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傷薬作成2

 「このおにぎりっていうの、ただご飯を握っただけなんだよね!?なんでこんなに美味しいの!?」


 ルティアナが、バスケットから、二個目のおにぎりを取り出して、ぱくりとかぶりつく。


 「お塩も入ってますよ。中の具によっても味は変わりますから、明日は違う具で作って来ますね」

 「うんうん!それにしてもご飯って冷たくなっても美味しいねえ!いや、このおにぎりに関しては冷たいのが美味しいのかもしれない。そして卵焼きと鳥のから揚げに合う!もー、最高だよ!」

 「でしょう?おにぎりって冷たいのになぜか美味しいんですよね」

 「これなら毎日でもおにぎりでも構わないよ!」

 「お味噌とお醤油があればもっと色々できるんですけど、ないんですよね。どこかで売ってないかなぁ」

 「お味噌?お醤油?聞いたことないねえ」

 「豆を発酵させて作った調味料なんです。注文してみたんですけど、届かなかったんですよね」

 「ふうん、じゃあ、こんど私もそういうのに詳しい知り合いに聞いてみるよ」

 「本当ですか!?あ、でもすごく高かったらいいので。手頃な値段で買えるようなら教えてください」

 「そうだね、聞いておくよ」


 どうやらお弁当作戦はルティアナに大好評のようだ。明日もおにぎりにすれば、またシキにお弁当を持ってきてあげれる。

 フィオナはふふっと笑うと、おにぎりにかぶりついた。


 傷薬のポーション作りはなかなかに難航し、終わったのが、夜の九時だった。

 しかも途中あまりの疲労に、キノが淹れてくれたお茶を飲んだあと、一時間も眠ってしまった。

 

 ルティアナに管理棟まで送ってもらうと、フィオナはふらふらとキッチンへと向かった。

 夕飯は軽めに研究棟で済ませたのだが、魔力と集中力を酷使したせいか、お腹が空いてしまった。


 保冷庫の中を見ると、新しく注文した材料が追加されている。


 「あれ?これって……。お味噌だ!あ、こっちはお醤油!?うそ!やった!遅れて届いたんだ!」


 フィオナはあまりの嬉しさに、保冷庫の前で、くるくると回る。

 すると、キッチンのテーブルの方でカタンと音がした。ぱっと顔を向けるが、誰もいない。

 きっとレオナがいたのだろう。

 フィオナは、管理棟に一人ではない事に嬉しくなって、ほっこりと微笑むのだった。



 翌朝、また早めに起きたフィオナは、キッチンにいそいそと向かうと、夜のうちに吸水させておいたお米を火にかけた。


 その間にウィンナーを焼いて、卵焼きをつくる。保冷庫に入っていたアスパラをボイルして、軽く塩を振る。


 ご飯が炊きあがると、フィオナは今日はそのまま塩も具も入れずに、少し小さめにおにぎりを作っていく。できたおにぎりに、味噌と、醤油を塗って、オーブンで焦げない用に焼いて、味噌焼きおにぎりと、醤油焼きおにぎりの完成だ。


 今日もシキの分だけ、別にバスケットに入れると、布で巻いて分からないようにして、準備万端にする。


 シキは昨日のお弁当食べてくれたかな。

 キノにシキは元気かと聞いとき、うなずかなかったのが、気になった。

 明日にはシキに会えるのだ。

 今日一日頑張って仕事をしよう。


 ルティアナに連れられて、研究棟に行くと、キノが外の陽だまりで眠っていた。

 起こさない用に、そっと近づくと、キノが突然目を開いた。


 「ああ、ごめんね。起こしちゃった」


 フィオナがすまなそうにキノの双葉の間を撫でると、キノはフィオナの持っていたバスケットにちらりと視線を向けて、口を笑みの形にした。

 ルティアナが先に中に入っていくと、フィオナはキノに小声で囁く。


 「キノ、また後でシキにお弁当を届けてくれるかな?」


 キノはうなずくと、口を笑みの形にして、双葉の間から蔓を伸ばして、フィオナの頭を撫でた。

 キノもフィオナがシキにお弁当を作ってきた事を喜んでいるようだ。きっとそれは、昨日シキがお弁当を喜んでくれたという事だろう。

 フィオナは嬉しくなって、ふにゃりと笑みをこぼした。


 作業場に入ると、ルティアナが昨日作った試験管をじっと見ていた。

 試験管の液が昨日より少し濃くなっている気がする。


 「昨日の段階でうまく行っているように見えても、翌日になると濁りが出て失敗してたりする事があるからねえ」

 「昨日より、色が濃くなっていませんか?」

 「ああ、それで良いんだよ。フィオナ、残りの試験管も出して濁っているのがないかチェックしな」


 言われた通り、保冷庫から、残りの試験管立てを出すと、一本ずつ確認してみる。


 「あっ……」


 一本だけ、微妙に濁っている試験管があった。


 「ルティ、濁っています」

 「どれ、見せてみな。ああ、本当だねえ。これはだめだ」

 「なんで濁りが出るんですか?」

 「翌日濁りが出るのは、素材がちゃんと溶け切ってないからだよ。微妙に入れた量が多くて、溶けきらなかったか、単に混ぜる時間が足りなかったかだねぇ」

 「完全に溶けたと思ったけど、残っていたんですね」

 「それでも、五十本のうち一本だけだからね。優秀だよ。見てた限り、あんたは、分量を測るのもきっちりしてるし、その一本はたまたまだろう。合格といって問題ない出来だよ」

