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合同訓練3

 「フィオナたん!フィオナたん!大丈夫かい?」


 ゆさゆさと揺すられて、ぼんやりと目を開くと、パティにアルトゥール、それにロアルの心配そうな顔が見えた。


 「フィオナたん、魔力を使いきったねえ!あはははは!ポーション飲めるかね?」


 パティが口元にポーション瓶を持ってくる。

 頭をパティに抱きかかえられて、瓶を傾けられると、勢いよく入ってきた液体にむせてしまった。


 「おっと、ごめんよ。シキ君みたいに口移しの方がいいかね?」


 パティの爆弾発言にアルトゥールとロアルがぎょっとした顔をする。フィオナはなんとか首を横に振ると、パティが残念そうに瓶を口元に持ってきて残りを飲ませる。


 「口移しならアルト君にでもやってもらったのに。つまらないなあ」


 フィオナはパティならやりかねないと、慌ててふるふると顔を振る。

 そんなフィオナをアルトゥールが微妙な顔で見たいたが、フィオナは気づかなかった。


 ポーションを飲んでもまだ良くならないフィオナは、座って木にもたれかかり休むことにした。

 いつの間にか最初の集合場所に運ばれていたようで、それぞれ各チームが集合している。


 「それでは今日の試合結果を発表する。本日一番獲得数が多かったのは、赤チームだ。とくに最後の赤チームと青チームの試合では、赤チームの作戦勝ちといったところだな。それに比べ青チームは、個人の能力のみに頼りチームとして統率が取れていなかった。今後の課題だな。黄色チームはチームとして統率は取れていたが、個人個人の能力が足りていない。緑チームは、それぞれの特技をもっと生かしていればもう少し健闘できただろうな。これからも日々精進して次回の訓練ではより成果を上げられるように!以上今日の訓練を終了とする。解散!」


 セオ隊長がそうしめると、それぞれ皆各部署へと戻るため森を下りていく。

 

 休んでいるフィオナの元に、セオ隊長とイアン副隊長がやって来た。


 「気分はどうだ?」

 「あ、はい。まだ立てなそうですけど、さっきよりは良くなりました」

 「そうか。イアンに聞いたが、かなりの活躍だったようだな」

 「隊長邪魔。フィオナさんお疲れ様。すごかったよ。さすが各部署から引っ張りだこだけあるね」


 押しのけられた隊長が、寂しそうな顔になっているのが見えて可哀想になる。


 「あ、いえ……。なんだか倒れてご迷惑をおかけしました。イアン副隊長が運んでくださったんですか?」

 「いや、アルト君が、すっごい怖い顔で運んでたよ」


 思い出したのかイアンがくすくすと笑いだす。

 すると噂のアルトゥールとパティ、ロアルがやって来た。


 「フィオナ、大丈夫か?」

 「アルト、運んでくれたんだって?ごめんね、迷惑かけて」

 「そんなことは気にするな。それより今日はお前に完全にやられてしまったな」

 「そうそう、フィオナが作戦考えたんだよ。名付けて黒豹捕縛大作戦!」


 ロアルが楽し気に言うと、アルトゥールが、ロアルをぎろっと睨む。


 「赤チーム勝ったんですね。良かった」

 「フィオナがアルトを押さえていてくれたおかげだよ」

 「そうそう!あと忘れて貰っては困るけど、私が囮として頑張ったからだね!」


 パティが得意げに言うと、アルトゥールが冷やかな視線を送る。


 「なんだいアルト君。そんな目で私を見て!あれだけ私の下着姿を見ておきながらまだ足りないのかね!?」

 「はあ!?下着姿!?何それ」


 ロアルが目を丸くしてアルトゥールを見る。


 「パティ副室長、いい加減にしてくだい!」

 

 アルトゥールが怒鳴ると、パティはケラケラと笑ってあっという間に逃げて行った。


 「フィオナ君立てないようなら、魔植物園まで送ろう。背中に乗りなさい」


 セオ隊長がしゃがんで背を向けて来る。

 その背をイアンが思い切り蹴とばした。


 「あなたの汗くさい背中に乗せられるわけないでしょう。とっとと帰りなさい隊長。アルト君、君南でしょ?フィオナさんを送っていくように」


 ぴしゃりとイアンに言われ、セオ隊長は若干涙目になる。


 「あの!セオ隊長!ありがとうございます!」


 しょんぼり肩を落として歩いていくセオにフィオナが声を掛けると、セオ隊長はぱっと振り向いて、ニヤリと笑った。

 元々顔付きが怖いので、笑った顔が凶悪に見えてしまい、フィオナはうっかり顔を引きつらせてしまう。それを見たイアンが、セオ隊長の頭をわしずかみにして前を向かせると、引きずるように帰っていった。


