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二人が付き合っているように思えて仕方ないの

 フィオナは手早くシャワーを浴びると、着替えてキッチンへと向かう。

 今日はルティのために、お寿司を作るつもりだ。醤油で根野菜を甘辛く煮たものとお酢をご飯に混ぜて作る、ちらし寿司。

 これはリザナがフィオナの誕生日によく作ってくれたのだ。甘酸っぱいご飯が美味しくてフィオナの大好物だ。

 手際よくお昼用のちらし寿司と、朝食を作り、コーヒーを淹れる。


 とっくに七時を回っているが、シキが降りてくる気配がないので、フィオナは三階の寝室に上がっていった。

 部屋に入ると、シキはまるで死んでいるかのように微動だにせず眠っている。


 どうしよう……。


 このところ、シキは全然睡眠を取っていないようだった。出来れば気が済むまで寝かせておいてあげたい。

 フィオナはベッドサイドの椅子に座って、シキの寝顔を見ながら、悩んでしまう。

 ルティに今日はシキを寝かせておいてもらえないか聞いてみようか。

 それじゃあ、昨日までのが罰にならないと怒られてしまうだろうか。

 それに、あんまり沢山寝てしまうと、また夜寝れなくなってしまうかもしれない。


 フィオナは、可哀想だがシキを起こす事に決め、手を伸ばし触れる直前で、ぴたりと止める。


 そういえば寝起き悪いんだった。


 以前はベッドに引っ張りこまれて抱き枕にされてしまった。

 でも、昨晩一緒に寝ておいて今更という気もする。


 フィオナはシキの肩を揺すった。


 「シキ、朝ですよ」

 「ん……」

 「朝ご飯出来ていますよ。起きて下さい」

 「うん……」


 シキはぼんやりと目を開くと、そのままじっとフィオナの顔を見つめる。


 「フィオナ……」

 「はい?」

 「すごい」

 「え?」

 「フィオナ抱いてたら、すぐ眠れた」


 他人が聞いたら誤解されそうな言葉を、真顔で言われて、つい恥ずかしくなり、そっけなく返す。


 「本当ですか?それなら良かったです」

 「久しぶりにちゃんと眠れた気がする」

 「少しでもいいから、ちゃんと毎日寝ないとだめですよ」

 「フィオナが一緒に寝てくれるなら寝るよ」

 「何馬鹿な事言ってるんですか。さ、早く起きて下さい」

 「結構本気なのに……」


 フィオナが、毛布を取り上げると、シキはつまらなそうな顔をして、起き上がった。

 フィオナは部屋を出ると、足を止めて、振り返ると、寝室の扉から顔だけ中にのぞかせる。


 「どうしても寝れない時は一緒に寝てあげます」


 それだけ口早に言うと、恥ずかしさを隠すようにすぐに扉を閉めてキッチンへと降りていった。



 午前中は畑の管理だ。チューリップの扱いにもだいぶ慣れて、いつも通り糖度確認をして肥料をやる。それが終わったら水やりだ。

 相変わらず、フィオナは、蜜の催淫効果で、途中動けなくなってしまった。

 これは一体いつになったらシキのように耐性がつくのだろうか。


 「シキはどのくらいでチューリップの耐性がつきましたか?」


 あぐらをかいたシキに膝枕されているフィオナは、見上げて尋ねる。


 「僕?多分、二、三回かな?最初からあんまり効果も強くは出なかったし」

 「え!?二、三回!?私、もう十回近くここで倒れている気がするんですけど!」

 「それが普通だと思うよ?僕、ちょと異常体質なんだよ。もともと毒とかが効きづらいし、今まで耐性のなかった毒素も大抵数回で慣れて耐性が出来ちゃうんだ。特区の奴らは毒性が強いから、毒が全く効かなくなるわけじゃないけどね」