 「良かった」

 「じゃあ、今日は昨日の続きをやるよ。ダマシハジキの実を持ってきな。あと、魔力水。朝汲んで来たのが、そこにあるよ」

 「汲んで来てくれたんですか?ルティ、ありがとうございます」

 「私が汲んで来たんじゃないけどね」

 「え?」

 「シキがキノと散歩がてら汲みに行ってたよ」

 「わざわざ!?」

 「ずっと地下にこもってるから、出歩きたかったんだろ」

 「そうですか……」

 「それよりポーション作りをやるよ」


 ルティアナは、魔力水を小さな桶に入れると、作業台の上に置く。


 昨日作ったポーションを一つ取って試験立てに立てると、昨日とは別の魔法陣の上に乗せた。


 「昨日出来たこの液から、まずハシリドコロの花を取り出す。一晩液に使った花は、色素が溶けて白っぽくなるんだ。なってなければ、浸ける時間が足りてないって事だね。その花を魔力水の中に入れて、よくすすいでから、そっちの保存液の入った瓶に入れる。色素の抜けたハシリドコロは、他の薬作りで使うからね。それから、ダマシハジキの果肉を入れる。そんでもってかき混ぜる。これも溶けるまでだ。あー、言わなくても分かってると思うけど、ダマシハジキの果肉をこぼすなよ。もしこぼしたら、すぐに布で拭き取って、その後水で流してもう一回拭くこと。それで、使った布はすぐに焼却炉で燃やす。いいね」

