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上級魔力回復ポーション作成

 研究棟に戻ると、さっそくポーション作りだ。

 作業台に材料と器材を準備していく。


 「上級魔力ポーションも、体力魔力ポーションと作り方はさほど変わらないよ。じゃあ、やってみせるね」


 シキは前回とは違う魔法陣が書かれた紙を持ってきて、作業台へ置くと、その上に試験管をセットする。体力ポーションの時と同じだ。


 「まずは、分量通り魔力水を入れる。次に、チューリップの蜜入れて、それから蝶の鱗粉を入れる。チューリップの蜜は分量通り入れてね。蝶の鱗粉少量っていうのは、この細いガラス棒を瓶に入れて、先端につける。このくらいで大丈夫。これより少ないと効果が弱いよ。ただ鱗粉は、少しくらい多く入っちゃっても、問題ない。心配なら少し多めに入れても大丈夫。ただ足りなくなったら取りに行かなきゃいけなくなるから、あんまり、入れ過ぎないでね」


 シキはそう言って、鱗粉のついたガラス棒で、カチャカチャと試験管を混ぜる。魔力を通していないのに、うっすらと水に色がついた。ごく淡い水色だ。


 「色がついたでしょう?これは鱗粉の色素だよ。この色を目安にしてもいい。鱗粉が溶けて色が変わったら、スズランの花を五輪入れる」


 シキはピンセットで、茎から外したスズランの花を試験管に入れていく。


 「よし、これでいい。そうしたら魔力を流します。フィオナ、僕の後ろから、一緒に手をあてて。体力ポーションとは、少し流し方が変わるからね」

 「え!?じゃあ、私作業台の前から手をあてます!」

 「それじゃあ遠いでしょう?体勢が辛いよ?」

 「あ、じゃあ、このまま、横から失礼します」


 フィオナがシキの横から両手を試験管に伸ばす。


 「それだと、フィオナの左手で試験管が見づらいよ。後ろにまわって、早く」

 「はい……」


 椅子に座っているシキの後ろに回ると、フィオナは後ろから、抱きつくように手を回して、試験管に手を添えている、シキの大きな手に、自分の手を重ねる。

 後ろからこれをやられるのもかなり恥ずかしいが、自分からやるのは、何故かもっと恥ずかしい。後ろにいるおかげで、真っ赤な顔を見られない事が救いだ。

 背中大きいな。

 ついドキドキしてしまい、自分の身体が、シキの背中に密着しないように気をつける。


 「フィオナ、魔力を流すからね。色の変化をよく見て、魔力の流れを感じてね」


 フィオナはよく見ようと、シキの顔の横からひょっこりと顔を出して、試験管を凝視する。


 シキが魔力をゆっくり流すと、ほんのり水色だった液体が透明になった。


 「透明になったね。ここからがコツだよ。ある一定量を短時間で流す。料理でいうと、高火力でパパッとって言う感じかな?とは言っても流す量は多すぎずなんだけどね。いくよ」


 手に一定の魔力がたまったと思ったら、それをシキは、一気に試験管に注ぐ。パッと液がきれいな紫色に染まった。

 あまりの手際の良さに、フィオナはシキの手を握ったまま、試験管に釘付けになる。

 そして、その濁りのない紫色を、目に焼き付けるように、じっと目を見開いて記憶した。


 「すごい……」


 フィオナは思わず、ふうっと、ため息とともに、つぶやいてしまった。


 「フィオナ、くすぐったいよ」


 気がつくと、ポーションに釘付けになるあまり、背中にぴったりと密着して、シキの耳元で、息を吐いていた。


 「うわっ!」


 思わず小さく叫んで、離れるフィオナに、シキはくすりと笑う。


 「どう?出来そう?」

 「シキ、もう一回!もう一回だけお願いします!」

 「いいよ。分かるまで何度でもやるよ」


 結局フィオナは、三度シキの後ろからくっついて、ポーションを作るのを観察した。


 シキが作るのをそばで見たあと、フィオナは自分で素材を試験管に入れていく。少し蝶の鱗粉が多かったのか、水色がシキの時より濃い。

 スズランを入れ終わると、息を吐いて、試験管に手をかざす。

 後ろからシキの手が伸びて来て、フィオナの手に重なった。


 「ふえ!?」

 「慣れるまで、魔力量を見てあげる」

 「は、はい……」


 やっぱりこうなるのかと、赤い顔で深呼吸をすると、手に集中する。


 「フィオナ、透明になるまでは、少しずつ、ゆっくりで大丈夫だよ。体力ポーションの時と同じようにやってごらん」


 ゆっくりと魔力を流していく。徐々に魔力水の色は薄くなっていき、すぐに透明になった。


 「ストップ。透明になったね。この時点で、流し続けてはいけないよ。そうだ、隣に透明の魔力水が入っている試験管を並べておくといいかもしれない。ずっと見ていると、どこが透明なのかわからなくなってくるからね」


