら、通りの奥の方に行った方がいいね」


 安い服が欲しいフィオナは、衣料品通りを奥に向かってどんどん進んで行く。確かに噴水広場に近い方はオシャレなお店が多く、ちらりと値札を見るとなかなかにいい値段だった。

 若い女性向きの素敵な服を売っている店も多く、時折目を奪われるが、今は何より安い服を大量にだ。しばらくは覚える仕事が多くておしゃれをして、街に遊びに来る暇なんてないだろうから、買うだけお金の無駄だ。


 しばらく行くと、オシャレな服からラフで手頃な服が売っている店が多くなり、古着屋もちらほら目に入るようになった。


 「このあたりからは、割と安いと思うよ。俺のパーカーも、そこの店で買ったんだ。これよりもっと奥に行くと、安いは安いけど、ちょっとこれはないかなあって感じになっちゃう」

 

 フィオナは手近な店の店頭に並んでいる女性もののシャツを手に取る。とくになんの変哲もないシンプルなシャツで、値段は千五百ウェルだった。

 確かに普通に安いシャツだ。それでもダマシハジキを取りに行ったら一回で着れなくなってしまうので、もっと質が悪くても、安い物がいいと思ってしまう。


 「もう少し奥まで見てきてもいいですか?」


  市場の奥にさらに進むと、確かに、質もあまり良くなくなり、柄やデザインがかなり微妙な物が多くなってきた。

 アルトゥールが、近くの店に置いてあるシャツを見て微妙な顔をしている。

 さらに奥に奇抜な柄の天幕のお店があるのが目に入って、フィオナは何の気なしに足を向けた。

 その店は、シンプルな形の丸首のシャツばかりが置いてあり、柄の種類がそれぞれ違うようだった。さわった感じは、そこまで質が悪すぎるという感じもしない。値段を見ると、一律五百ウェルと書いてある。


 「五百ウェル!?安い!」


 フィオナは並んでいるシャツに手をかけた。


 「フィオナ、いいのあったか?」


 いつの間にかアルトゥールが横に立っていた。


 「アルト!ここのシャツどれでも五百ウェルだって!」

 「安いな!」

 「フィオナー、向こうに千ウェルでシャツが沢山売ってたよ」


 ロアルもやってきて、フィオナが見ているシャツの値段を見て驚く。


 「うお!ここ安いな!まあ、安いなりの質なんだろうけど……。あれ、そうでもなさそうだね」


 ロアルがたたんで置いてあるシャツを一枚とって広げてみる。


 「うわっ!」


 それを見たアルトゥールとロアルが同時に悲鳴を上げた。


 「すごい柄だなこれ……」

 「これは五百ウェルでもさすがに買わないな……」


 ロアルが広げた白地のシャツには、ものすごく毒々しい蛾の絵柄が描かれていた。

 フィオナは、それをじっと見ると、自分の身体にあててみる。案外悪くないかもしれない。

 これはルリイロアゲハの鱗粉をとりに行くときに着ていったら面白そうだ。


 「どうかな?」

 「え?」

 「買うの!?」

 「うん、サイズが大丈夫なら買おうかな?安いし、着心地も悪くなさそうだし」

 「いや、でも、その柄はさすがに……」

 「でも魔植物園で着るから、シキとルティしか見ないし」


 さらりと言うフィオナに、二人が顔を引きつらせていると、中から店員がやって来た。


 「いらっしゃい!その柄素敵でしょ!」


 長い茶色の髪を頭のてっぺんで団子にした、若い小柄な女性が出てきた。


 「はい、すごく安いですね!」


 柄については触れないで、褒められるところをほめておくと、団子頭の店員は苦笑いをする。


 「本当は生地もそこそこいい物だから千ウェルくらいで売りたいんだけどさあ、なぜか全然売れないんだよねえ!私がこんなに素敵な柄をデザインしたのにさ」

 「これ、あなたがデザインしたの?」


 ロアルが引きつった顔で尋ねると、店員は得意そうに話し始める。


 「そうだよお!これは私が特殊な塗料を魔法で布に付与して一枚一枚自分で描いたの!その蛾は力作なんだ!」

 「へえ!すごいですね」


 純粋に感心しているフィオナを、アルトゥールとロアルが生暖かい目で見てくる。


 「あとお勧めはね、この猫!それからヘビ、あとはねえ、このドクロ」


 猫はかなり不細工なデブ猫で、ヘビは異様にリアルで身体に巻き付いているかのように、シャツにぐるりと描かれている。ドクロに至っては大小様々なドクロがびっしりシャツに描かれていた。