 「あの二人っていつもあんな風なの?」


 なんとも不思議な光景にフィオナが尋ねると、アルトゥールとロアルが同時にうなずく。


 「北の騎士団長は本当はイアンさんなんじゃないかって噂もあるくらい、いつもあんな感じ。な、アルト」

 「ああ、セオ隊長はあんな顔してるけど、中身はめちゃくちゃ優しくていい人だから。その分副隊長のイアンさんが、すごくしっかりしているというかなんというか……」

 「そうなんだ……。最初見た時セオ隊長の事すごく怖い人かと思ったけど、そうじゃないみたいね」

 「ああ、怖いのはどちらかというとイアンさんだな。さ、フィオナ、送っていくから帰ろう。背中に乗って」


 アルトゥールが腰をかがめて背中を差し出すと、ロアルが間に入って来た。


 「背負って帰ったら大変だろう?フィオナ、俺の箒の後ろに乗って行けよ。飛んでいけば魔植物園まで早いし」

 「え?ああ、それもそうね」

 「いや、おれが背負っていく。イアンさんに頼まれたしな」

 「それじゃあ時間がかかるだろうって言ってんの」

 「じゃあ、背負って走る」

 「はあ!?」


 なぜかアルトゥールとロアルが言い争いを始めてしまった。


 「ちょっと待って、やめてよ!私もう少し休んだら立てそうだし、そうしたら自分で箒で帰るから」

 「だめだ」


 アルトゥールがフィオナを横抱きにして持ち上げる。いつもシキに抱きかかえられている感触と違って、なぜかフィオナは違和感に身体が拒絶する。持ち上げられている腕の太さも、肩にあたる胸板の厚さもがっちりとしていて、シキとは全然ちがう。とにかく降ろして欲しいという気持ちが強くなる。


 「ちょっと!アルト!お、降ろして!」

 「おい、アルト、さすがにそれはやめてやれっ」


 ロアルも必死にアルトゥールに抗議する。


 「嫌だ。ほら帰るぞ」

 「お願い!アルト!アルトに送ってもらうから!だからお願い!恥ずかしいから、これはやめて!」


 身体をひねって抵抗すると、落ちそうになるのを恐れたのか、アルトゥールは渋々フィオナを下ろした。

 フィオナはほっとすると、目の前に差し出される背中に仕方なく手を伸ばして、ロアルに顔を向ける。


 「ロアルさん、ありがとう。今日はアルトに送ってもらうね」

 「……そうか。じゃあ俺も途中まで一緒に歩いていくよ。そんな風に二人で歩いて行ったら目立つだろう」


 ロアルの申し出にフィオナは少しほっとする。

 アルトゥールに背負われて二人きりで王宮を抜けて歩いていったら、なんだかまた変な噂が立ってしまいそうだ。


 「本当?いいの?私が見ていない時の赤チームの様子を聞きたかったから、そうしてくれると嬉しいです」


 フィオナがそう言うと、ロアルがにっと笑って、アルトゥールを見る。アルトゥールもロアルを目を細めてじっと見る。


 あれ?もしかして……。

 フィオナはまたもや、むくむくと湧き上がってくる妄想に必死に首を振る。

 アルトゥールが他の人を背負って二人きりで歩いて行くのを、ロアルが嫌がっているのではないかと思ってしまったのだ。

 今は考えないようにしよう。


 フィオナはアルトゥールに背負われ、やはり注目を浴びつつ王宮を抜けて魔植物園まで運んでもらってしまった。ロアルが何かとフィオナに話しかけながら、南のゲートまで一緒についてきてくれたので、あまり周りを気にせずにいられた。アルトゥールと二人きりで王宮を抜けてきたら、おそらくフィオナは周りの視線に耐えきれなかっただろう。ロアルに感謝だ。