 確かにシキの言うとおりだ。

 後で準備しよう。


 「さあ、フィオナ、魔力を手にためて。さっき僕がやったくらいの量だよ」


 フィオナは手に魔力を集める。


 「いいね、うん、そのくらい。そうしたら、一気に流す」


 集中して、魔力を試験管に一気に流した。パッと水が紫色に変わる。

 フィオナはすぐに魔力を流すのをやめて、魔力水を見る。シキの作ったものに近いと思う。

 試験管を手に取って目の前にかざし、凝視する。


 「シキ、どうでしょう?」

 「うん!いいよ。フィオナすごいね。ちゃんと出来ているよ。一発で成功するとは思わなかったよ」

 「さっき、シキがやっている所を見せてもらったからですよ」

 「それにしても、そんなにすぐコントロールできるものでもないんだけどね。まあ、欲を言えば、あとほんの少しだけ、魔力量が多くてもいいかな。もちろんこれでも大丈夫だよ」

 「やってみます!」


 フィオナはさっきのシキのアドバイス通り、隣に透明な魔法水を置くと、新しく調合をする。

 今度は、鱗粉の量も良さそうだった。

 スズランを入れ終えたところで、試験管に手をかざすと、再びシキが手を回してくる。


 「今度は、僕は何も言わないから、フィオナ自身でやってみて」


 フィオナは大きく深呼吸をして、集中すると、魔力を流し始める。徐々に水が透明になってきた。

 完全に透明になったと思った瞬間、魔力を流すのをやめる。

 ふっと息を吐いて、大きく吸い込み、魔力を手にためる。

 さっきより少し多く。一気に流す。

 ぱっと水の色が変わる。ほんの少し濁っているように見えた。


 「ちょっと多すぎたね。もう一度やってみて」


 もう一度今度は、最初よりは多く、でも二回目よりは少なく、と微妙な加減をして、魔力を流すと、今度こそきれいな紫色のポーションができた。


 「シキ!これはどうですか!?」

 「うん、素晴らしいよ。完璧」

 「やった!!」

 「じゃあ、この調子であと百本ね」

 「はい!」


 体力ポーションだって、百本やれたのだ。

 フィオナは気合を入れて、ポーション作りを続けた。

 シキはしばらく様子をみていたが、フィオナのポーション作りが安定してくると、自分の仕事をし始める。こうやって、シキが昼間に自分の仕事をしてくれるのは、嬉しい事だった。


 魔力ポーションは、体力ポーションより、魔力操作が二段階必要なので、一本つくるにも、少し時間がかかった。大体一本作るのに、素材を調合して、魔力を流し、魔法瓶に移し替えるという一連の作業で五分ほどかかる。休まず十本作っても、五十分かかってしまうのだ。約一時間である。つまり百本作るには、十時間程度かかるという事だ。

 フィオナはげっそりするが、頑張るしかない。それにまだ午前中だ。なんとか今日中には終わるだろう。フィオナは集中して、ひたすらポーション作りを続けた。


 集中しすぎて、はっと気が付くと、作業場にシキがいなかった。デスクで何かしたり、倉庫に行ったりしているのが見えてはいたので、きっとまた倉庫に行ったか、畑を見に行ったかしたのだろうと思っていた。だが、一時間ほどしても戻らないのでさすがに気になってきた。


 作業場には、キノとマッド君達の姿も見えない。

 シキの手伝いをしているのだろうか。

 なんだか一人きりで心許ない。二階にはルティアナがいるのかいないのか、物音一つしないので全く分からない。彼女の行動については、いまだに謎が多い。

 少し、寂しくなりながらも、気合を入れなおして、ポーションを作り始める。やっと二十本出来た。

 体力ポーションよりも、魔力操作が多いので、たった二十本作っただけで、疲労感が襲ってくる。ずっと座っていたので、身体も固まってしまった気がして、立ち上がると、ぐっと身体を伸ばした。パキパキと関節が音を立てる。


 「ちょっと体操するか」


 魔力操作で、精神が疲れてきていたので、誰もいないのをいいことに、フィオナは、柔軟体操を始めた。元々身体が柔らかいので、ぐいぐいと身体を逸らせたり、曲げたりする。そして、腰に手をあてて、ぐっと身体を後ろに逸らせる。筋が伸びる感覚が痛気持ちよく、フィオナは調子に乗って、そのまま手を後ろに向けて、ブリッジをした。