 「そうなんだ……。なんだかシキはここに勤めるために生まれてきたみたいですね」

 「ふふっ、全くだね」

 「私は一体いつになったら、チューリップの耐性がつくんだろう」

 「そのうちつくよ。普通は時間がかかるものなんだ。そんなひと月やふた月くらいじゃ耐性はつかないよ。早くて三ヶ月後かな?」

 「えええっ、そんなにかかるの!?」

 「別にいいじゃない。僕はこうやってフィオナと芝生でごろごろするの好きだし」

 「それじゃあ、シキが自分の仕事ができないじゃないですか」

 「またそれ?夜にやるから大丈夫だって」

 「夜は寝て欲しいんです」

 「それは今日も一緒に寝たいって事?」

 「違いますー!もう!」


 フィオナは頬を膨らませてそっぽを向くと、シキはふわりと笑って、その髪を優しく撫でた。


 畑の管理を終えて管理棟に戻ると、ルティが待ってましたとばかりに二階から降りて来た。


 「フィオナ!お帰り!待っていたよ」

 「どうしたんですか?」

 「どうしたんですかって、昨日の約束を忘れたとは言わせないよ!」

 「なんだ、ご飯ですね」


 フィオナがくすくすと笑うと、シキが不服そうな声を漏らす。


 「ルティ、僕にもお帰りって言ってよ。酷いなあ」

 「あー、お帰り、お帰り」

 「ルティ棒読み。でもまあいいや。昨日早く地下から出してくれたから、許してあげる」

 「私は優しいだろう?」

 「うん」


 そんな二人にフィオナはとっておきのお弁当を渡す。


 「はい。今日のお昼ですよ」

 「え?作ってきたのかい?もしかして、昨日とは違うおにぎり?」

 「ふふふっ、おにぎりじゃないですよ。開けてみてください」

 

 お弁当を開けたルティが目を輝かせる。


 「何だいこれは!すっごくきれいだね!食べ物だよね!?」


 お弁当の中のちらし寿司は、金糸卵に茹でたエビ、細切りのアスパラ、レンコンで彩りよく飾られている。


 「すごいね、フィオナ。これなんて言う料理なの。もはや芸術作品だよ」


 シキもお弁当を見て目を丸くする。


 「ちらし寿司ですよ。早く食べましょう」


 フィオナはお茶を淹れると、二人にお弁当を勧める。


 「なんか食べちゃうのが勿体ないね」

 「そんなこと言わないで食べてください。せっかく作ったのに」


 なかなか手を付けられないでいるシキの横で、ルティアナがごっそりとスプーンでご飯をすくうと、口に入れる。


 「うまーい!!!これはまた、今まで食べた事がない!フィオナ!私は決めたよ。どこからどんな要請があってもあんたを魔植物園から異動させないからね!」

 「それは、嬉しいですけど、なんかもっと他の部分でそう言って欲しかったです……」

 「本当に美味しいよ。うん、僕も決めたよ。フィオナが他に行きたいって言っても、どんな手を使っても阻止するって」

 「ええええっ?この前まで私が希望するなら他に行ってもいいって言ってたくせに!何?お米ってそんなにすごいの!?」

 「いいじゃない。フィオナは他に行くつもりはないんでしょう?」

 「そうだけど……。」

 「ルティ。フィオナはずっとここにいるってさ」 

 「うんうん、これから毎日美味しいお米料理が食べれるね!」


 嬉しそうにお弁当を食べる二人にフィオナは、なんとも複雑になる。


 「私の価値ってご飯だけ……?」

 「フィオナ、嘘だよ。ご飯は関係なしに、ずっとここに居てほしいよ。本当だから」

 

 シキにそう言って微笑まれたら、もう負けだ。

 フィオナはあっという間に機嫌を直してお弁当を食べ始めるのだった。



 「フィオナ、今日は水曜日だから配達に行ってきて」

 「はい。今日はどこに配達ですか?」

 「いつも通り全部だね。フィオナに配達に来させるために、必要がなくても、ちょっとずつ注文入れてくるんだよ。みてよ、医療室なんて、魔力回復ポーション三本だって。これ絶対いらないよね」

