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合同訓練1

 「え?今なんて……?」

 「あの二人、きっと隠れて付き合っているのよ」


 ユアラがくしゃっと顔を歪めて声を絞り出す。


 「ユアラ副室長、それはないですって。なんでそんな話しになるんですか!?」

 「だって、私と喧嘩するたびに、シキの所に行って泊まってくるし、いつも、シキの心配ばっかりしてるし、それにやっぱり、あのシキがアキにだけは優しいじゃない!」

 「シキは誰にでも優しいですよ?」

 「そんな事ないわよ!他の人には優しい振りしてるだけよ!分かるもの!本気で優しくしてるのはアキだけなの!」

 「そうかなあ……」


 この思い込みの激しいユアラをどうやってなだめようか、フィオナは考える。


 「私と喧嘩すると、いつもシキの所に行って夜遅くまで帰って来ないし、下手すると朝帰りの時だってあるわ。それにいつも、シキの事ばっかり心配してるし」


 ユアラは目に涙をためる。


 「この前なんて、喧嘩の後シキの所に行ったきり夜遅くまで帰って来なくて、しかもその時食べた料理が凄く美味しかったって言うのよ?私の作った料理は滅多に褒めてなんてくれないのに、シキの料理は褒めるのよ!?」

 「ユアラ副室長、それ先週ですか?もしそうなら、それ多分私が作った料理だと思います。このあたりでは見かけない料理を作ったので、きっとアキ室長が珍しがって話したんじゃないですか?その日は私も一緒に居ましたけど、夜まで飲んでいただけですよ?」

 「あなたが作ったの?」

 「そうですよ。それに、アキ室長、飲みながらずっと、ユアラ副室長の話しをしていましたよ?なんだか誤解されてしまったって、泣きそうになっていました」


 ユアラの目が驚きに見開かれる。


 「本当に?」


 涙で潤んだ目でじっと見つめられて、しみじみ、なんて綺麗な人なんだろうと思った。フィオナは正直に思ったまま言葉にする。


 「本当ですよ。ユアラ副室長はそんなに綺麗で一途で素敵な女性なんですから、アキ室長が浮気なんてするわけないじゃないですか。アキ室長はユアラ副室長の事凄く大事なんだなって、見ていたら分かります」

 「本当にそう思う?」

 「はい。シキとアキ室長は本当にただの友人だと思いますよ。信じてあげて下さい。アキ室長、この前の夜、ユアラ副室長に嫌われたかもしれないって、もしそうなったら生きていけないって、言ってたんですよ」

 「アキがそんな事を?」

 「はい。ユアラ副室長はアキ室長に凄く愛されていて、羨ましいです」

 「フィオナさん、あなたって、本当にすごくすごくいい子ね!」


 突然ユアラがフィオナに抱きついてきた。フィオナは、一瞬驚いたが、すぐにユアラの背をやんわり抱き返す。


 「ただいまー。ポーション貰ってきたよ……」


 ドアが突然開いて、入ってきたアキレオが、抱き合っているフィオナとユアラを見て固まった。


 「ちょっ、ちょっと!何!?何してるの!?は、離れて、離れて!」


 アキレオが、ユアラの肩を掴んで、フィオナから引き剥がす。


 「な、なによ。アキ」

 「なんで二人で抱き合ってるのさ!」

 「はあ?別に女同士なんだしいいじゃない」

 「よくないよ!君は僕だけのものなんだから!相手が女でも僕以外と抱き合ったりしないで」


 そう言うと、アキレオはユアラを力いっぱい抱きしめる。

 フィオナがそれを見てくすっと笑うと、ユアラが眉を下げて照れた。


 「アキ、それよりフィオナさんにポーションを」

 「あ、そうだ!フィオナちゃん、はい。これ飲んで」

 「私、治療魔法使えるので、わざわざ良かったのに……」

 「いいから、いいから。もう貰ってきちゃったし」


 フィオナは、それもそうかと、アキレオに渡されたポーション瓶の蓋を開けて一気に飲み干した。

 額から出ていた血は、タオルで抑えていたので、だいぶ止まってきていたが、ポーションを飲んでも、魔植物園の傷薬のように、あっと言う間に治る事はなかった。


 「あれ、飲んだのに治りませんね?」


 思わずそうこぼすと、アキレオとユアラが顔を見合わせて笑う。


 「そりゃそうさ。飲んですぐ治るなんてふざけた薬は魔植物園のポーションだけだよ。普通は飲んでからしばらくは時間がかかるものだよ?」


 そういえば、リザナに習った魔法薬も、効き目はそんなものだったなと、今更ながらに思い出す。すっかり魔植物園のポーションに慣れてしまって忘れていたが、普通の魔法薬とはそういうものだ。魔植物の薬がどれだけ効力が高いのか、フィオナは身をもって感じてしまった。