 アルトゥールは見た瞬間に固まり、ロアルは、ひっ、と小さな悲鳴を漏らした。


 ドクロはドクロソウの実を使う時に着ていたら、シキが笑ってくれそうな気がする。


 「へえ!ドクロは決まりかな。あとはどんなのがあります?」

 「え!?それも買うの!?」

 「うん、五百ウェルだし、ここで沢山買おうかな?」

 「あんた、いいセンスしてるね!ちょっとこっちに来なよ!他にもいいのがあるんだ!」


 店員に引っ張られて、中に入ると、そこにもいろいろなデザインの服が置いてあった。フィオナはそれらを楽しそうに見ていく。


 「あ、これいいなあ」


 それは派手で奇怪な色のチューリップがシャツ一面に描かれてていた。


 「お目が高いねえ!それも自信作だよ!」


 蛾とドクロ、チューリップのシャツを確保して、他にも面白いものがないか探してみる。


 「あ!これハニワですか!?」

 「そう!面白いだろう!」

 「これも買います!」

 「君、本当にいいセンスしてるよ!」


 さらに何枚か選んでいき、十五枚ほど籠に入れる。

 チューリップやハニワなんかのシャツは使い捨てにしてしまうのは勿体ないような気になってしまい、更に四枚ほど適当に籠に入れた。

 最後に丁度二十枚にしようとして、いやにリアルな巨大な蜂の巣柄と、血のように真っ赤な不気味な花が一面に描かれているシャツで迷って二人を振り向く。

 

 「ロアルさん、アルト、これと、それ、どっちがいいと思う?」

 「え……、蜂の巣かな」

 「俺も……」


 歯切れ悪く答える二人に、それなら蜂の巣にしようとして、よくよく考える。


 「あー、でも真っ赤の方が、血が出たとき目立たなくて済むよね。やっぱりこっちにしよう」


 蜂の巣をやめて赤い不気味なシャツを籠にいれると、後ろから何故か視線を感じて振り返る。


 「ん?どうしたの?」

 「フィオナ、そんなに買うのか?」

 「流石に買いすぎなんじゃないの?他にも店あるしさ」

 「でも、安いから」


 どうせすぐだめになってしまうのだから、安いにこしたことはない。

 それに、なかなか悪くない柄のような気がしてきた。多分シキは面白がってくれるだろう。

 そう思ったら、なんだか楽しくなってしまうのだった。


 会計を済ませて店を出ようとすると、先程の店員に呼び止められた。


 「ねえ!あなた!また買いに来てね!あと、この店が気に入ってくれたのなら、好みのデザインを言ってくれれば、その柄で作ってあげることも出来るよ」

 「本当ですか!?また来ます!その時もしかしたら何かデザインをお願いするかもしれません」

 「ああ!喜んで!じゃあまたねっ」


 フィオナは団子頭の店員に手を振ると店を後にした。紙袋二つにぎっしり入った服を持って外に出ると、待っていた二人がそれぞれ紙袋を奪っていく。


 「持つよ」

 「そんな、いいのに!買い物に付き合わせて、挙句に荷物を持たせるなんて悪いわ」

 「いいから。気にするな」

 「そうだよ、女の子に大きな荷物を持たせて男が手ぶらじゃあ、様にならないからね。それに重たいのはみんなアルトに訓練がてら持たせればいいし」


 ちゃっかり軽い方の紙袋を手にするロアルに、つい吹き出してしまう。

 その後もフィオナは衣料品通りで、色々と服を買い込み、十分な量に満足すると、アルトゥールとロアルと共に噴水広場に戻ってきた。


 ロアルがパラソルのついた空いたベンチを見つけて、場所を確保してくれ、いつの間にかアルトゥールが三人分の飲み物を買ってきてくれた。

 