 「はい」


 ルティアナは、ダマシハジキの果肉が完全に溶けるまでかき回す。オレンジ色の果肉と淡いピンク色の魔力水が混ざって、丁度その中間の様な色になった。


 「完全に溶けたら、魔法陣の上で魔力を流す。これも昨日とほぼ一緒だね。ただ昨日よりも、魔力量を更に上げる。さ、フィオナ、ちょっと私の手にふれてみな」


 試験管に手をかざしたルティアナに、手を重ねる。


 「魔力量をよく覚えておくんだよ」 


 ルティアナの手に魔力が集まる。確かに昨日よりも大きい。


 「ここからは昨日と同じような感覚だ。程よい強さで流す」


 魔法陣が光り、魔力が流れると、試験管の中の魔力水は鮮やかなオレンジになった。


 「これで完全。ポーション瓶に入れて終了だ。じゃあ、やってみな」


 フィオナは、ハシリドコロの花を取り出して、ダマシハジキの果肉を入れると、果肉がなくなるまで、しつこくかき混ぜた。


 「フィオナ、さすがにもう溶けてるよ」


 しつこく混ぜすぎて、ルティアナに苦笑いされてしまった。

 完全に溶けきったと満足すると、魔法陣の上に乗せて、手をかざす。

 ルティアナが、フィオナの手にふれて、魔力を見てくれる。


 さっきのルティアナと、同じくらいの量の魔力を手に集めて、ふーっと息を吐く。

 昨日散々やった魔力の流し方を思い出して、集中すると、魔法陣を描くように魔力を送り出した。

 魔法陣がふわっと柔らかく光ると、試験管の液に魔力が流れ、鮮やかなオレンジ色になった。


 フィオナは、手を離して、息を吐くと、試験管を覗き込む。


 「ルティ、どうですか?」


 ルティアナは、ふっと鼻で笑うと、口の端を上げた。


 「まったく、あんたは本当に優秀だね。一発でできちまったよ。昨日の成果が活きているね。魔力量も問題ない」

 「やったあ!」

 「それなら、問題なさそうだね。じゃあ、今日中に全部完全させな」

 「はいっ!」

 「あ、魔力水は、試験管十本分の花をすすいだら、新しい水と交換すること。いいね」

 「分かりました」

 「じゃあ、任せたよ。私は二階にいるからね」


 二階の階段を登る途中でルティアナは、急に振り返った。


 「フィオナ、ところで今日のおにぎりの具はなんだい?」


 フィオナはにやっと笑う。


 「今日は具はありませんよ。でも絶対に美味しいと思うので期待しててください」


 ルティアナは、目をぱちくりさせたが、にんまりと嬉しそうな顔をしながら自分の研究室へと入っていった。


 フィオナがポーションを作っていると、外からキノが帰ってきた。

 手がけているポーションが一段落すると、キノに手を引っ張っられてキッチンへと連れていかれる。


 「キノ、お弁当よね?」


 シキへ渡すお弁当をもらうため、フィオナをキッチンへと連れて行ったのだろうと思い、バスケットを出そうとすると、キノはキッチンの棚の扉を開ける。


 そこには、昨日シキに渡したバスケットが入っていた。


 「昨日のバスケットを返そうとしてくれたのね。ありがとう」


 フィオナがそれを受け取って、しまおうとすると、キノに思い切り引っ張られた。


 「え?何?どうしたの?」


 キノはバスケットに向かって双葉の先から蔦を伸ばすと、蓋をカパッと開けた。

 中に紙が入っている。

 フィオナがそれを取り出すと、そこにはシキの字で『美味しかった。ありがとう』と書かれていた。

 うれしくて顔を崩すと、キノも口を笑みの形にした。

 思わずキノをきゅっと抱きしめると、蔦で頭を撫でられて、余計に、ふにゃりと顔を崩してしまった。

 キノに今日の分のお弁当を渡すと、キノはそれを大事そうに持って地下へと降りていった。


 明日にはシキに会えるな。


 フィオナはふうっと息を吐くと、再びポーションづくりに励むのだった。


 お昼のお弁当を見たルティアナは、こんがりと焼き目の付いたおにぎりを見て目を輝かせた。


 「フィオナ!これは!?」

 「焼きおにぎりですよ。昨日言っていた醤油とお味噌が、届いていたんです。こっちは醤油を塗って焼いたもの、こっちはお味噌を塗って焼いたものですよ」

 「不思議な香ばしい香りがするよ!じゃあいただきます!」


 ルティアナが醤油おにぎりにかじりつく。


 「!」

 「どうですか?この辺では、あまり馴染みのない調味料なので、もしかしたら好き嫌いがあるかもとは思ったんですけど」

 「フィオナ!これ!うまいよ!うますぎる!」


 ルティアナは醤油おにぎりを一気に食べてしまうと、今度は味噌おにぎりにかじりつく。


 「んんんんん!んまい!なにこれ!?」


 フィオナは嬉しくなる。


 「もう、私、毎日おにぎりでもいいよ!」

 「明日はまた違うお米料理を考えていたんだけど、じゃあ、おにぎりでいいか」


 ちょっと意地悪そうに言うと、ルティアナがおにぎりを口に詰め込んだまま、固まる。


 「んんっ、んんんんんんん?」

 「飲み込んでから話して下さい」

 「おにぎりもいいけど、新しいお米料理は食べたいね!」

 「えー、どうしようかなー」


 ルティアナは、唇を尖らせると、チっと舌打ちをして言う。


 「じゃあ、明日新しいお米料理を作ってくれるなら、ポーション作りが終わったあと、特別に良い物をやろう」

 「良い物?」

 「ああ、ポーション作りが終わってからな」

 「なんだろう?」

 「その代わり、明日新しいお米料理を作るんだよ」

 

 ルティアナはにやにやしながら、残りのおにぎりを平らげるのだった。


 フィオナは午後もひたすらポーション作りに励み、途中休憩をはさみながらも、なんとかすべて作り終えた。二本ほど失敗してしまったが、それは許してもらおう。

 器材の片付けを終えると、時刻は夜の七時過ぎだ。順調に終わったといって良いだろう。


 フィオナは、二階への階段を上がってルティアナの部屋をノックする。


 「ルティ、終わりました」

 「おお、今いくよ」


 フィオナはルティアナのくれるといった、良い物を想像してわくわくする。

 何だろう、魔導具か何かかな?

 それとも食べ物?


 期待しながら待っていると、ルティアナが作業場に降りてきて、出来上がったポーションを確認する。


 「すみません、二本失敗してしまいしました」

 「まあ、仕方ないよ。その程度で済んでいるのがびっくりなくらいだね。よし、良いだろう。じゃあ、出来上がったポーションは金のシールを貼って保管庫に入れておきな」

 「はい」

 「それが終わったら、今日は帰っていいよ」

 「じゃあ、終わったらまた声をかけますね」

 「いや、私はこれから手が離せなくなるからね」

 「じゃあ、キノと一緒に帰れば良いですか?」


 ルティアナは、フィオナの質問に答えずに、にやっと笑う。


 「そうそう。ポーション作りが終わったから、良い物をやろうか」

 「何をくれるんですか?」

 「半日早いけど、シキを指導係に戻してやるよ。帰りはシキに送ってもらいな」

 「良い物ってそれですか?」

 「なんだい?不服か?おかしいな、もうちょっと喜ぶかと思ったのに」


 少し拍子抜けたように言うルティアナに、フィオナは眉をへの字にさげる。


 「違います。まさかそうくるとは思ってなかったので……」

 「嬉しいなら、もう少し嬉しそう顔をしなよ」

 

 フィオナはくしゃっと笑うと、ルティアナに抱きつきた。


 「ルティ!ありがとう!大好き」

 「ったく、あんたも、シキも、本当に人たらしだねえ。ほら、さっさとシール貼って帰りな」

 「はいっ!」


 フィオナはルティアナから離れると、急いで金のシールを取りに行ったのだった。

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