 「そういえば、そうですよね……。シキがいつも気軽に飲ませてくれるけど、貴重な薬なんですよね」


 フィオナが顔を曇らせると、アキレオがニヤニヤと笑う。


 「あいつにしてみたら、フィオナちゃんに飲ませる分くらいなんでもないよ」

 「でも、私が飲んだ分、ちゃんと働いて返さなきゃ」

 「君は真面目だねー」


 アキレオはぷっと吹き出すと、何故か嬉しそうに笑った。


 三十分くらい経つと、額の傷は徐々に塞がってきた。


 「良かったわ。本当にごめんなさいね」


 ユアラがフィオナの顔を覗き込んで、ほっとした声を出す。アキレオは他の職員に呼ばれて、今はユアラと二人きりだ。


 「いえ、もう大丈夫そうです。休ませて貰ってありがとうございました」

 「ううん、あなたと話せて良かったわ。私なんだか一人で勘違いしてたみたい」

 「誤解が解けたみたいで良かったです。ユアラ副室長、今度良かったらカレーの作り方教えますから、アキ室長と管理棟に遊びに来て下さい」

 「カレー?」

 「アキ室長が言っていた料理ですよ」

 「本当!?ぜひ教えて欲しいわ!あ、あと副室長ってなんだから堅苦しいし、ユアラって呼んで。私もフィオナって呼ぶわ」

 「さすがに呼び捨てはまずいので、じゃあ……ユアラさん、今度ぜひ来てくださいね」

 「ふふふっ、まあいいわ。フィオナ、今度絶対に行くからね」

 「はいっ」


 眩しいくらいに綺麗な顔で微笑まれて、つくづくアキレオが羨ましくなってしまった。



 フィオナは開発室を出て、王宮の北の森へと向かっていた。

 アザリー室長に合同訓練の見学に行くと言ってしまった手前、このまま帰るわけにはいかない。もし無視して帰ってしまったら、またシキのせいにされてしまいそうだ。


 「それにしても北の森ってどこかな……。まあ、北なんだろうけど」


 フィオナは一旦王宮の建物から出ると、箒に乗って北に向かって飛んでいった。

 それにしても、この王宮はどれだけ広いのだろう。

 フィオナは結界の高さに気を付けながら、辺りをきょろきょろと見渡して、飛んでいく。


 中央にどんと構える王宮宮殿の周りには、いくつかの建物や塔が立っており、南には魔植物園、北から東にかけては広い森が広がっている。西には広い庭に続いて正門があり、正門の向こう側にはここカプラス王国の首都エルカシュレの街並みが広がっている。


 つまりのところ、王宮は北東にある長い山脈を背にして立っているのだ。この山脈の一部分は国で管理しており、一般人の立ち入りが禁止されている。その国で管理している山の一部を使って合同訓練が行われているのだった。