 「あ、あははは……。アザリー室長ですよね、きっと」

 「多分ね。まあ、約束は約束だし頼むよ。前にも言った通り、見学してきたかったらしてきても構わないからね。他の部署を知る事も勉強になると思うし」

 「分かりました。じゃあ行ってきます」

 「うん、気を付けていってらっしゃい」


 いつもより軽い肩掛けカバンを持ってフィオナは箒に乗ると、ゲートまで飛んでいく。

 この前アキ室長が言っていたアルトゥールとの噂の事が気になって、ゲートでつい彼の姿を探してしまう。

 きっとアルトゥールも誤解をされて迷惑だったろうと思うと、気の毒だ。

 ゲートにアルトゥールの姿が見えなかったので、フィオナはそのまま下りずに王宮まで箒を飛ばした。


 王宮の入口につくと、箒から降りたフィオナは、カバンを肩から掛けて歩き出す。まずは一番近い医療室からだ。

 ノックをして入ると、初めて見る男性が応対に出て、すぐに奥に引っ込んで誰かを呼んでいるようだった。するとすぐにアザリー室長がやってきた。


 「まあまあ!フィオナさん!よくいらしたわね!」

 「アザリー室長、注文のポーションをお持ちしました」

 「あら!ありがとう!それからこの前は診療所に来てくれてありがとう。とても助かったわ。パティも凄くあなたの事褒めていたわよ!」


 アザリー室長の勢いに押されて、後ずさりながら尋ねる。


 「そ、そうですか。もう蜘蛛の方は落ち着いたんですか?」

 「ええ、患者も皆治って、診療所も撤収したわ。新しく蜘蛛に噛まれたって人もいないし、もう大丈夫よ」

 「そうですか。良かったです。パティさんは今日はお休みですか?」


 パティに変な噂を流さないように釘を刺したかったのだが、見当たらない。


 「今日は、合同訓練に駆り出されているのよ」

 「合同訓練ですか?」

 「ああ、あなたは知らないわよねえ。シキが教えてくれないものね。魔導警備隊と騎士団、それから医療室が合同で模擬戦をするのよ。警備隊と騎士団が連携して戦えるように、常日ごろから練習しておくといった感じね。医療室はそこで出た怪我人の治療をするのよ。実際第一級魔獣が出たとかってなると、魔導警備隊、騎士団、医療室が駆り出されるから、その練習ね」

 「そうなんですね」

 「あなたも良かったら見学していくと良いわよ。王宮の北の森で訓練をしているはずだから」

 「そうですね……」


 フィオナが迷っていると、アザリーが顔をしかめながら尋ねる。


 「もしかして、シキに早く戻るように強要されているの!?」

 「いえっ!違いますよ!」


 この人はなんだかシキを目の敵にしているなと、内心ため息をつく。


 「じゃあ、見学して行きなさいな!なんなら案内してあげるわよ」

 「いえっ、まだ納品が沢山あるんですよ。全部納品し終わったら、行ってみます」

 「そう?それなら、後で見に行ってみてね」

 「はい」


 フィオナは作り笑いを浮かべ、医療室を出る。アザリー室長はなんだか苦手だ。

 ふうっと息を吐いて、足早に他の納品へ向かった。

 今日は薬室、警備隊、魔道士長室の順で回る。最後に開発室に行きたかったからだ。アキレオと少し話しがしたかった。この前酔っ払ってアキレオに何か迷惑を掛けていなかったか、念の為聞いておかなくては。