 「アルト!ありがとう。いくらだった?」

 「いいよ、そのくらい」

 「でも……」

 「フィオナ、おごってくれるって言ってるんだから、遠慮しないで飲もうぜ。サンキュー、アルト」

 「ロアルにはおごるとは言っていない」

 「もう飲んじゃったもん」


 さっとロアルが飲み物を奪って口を付けると、それを奪い返そうとアルトゥールの手が伸びて、ロアルに掴まれて阻止された。

 二人のじゃれ合いに、思わず顔がにやけてしまう。

 仲良くていいなあ。

 ふやけた顔で見ていると、右の頬をアルトゥールに軽くつねられて、それをみた反対の頬をロアルが真似してつねって来た。

 

 「いひゃい」


 情けない声を出すと、二人に同時に笑われてしまった。

 

 「さ、次はどこに行きたい?」


 ロアルに尋ねられて、少し考えて答える。お菓子も見に行きたいが、まずはお米料理に使える食材を見に行きたい。


 「次は変わった調味料とかスパイスなんかが売っていそうな所を見たいですっ」

 「よしっ!じゃあ食材通りに行こうか」

 「はいっ!」


 食材通りは、噴水広場に近い場所は、新鮮な野菜から果物、お肉や魚介類などの生鮮食品を扱う店が多く、奥に行くと調味料や、乾物、酒類などの保存のきくものを扱う店が多くなる。


 フィオナは氷魔法でひんやりとした生鮮売り場を眺めつつ、奥へと向かっていった。

 徐々に生鮮食品が減っていき、穀物を売る店や、乾物を売る店がちらほら目につく。

 少し先にひときわ大きな店が目について、近づいて見ると、そこでは調味料やスパイス、乾物などを豊富に売っているようだった。

 興味津々に店の中を覗くと、ところせましと、瓶や乾物がずらりと並んでいた。見たことがないものも沢山あり、興奮して店に足を踏み入れる。


 「うわっ!なにこれ、凄いっ」


 何やら分からないペーストや、液体が入った瓶を手に取って見ていると、アルトゥールとロアルがもの珍しそうにフィオナが手にした瓶を覗き込んでくる。


 「フィオナ、これはなんだ?」

 「料理につかう調味料だよ。私も知らない物が沢山あるよ!この店すごい!」

 「そうか、それは良かったな」


 二人は調味料には興味はないようだが、フィオナがとても興奮しながら楽しそうに選んでいるのを見て、嬉しそうに笑う。

 フィオナは棚を見ていくと、そこには醤油や味噌も置いてあり、それどころか、種類も豊富だった。


 「あっ!すごい!お味噌ってこんなに種類があるんだ!」


 フィオナは気になった味噌を二種類手に取って、店の籠に入れる。

 その裏の棚に行くと今度は香辛料がずらりと並んでいた。


 「あっ!カレー粉!これも買っていこう!色々種類があるなあ。あ、これは辛そう。でもルティは辛いのも食べたそうだったな」


 フィオナはぶつぶつ言いながら、カレー粉を籠にいくつか入れた。

 それから、沢山種類のあるオイルから、オリーブオイルとクルミオイル、ゴマのオイルを籠に入れる。

 そのほか気になる調味料をいくつか籠にいれると会計を済ませた。

 

  これまたぎっしりと重たい紙袋を抱えて店を出ると、いつの間にか外に出ていた、アルトゥールとロアルが楽しそうに話しているのを見て、一瞬足を止めてしまった。

 今行ったらお邪魔かな……。もう少し店を覗いて来ようかと、踵を返そうとすると、目ざといアルトゥールに見つかってしまった。


 「フィオナ、買い物は終わったのか?」

 「え、あ、うん」

 「持つから」


 そう言ってさっと、重たい紙袋を奪われてさまい、フィオナは慌てて取り戻そうとする。


 「服も持って貰っているのにっ。自分で持つよ」

 「いいから」


 そう言って返して貰えず、困ってロアルを見ると、にっと笑い返されてしまった。


 「フィオナはそういう所が良いよね」

 「え?」

 「いや、何でもない。さ、行こう」


 荷物をアルトゥールから奪い返せないまま、フィオナはロアルに背中を押されて、歩き出すはめになってしまった。


 その後もフィオナは、あちこちの店で珍しい食材を買い込むと、満足して噴水広場に戻ってきた。


 三人で一休みしようとベンチに向かっていると、前からうつむいて歩いて来た女性が、ふらりとぐらつくいて、目の前で膝をついてしまった。


 「大丈夫ですか!?」


 とっさに駆け寄って、その女性を支えようと、手を伸ばして見知った顔にフィオナは目を丸くした。



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