 フィオナが箒で飛んでいくと、下に、北の騎士団の詰め所らしきものが見えた。何人もの騎士が周りにいるので間違いないだろう。

 フィオナはすっとその場所に向かって、箒の高度を下げていく。

 何人かの騎士が固まっている場所に降り立つと、上空から降りてきた黒地に金のローブを来たフィオナに男たちは目を丸くした。


 「すいません、ちょっとお尋ねしたいのですが」


 フィオナがにこやかに話しかけると、数人いた騎士達がわっと寄ってきた。


 「君、今年入った主席魔導士の子!?」

 「なになに!?どうしたの!?」

 「うわっ!すっげえ可愛い!」


 がっちりとした筋肉の大きな騎士達にたじろぎながらも、フィオナはなんとか笑みを浮かべて尋ねた。


 「あの、北の森で合同訓練をしていると聞いたんですが、場所が分からなくて……。もし、知っていたら教えて貰えないかと」

 「合同訓練?ああ、今日隊長達が行っているやつか。それなら、この奥の森でやっているはずだけど、分かりずらい場所だから案内するよ」

 「いや、俺が案内する」

 「ずるいぞ!俺がいく!」


 騎士達は、散々もめたあとくじで誰が案内するかを決めだした。

 フィオナはそれを見ながら苦笑いする。


 「よっしゃあ!俺だ!」


 その中の赤茶色の髪の男がガッツポーズをして、フィオナに駆け寄ってきた。


 「よし!行こう!俺が案内するよ」

 「はあ、お仕事中すみません」

 「いやいや!困った女性を助けるのも騎士の仕事ですから!」


 男がそう言うと、くじで負けた男たちが、舌打ちをする。

 赤茶色の髪の男は、そんな仲間達に勝ち誇ったように、鼻でふんと笑うと、フィオナを連れて歩き出した。

 北の騎士団の詰め所からまもなくすると、すぐに森に入る小道が見えてきた。


 「結構すぐ上り坂になっているからね。ゆっくり歩くけど、早かったら言ってね」


 男はそう言うと、機嫌がよさそうに、森に踏みいってゆく。フィオナも小さい頃から森には慣れているので、男に遅れることなく、傾斜のある山道を登っていった。


 「大丈夫?早くない?疲れたら言ってね」

 「全然大丈夫ですよ」

 「あ、そう……。君結構体力あるんだね」


 十分ほど山道を上がっていくと、急に開けた平らな場所に出た。

 そこには二十名ほどの魔導士と騎士達が集まっていた。


 「さ、着いたよ。合同訓練に参加するんだよね。指揮官はウチの隊長なんだ。紹介するね」

 「あ、参加ではなくて……」


 フィオナが最後まで言うのを聞かずに、男は隊長を呼びに行ってしまう。


 「フィオナ!?」


 急に後ろから声を掛けられてびくっと振り向くと、黒い髪を一つに束ねた見慣れた顔があった。


 「アルト!」

 「なんでここに居るんだ!?」

 「アザリー室長に言われて見学にきたの」

 

 思いがけず知った顔に会えてほっとしてしていると、騎士の男が隊長を連れて戻って来た。


 「君が、今年魔植物園に入ったという新人か?」

 「あ、はい!フィオナ・マーメルです。よろしくお願いします」

 「私は、北の騎士団隊長、セオ・ブラックウェルだ」


 フィオナは挨拶をしつつも、北の隊長を見て腰が引ける。

 北の隊長セオ・ブラックウェルは、南騎士団隊長のナックとは違って、ものすごく見た目が怖かった。鋭く吊り上がった切れ長の目に、鷲鼻、への字に曲げられた口には、タバコが咥えられている。アルトゥールと同じくらい身長が高く、短い金髪を逆立てるように立てていて、その分より高く見える。まるで太ってはいないのに、がっしりとした体つきといい、今まで会った騎士団隊長の中では、見た目的に一番強そうに見えた。

 セオ隊長は、咥えていたたばこの煙をふーっと吐き出して、フィオナをじろりと見る。そして口を開こうとした途端、背後から思い切り頭を叩かれた。


 「いってええ!」

 「セオ隊長。歩きタバコはやめてください。それから新人の女の子を威圧するのもやめてください」


 後ろから、騎士団の制服を着た、ものすごい美女が、セオ隊長のタバコを奪い取り、土の上に落として踏みつける。


 「ちょ、イアン!何すんの!?」

 「拾え。隊長」


 冷ややかにあごで地面のタバコを指され、セオ隊長が舌打ちしてタバコを拾う。


 「失礼。フィオナさん。僕は北の副隊長のイアン・ノーランドです。隊長が失礼をしました」

 「え?僕?え、男の人!?」

 「あはは!よく間違われるんですが、れっきとした男ですよ」


 イアンは肩までのふわりとした茶色の髪をゆらして微笑む。

 ユアラが妖艶な大人の美女なら、イアンは清楚で高潔な美女といった感じだ。身長はフィオナよりは高いが、他の騎士団の団員に比べると、かなり華奢な体格をしている。


 「その、し、失礼しました!」


 フィオナが謝ると、イアンはにっこりと微笑む。


 「いいえ、お気になさらずに。今日は合同訓練に参加しに来てくれたんですか?」


 イアンはセオ隊長そっちのけでフィオナに話し掛ける。


 「いえ、アザリー室長に見学を勧められて、見に来たんです」

 「そうだったですか……。でもせっかくですから、参加して行かれては?ちょうど一人人数が足りてないチームがあるんですよ。ね?アルト君」


 急に話を振られたアルトゥールが驚いたように目を見開く。


 「おい、お前ら。隊長の俺を差し置いて……」

 「うるさい。隊長」


 イアンが笑顔でぴしゃりと言うと、隊長が若干涙目になる。

 セオ隊長は、威厳もなにもかもイアンにへし折られて、なんだか可哀想になってしまう。最初は怖いと思ったが、もうそんな事は微塵も感じられない。


 「フィオナ、訓練に参加していくか?俺のチーム、一人足りていなんだ」


 アルトが、にやっと笑ってフィオナを見る。


 「訓練なんて言われても、私何も知らないし、今来たばっかりだし……」

 「大丈夫だ。ちゃんと俺が教える」


 フィオナが困った様にイアンを見ると、にっこりと微笑み返されてしまった。


 「でも……」

 「いいから。じゃあ、フィオナは俺のチームで」


 強引にアルトに腕を引っ張られてしまい、フィオナは面倒な事に巻き込まれてしまったと、こっそりため息をつくのだった。

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