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番外編4

 「あー、なんでかなー、俺何であの写真シキに渡しちゃったのかなー。そりゃー転移装置が完成してアホみたいに興奮しちゃってたけどさ。それにもし転移が失敗してシキが生きて帰って来ないなんて事になったらって思ったらさ。お守り代わりにフィオナちゃんの写真でも持たせようかなって思っちゃうよね?俺悪くないよね?あー、でもなんで渡しちゃったかなー」


 王宮に向かう途中、アキレオはずっと後ろでぶつぶつと独り言を言っていた。


 「アキ、うるさいよ。もうすぐ着くから静かにして」 

 「てかさー、何で今頃なの?怒るなら今日訪ねた時に怒ればよかったじゃんかよー。何にも言わないから怒ってないのかと思ったのにー!散々楽しそうに飲み交わした後にナニコレ?時間差攻撃!?」

 「アキが酔っ払って写真の事言ってこなければ、封筒の事は忘れてて、開けてもいなかったよ。でも酔って迂闊に喋ってくれて感謝してるけどね」

 「へ?」

 「酔って寝る寸前にアキが言ったんだよ。写真の事怒ってるかと思ったって」

 「え!?えー!?じゃあ、何!?さっきまで封筒開けてもいなかったの!?」

 「そうだよ」

 「あー、あー!俺のバカ!本当バカ!何で記憶曖昧になるまで飲んだかな!?あー、マジでバカ!」


 自己嫌悪でへこみこまくるアキレオに、もう一度警告する。


 「そろそろ本当に黙って。王子の寝室に潜入するんだからね。見つかったら君もただでは済まないよ」

 「本当にやるの!?ねえ!やめようよ!俺、もうすぐ父親になるのに捕まりたくない!」

 「捕まらなきゃいいだけ。分かったらアキも本気でやってよね」


 意思を変える気はないとばかりに、ピシャリと言い切ってやると、アキレオはぴたりと口を閉した。


 王宮の入り口から少し離れた場所で箒から降りて正面に近づくと、魔法で物音を立てて中央騎士団の警備の目を反らし、あっさりと王宮内に入る。


 口で言うのは簡単だし、あっさりと言ったが、サクに鍛えられていなければ、かなりのヒヤヒヤものだったと思う。中央騎士団はそんなに甘くない。

 現にアキレオは胸を抑えて、荒い呼吸で青い顔をしていた。


 そのアキレオの腕をぐいっと引っ張り柱の影に隠れる。


 隠れた途端、角を曲がった警備が歩いて来た。それをやり過ごし、先へと進む。幾度か騎士団の警備と、魔法警備隊に出くわしそうになったが、その度にアキレオを引き摺りながら気配を断ってうまく躱していった。


 ケイン王子の寝室があるのは、王宮の三階から渡り通路を渡った先にある西の塔である。

 順調に三階までたどり着いたが、ここからが問題だ。

 渡り通路の前には近衛が二人見張りに立っている。西の塔自体には外から結界が張られていて、この通路を通らなければいけない。


 さて、どうするかな。


 気配を消したまま、ちらりと見張りを見るとそこには見知った顔があった。コロラ王国でフィオナと一緒にいた、エマとオリーブだ。


 「こんな所でこそこそ何してるっすか?」


 後ろからぽんと軽く肩を叩かれ、心臓が止まりそうになった。完全に気配を消していたはずなのに。

 ばっと振り向くと、子猫のようなくりっとした愛らしい目の、ショートカットの女がアキレオの首筋にナイフをピタリと密着させ、にんまり笑みを浮かべている。


 「おやおやー?開発室のアキレオ所長に、魔植物園のシキ・カーセス君っすね。ああ、今は夜鷹のシキ君の方がいいですかっ?」


 見たことない女だったが、向こうはこちらを知っているらしい。夜鷹の事も含めて。それは向こうも夜鷹と言う事だ。

 身のこなしといい、後ろに立たれて全く気配を感じなかった事といい、夜鷹でも相当な手練だとすぐに気づく。

 サクと同等、もしくはその上。


 「ちょっと!何やってるの?あ!シキ・カーセス?それにアキ室長!?え?アイニャ副隊長何してるんですか!?」


 騒ぎに気づいたエマと、オリーブが近寄ってくる。

 女の名はアイニャと言うらしい。


 「何か今日は何か起こりそうな気がしたんですよー。私の勘はよく当たるんす。ほら、ネズミが二匹入り込んで来たでしょ?こんな場所で夜中にこそこそしてるって事は殺されても文句言えないっすよ?てか殺しちゃってもいいっすか?」