 アルトゥールは南のゲートに到着すると、背負われているフィオナを見て、驚いている他の騎士達に事情を説明すると、魔植物園の中に入る。


 「なんだかもういろんな人達に、情けない恰好を見られて恥ずかしい」


 ぼそっとフィオナがつぶやくと、アルトゥールはふっと笑って言った。


 「パティ副室長と二人で俺を散々コケにした罰だな」

 「私は何もしていないじゃない」

 「いーや。フィオナもグルだった」

 「ふふっ、でもおかしかった」

 「この!今度やったら許さないからな」

 「あれはアルトが悪いんだよ?一人で突っ走って行動するから、そういう目に合うの」

 「……まあ、それは俺も今回の事で反省した」

 「へえ!えらいね!」


 フィオナがほめると、アルトゥールがブスッとしたのが顔を見なくても分かって、思わずくすりと笑ってしまった。

 管理棟に入ると、二階から甘いいい匂いが漂ってきた。シキがなにか料理をしているに違いない。


 「アルト、降ろして!」

 「座れる場所まで運ぶよ」

 「多分もう立てるから!」

 「いいよ。降りて力が入らなかったら大変だろう?」


 二人が言い争っていると、二階から降りて来る足音が聞こえてきた。

 なぜかシキに背負われている姿を見られたくなくて、アルトゥールの肩を叩く。


 「ねえ!降ろして」

 「フィオナ?」


 ちょうどそこにシキが顔を出す。


 「シキ!」

 「あれ?えっと、君は南騎士団のアルト君だっけ?」

 「はい、そうです。訓練中にフィオナが魔力切れを起こして歩けなくなったので送って来ました」


 背負ったままさらりと言うアルトゥールに、フィオナは情けなさに、顔を赤らめてうつむく。なによりアルトゥールに背負われているのをこれ以上シキに見られたくなかった。


 「もう大丈夫だから!降ろして」


 フィオナが叫ぶと、シキが近づいてきて背負われているフィオナの顔をのぞき込むみ、そのまま頬に手を当てる。


 「フィオナ、まだ魔力全然戻ってないでしょ。顔を見たら分かるよ。アルト君悪いけどそのまま二階に上がってきてくれるかな?」

 「はい」


 さらりと言うシキに、フィオナはなぜかどしようもなく胸が締め付けられた。

 シキに案内されてアルトゥールは二階に上がると、ソファにフィオナを降ろす。

 フィオナはそのままぐったりとソファにもたれかかってしまった。


 「じゃあ、俺はこれで。フィオナ、またな。ゆっくり休めよ」

 「あ、うん。アルト、ありがとう」


 力なくも礼を口にすると、帰ろうとするアルトゥールにシキがにっこりと微笑んで何かを渡した。


 「アルト君、フィオナを送ってくれてありがとう。これさっき作ったお菓子なんだ。良かったら食べて」

 「え?あ、ありがとうございます」

 「フィオナを送ってくれたお礼だよ。さ、下まで送るよ」


 シキはアルトゥールを見送るため、下まで降りて行った。


 一人になると、フィオナはどうしようもなく落ち込んでしまい、ソファにそのまま横になると両腕で顔を覆った。アルトゥールに背負われて帰ってくるところをシキに見られてしまって、何だかもやもやしてたまらない。

 きっと配達もろくにできないと思われてしまっただろう。

 情けなさすぎる。


 シキが戻ってくる足音が聞こえる。

 足音はソファの横でぴたりと止まるが、フィオナは顔を隠した腕をそのままに黙っている。


 「フィオナ。顔見せて」

 「やだ」

 「どうして?」

 「情けない」

 

 シキがくすりと笑う気配がした。

 シキは強引にフィオナの身体を起こすとソファにさっと座って、自分の膝にフィオナの頭を乗せてしまう。


 「シキっ」


 驚いて腕を顔からどけてしまい、上から見下ろすシキと目が合って、また腕で顔を隠す。


 「魔力切れだなんて、何をしてきたの?」

 「医療室に行ったら、アザリー室長が、北の森で合同訓練をしているから見学してきたらっていうから、行ってみたら、人数が足りていないからって参加することになっちゃったの」

 「それで頑張りすぎて魔力切れを起こしたの?」

 

 フィオナがかすかにうなずくと、シキはぷっと吹き出した。


 「なんで笑うの!?」

 

 思わず腕をどけて恨めし気にシキを見ると、ふわりと微笑まれてしまった。

 その顔を見た途端、急に身体から力が抜ける。


 「ごめん。フィオナはどこに行っても一生懸命だなと思って」


 シキはそう言って、フィオナの頭を撫でる。撫でてくるいつもの手が、気持ちよくて目を瞑る。


 「フィオナ、まだだるいでしょ?薬室の中級ポーションじゃ、空っぽになったフィオナの魔力はたいして戻らないだろうからね」


 シキはそう言ってポケットから金のシールのポーション瓶を取り出して開ける。

 それを見たフィオナは、がばっと起き上がると、シキから距離をとる。


 「だめです!勿体ない!私、今日思ったんです。ここのポーションがどれだけすごいのかって。そんな貴重なポーションを簡単に飲むわけにはいきません!」


 シキは優しく微笑むと、逃げようとしているフィオナの腕をつかんで引き戻す。

 まだふらついていたせいで、ソファに倒れ込んでしまった。

 シキはポーションを口に含むと、ソファに倒れ込んでいるフィオナに覆いかぶさるようにして唇を塞ぐ。

 こくりとポーションを飲み込むと、そっと唇が離れていく。


 「シキっ」


 泣きそうな声を出すと、シキがフィオナを見降ろしながら囁く。


 「フィオナ、こういう時に僕から逃げられた事があった?」


 そう言ってシキはまたポーションを口に含んでフィオナの唇を塞ぐ。

 ポーションを飲み込むと、唇が離れて、微笑まれる。


 「あと一回」


 こんな時のシキから逃げられた事がないのは、フィオナが一番よく知っている。

 フィオナは観念して、シキが唇を塞ぎにくるのを、大人しく待つのだった。


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