 フィオナは、勧誘やら魔導士長の長い話しは、適当にあしらってさくさくと納品を済まし、開発室へと向かう。

 開発室へと到着すると、中から怒鳴り声が聞こえてきた。


 「そんなに言うなら、もうシキの所で毎日ご飯食べれば良いじゃない!」

 「そういう話じゃないだろう!」


 また喧嘩してるのかあ。

 どうしよう、今入って大丈夫だろうか。


 フィオナが扉に手を掛けたまま固まっていると、バンと思い切り扉が開き、フィオナは思い切り頭を扉に叩きつけられた。


 「いったあ……」


 額に手を当てて、うずくまると、扉を思い切り開けた人間が駆け寄ってくる。


 「やだ!どうしよう!ごめんなさいっ、大丈夫!?」

 「いや、大丈夫……です」


 涙目で、顔を上げると、目の前にユアラが立っていた。


 「あら!あなた、フィオナ・マーメル!」

 「ユアラ副室長!?」

 「やだ!ちょっと、おでこから血が出てる!アキ!アキっ!ちょっと来てっ!」


 ユアラが叫ぶと、アキレオが中からやってくる。


 「なんだよ、ユアラ。怒ってたんじゃ……、あれ?フィオナちゃん!?どうしたの?ちょっと血が出てるっ」

 「アキっ!私が思い切り扉を開けたら、外にこの子がいてドアで思い切りぶつけちゃったの」

 「まったくお前は……。フィオナちゃん、ちょっと見せて」


 涙目でアキレオを向くと、顔をしかめられた。


 「こんなフィオナちゃんをシキに見られたら、俺殺されちゃうよ。ユアラ、彼女を見てて。薬室からポーション貰ってくるから」

 「わ、分かった!」


 フィオナが止める間もなく、アキレオが行ってしまうと、ユアラは泣きそうな顔で、フィオナを立たせる。


 「本当にごめんなさい。私の研究室で休みましょう」

 「あの、ユアラ副室長、大丈夫ですよ。ちょっと衝撃でくらくらしてたけど、私簡単な治療魔法使えますから」

 「そうだとしても、ちょっと休みましょう。さ、来て」


 額から血を流すフィオナを見て、開発室の魔道士達がぎょっとした顔を向けてくる。


 「あ、あの、大丈夫ですからっ」


 周りの人達に心配をかけないように、そう言ってユアラを止めようとするが、彼女はぐいぐいとフィオナを引っ張って、開発室の中にある研究室へ引き入れる。


 「そこに座って」


 強引に椅子に座らされると、ユアラは濡れたタオルを持ってきて、フィオナの額に当てて血を拭う。

 間近で見るとつくづく綺麗な人だなと見惚れてしまう。


 「ごめんね。私ちょっと興奮していて、外に誰かいるなんて思わなかったから」

 「気にしないで下さい。それよりアキ室長と何かあったんですか?」


 ユアラは肩をびくっと引きつらせる。


 「私で良ければ聞きますよ?」


 優しく尋ねると、ユアラは眉を下げて、泣き出しそうな顔で話し出す。


 「ねえ、フィオナさん。あなた魔植物園でシキの部下なのよね?」

 「そうですよ?」

 「あの二人どう思う?」

 「あの二人って?」

 「アキとシキよ。仲が良すぎると思わない?」

 「仲が良すぎる?私は、まだシキとアキ室長が話している所を一度しか見てないですけど、普通に友人同士って感じがしましたよ?」

 「ただの友人だと思う!?あの笑い能面みたいな作り笑いしかしないシキが、アキにはなんだか、違うのよ」

 「ああ、それはなんだか分かります。アキ室長に凄く気を許している感じがしました。親友なんですね、きっと」


 フィオナがこの前の二人の様子を思い出して、にっこりと笑うと、ユアラが大きな瞳に涙をためていた。

 その顔に思わずぎょっとすると、ユアラは涙をこぼして苦しそうに声を出した。


 「本当に親友なのかしら。私には、あの二人が付き合っているように思えて仕方ないの……」


 ユアラの爆弾発言に、フィオナは石像の様に固まってしまった。

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