 にんまりと獲物を見る目つきで、舌なめずりするアイニャをエマが止める。


 「やめて下さい!こんな所で殺したら、その後処理させられるの私達ですよね!?大変なんですからっ!ちょっと!アキ室長もシキも黙ってないで何とか言ったらどうなの!?」


 ナイフを突きつけられたままのアキレオが、エマにぐいぐいと詰め寄られ、助けてと視線を向けてくる。

 こうなったら、こっちも手段を選んではいられない。


 「エマ、オリーブ、コロラ王国ではフィオナが世話になったね。ちゃんとお礼を言ってなかった」

 「は!?私達にお礼を言いに、こんな所にこそこそ来たわけ!?」

 「まさか、ちょっとこれを見て欲しい」


 ポケットに手を入れる仕草に、アイニャが警戒するのが分かったが、危険なものではないと分かる様に、ゆっくりと写真を取り出して皆に見えるように差し出す。


 「あ!これっ……」

 「っ!」

 「ああー、これで来たっすかあ……」


 エマとオリーブは目を見開いてから、苦々しい顔になり、アイニャはアキレオの首からナイフを離した。


 「君たちも女性なら分かるだろう。こんなふうに自分を人形にされて写真を撮られたらどう思う?」


 今日の見張りが女で良かった。しかもアキレオの情報によればエマとオリーブも被害者だという。これはチャンスだ。


 「エマ、オリーブ、君達の人形もあると聞いたよ?放っておいていいの?」

 「良くないわよ!私達だって何度も何度もボスに言ってやめさせるようにお願いしたし、本人にも抗議したわよ!」

 「できる事なら私があの男を……!くうっ!」



 悔しさに歯ぎしりする二人に、顔には出さずほくそ笑む。これで味方が一気に増えた。


 「えーと、アイニャさん?近衛の副隊長なんだよね?こんなケイン王子の横暴を放っておいていいのかな?」

 「うーん、その件に関しては、私も困っていたんっすよねー。でもボスが黙認している以上、どうしようもないですよ。シキ君達がここに来た目的はその人形の奪還もしくは破壊っすか?」

 「ご名答」

 「可哀想とは思うんすけど、通す訳にはいかないっす。こっちも仕事なんで。塔に泥棒の侵入を許したなんて知れたら、こっちの首が飛ぶっす。今日ここに来た事は黙っていてあげるんで、もう帰ってもらえないっすかね?」


 エマとオリーブを味方に付けても、頑として通して貰えそうもないアイニャの態度に、流石近衛の副隊長と舌を巻く。

 だが、こちらもここで折れる訳にはいかないのだ。


 「どうしても通してもらえないと?」

 「そっちがその気ならこっちも力ずくで行くっすよ?でも、その場合はボスに報告させて貰うす。悪い事はいわないんで早く帰った方がいいっすよ?」

 

 こうなれば最終手段だ。

 アイニャ達をぐるりと一瞥すると、ゆっくりと首を振ってからため息を吐く。


 「本当はこれは言わないつもりだったんだけど……」


 勿体ぶる様に間を開けると、アイニャの眉間が僅かに歪む。


 「何を聞こうが通さないっす」

 「ケイン王子、パティの人形を作るようにアキに迫っているんだ。今の所断ってるけど、これ以上脅されたらアキだって作らざるを得なくなっちゃう」


 アイニャ、エマ、オリーブの三人がカッと目を見開いた。


 「アキレオ室長本当っすか!?」

 「アキ室長それ本当なの!?」

 「まさか本当はもう作ったなんて事ないわよね!?」


 三人が一斉にアキレオに取り囲んだ。

 身に覚えのない話を突然振られ、女三人にぐいぐいと詰め寄られたアキレオは、どうしていいか分からず、狼狽え、視線を彷徨わせている。


 「その様子、マジっすか……」

 「信じられない……」

 「ケイン王子死んだわね……」


 挙動不審なアキレオの様子を、事実だと勘違いした三人は頭を寄せ合い話し合う。


 「まずいっす、マジまずいっすよ!」

 「ボスがキレたらこの国どうなるの!?」

 「私死ぬのかしら?」

 