 がちゃりと音がして、フィオナの目に逆さまのシキとキノが写る。


 「!」

 「ただいま、フィオナ。身体柔らかいね」


 変な格好を見られた恥ずかしさに、フィオナはべしゃりと地面につぶれた。そんなフィオナをシキが覗き込んで、ふわりと笑う。


 「シキ!お、お帰りなさい!これは遊んでいた訳ではなくてっ!」

 「あははっ。別に怒らないよ。身体をほぐしていたんでしょう?それに、仕事の合間に、息抜きに少し気晴らししたり、眠ったりしても、全然構わないよ。休み無しでやって倒れるよりは、その方が僕としては嬉しいかな。まあ、倒れたら倒れたでちゃんと介抱してあげるからね」


 ふわりと微笑まれて、地面につぶれたまま、また赤くなってしまう。

 シキはフィオナに手を貸して、起こすと、手に持っていたバスケットを見せる。


 「フィオナ。お昼ごはんを持って来たから、今日はここで食べようか」

 「わざわざ作りに行ってきてくれたんですか?」

 「管理棟にちょっと用事があったからそのついでにね。僕もお腹空いてたし。さ、休憩にしよう。キノ、お茶を淹れてきてくれるかい?」


 キノがうなずいて、奥の部屋へと入っていった。

 バスケットの中は、ハンバーガーと、ポテトフライだった。


 「美味しそう!!」

 「美味しいよ」


 キノが香りの良いお茶を淹れて来る。


 「そういえば、この奥の部屋って入った事がないんですけど、キッチンがあるんですか?」

 「そうだよ。キッチンに、保冷庫。キッチンの左の部屋にはバスルームもあるよ」

 「へえ。後で見てもいいですか?」

 「もちろん」

 「二階はルティの研究室なんですよね?」

 「そう、かなり広い研究室。そこには入らない事をお勧めするよ。後はルティの寝室だね。いつ寝ているのかは知らないけど」

 「絶対に入りません」

 「あと、キッチンの横から、地下に行く階段があるんだ。地下は僕専用の研究室」

 「へえ!知らなかったです。今度見に行ってもいいですか?」

 「いいけど、見たらびっくりするかも。まあ、いいけどね」


 シキの含みのある言い方にフィオナは、何かよからぬものを感じた。


 「こ、今度、時間のある時にしますっ」


 そんなフィオナをシキはくすりと笑って、膝にキノを乗せてハンバーガーをぱくりと頬張る。

 キノは大人しく膝の上にすわり、くつろいでいる。


 「そういえば、キノって何を食べるんですか?人間と同じもの?」


 フィオナは今まで、キノが何かを口にしているのを見たことがなかった。

 キノは自分の話に、目をぱちくりさせてフィオナを見る。


 「ああ、この子は、人間の遺伝子は入っていて知能は高いけど、生態はどんぐり、つまり木に近い。そして魔力を持った存在だ。だから基本的には、日光と、水だね。あと魔力。キノの元になった人間は、あまり魔力を持っていないから、魔力を使いすぎると、キノ自身の魔力生成が間に合わなくて、足りなくなる時がある。そんな時は、僕がキノに魔力をあげているんだ」

 「魔力をあげる?」

 「ポーション作りと一緒だよ。キノに魔力を流してあげる。まあ、そんなに頻繁にあげなくても平気なんだけどね」

 「そうなんですか。知りませんでした」


 キノがシキの服をくいくいと引っ張る。


 「あ、そういえば昨日も、一昨日もあげてなかったね。魔力ほしい?」

 

 キノがこくんと頷く。

 シキはふわりと微笑むと、キノの口に自分の口を当てる。軽く唇を当てているだけだが、その光景は衝撃すぎた。


 「ぶはっ!!」


 フィオナは飲んでいたお茶を盛大に吹いた。

 シキがキノから、唇を離して、フィオナを見る。


 「大丈夫?むせちゃった?」

 「だ、大丈夫です!」

 「そう、気を付けてね」


 シキは再びキノの口に、唇をあてる。キノは、気持ち良さそうに、目を瞑って魔力をもらっていた。

 なぜ、口移しで魔力を!?他にもやり方があるでしょう!?と、色々突っ込みたいのをぐっと我慢する。

 言っても無駄だろうと確信があった。

 何せ、今まで自分も散々されているのだから。

 フィオナは、まるでいけない現場を見ているような気分になりながら、もそもそとハンバーガーを食べるのだった。

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