 もうひと押しだ。


 「そもそも、本当ならパティなんてケイン王子の趣味じゃないでしょ?童顔で子供っぽいし。それなのに作ろうと思ったのは、沢山作り過ぎて、たまには変わった人形もいいかなあとか思ったからじゃないかな?」

 「うわっ、シキ結構ひでえ……」


 アキレオの突っ込みは無視。


 「一旦ケイン王子の人形を全部抹消しない?もちろんエマとオリーブのも。ケイン王子が作った服ごと人形が全部消え去れば、彼もすぐパティ人形を作ろうとは思わないだろうし、少しは反省するんじゃない?」

 「確かに!それはそうよね!いい案だと思うわ!」

 「私の人形を消し去って貰えるなら、協力は惜しまない」


 すぐに、乗ってくるエマとオリーブに反してアイニャは難しい顔で束の間考え込む。


 「シキ君、消し去るってどうするつもりっすか?」

 「人形の置いてある部屋に完全防御結界を張って中を焼き尽くす。その後アキに部屋を何事も無かったように再構築させる」

 「確かに君たち二人なら不可能ではないですね……。それでも部屋に多く残存魔力が残るから犯人はバレるっすよ?」

 「構わないよ。残存魔力から犯人を割り出せる程の人間はシオンか、ルティ、あともしかして君も出来るのかな?後は精々近衛か夜鷹在籍の一部の人間でしょう?犯人が分かったとして報告はシオンに行く。そしたら僕はシオンにパティの件を話すよ。それなら多分酷い罰は受けないだろうからね?むしろ褒賞がでるかな?」


 アキレオも含めて全部がひっと息を呑んだ。


 「シキ!それはやめて!俺が死ぬ!」

 「だめよ!作ろうとしたって聞いただけでもボス怒り狂うわ!」

 「私まだ死にたくない!」

 「分かったっす!シキ君、通してあげるっす!」


 作戦成功。


 「そう、良かった。じゃあ行かせてもらうね。アキ、行くよ」

 「待つっす!」

 「まだ何か?」

 「私とオリーブも行くっす!エマは見張りを頼むっす!」

 「え?何?監視?」 

 「違うすよ、手伝うっす。オリーブは風魔法が得意だから防音できるっす!私は残存魔力を消せるっす。こうなったら一欠片も証拠を残さず完全犯罪にしてやるんですよっ!ていうかケイン王子が犯罪まがいの事をしていたっすから、私達は無罪っす!」


 先頭をきってずんずん進んでいくアイニャをオリーブが目に炎を湛えてついて行く。

 なんだか思った以上にうまくいってしまった。


 「なんかラッキーだったね?アキ」

 「はああ、俺もう多分寿命十年くらい縮んだと思うわ……」


 渡り廊下を進みながら、これでおそらくお咎め無しで目的を達成できそうだと頬が緩んだ。



 ケイン王子の衣装部屋を、丸ごと焼却清掃し、塵一つなくピカピカにリフォームしてやってから一週間経った。


 『おーい!シキ、いるかー』


 研究棟の通信機からアキレオの事が響いてきた。

 素材の整理を止めて通信機へと手を置く。


 「アキ、どうしたの?」

 『ちょっと話したいんだけどさー、こっちこれる?』

 「分かった。今行く」

 

 通信機から手を離すと、フィオナが笑顔で尋ねてくる。


 「丁度お昼だし、こっちでアキ室長も一緒にお昼食べたらどうですか?私、蔦達に手出ししない様に言ってきますよ?」

 「いや、いいよ。多分あまり時間がないんだろうから」


 おそらくフィオナに聞かせなくない話なのだろうと、やんわり断る。


 「そうですか。せっかく今日はカレーなのになあ」

 「すぐ戻るから、一緒に食べよう。少し待ってて」

 

 そう言って軽く抱きしめると、嬉しそうに頬をすり寄せてきた。名残り惜しかったが、腕を離し、管理棟へと出向く。


 薬剤室の扉から中へ入ると、アキレオがカウンターの椅子に座って待っていた。


 「アキ、お待たせ」

 「よっ、シキ」

 「それで?何かあった?もしかしてあの件?」

 「んー、まあ、その話もあるんだけど、先にシキに最初に伝えたくて」

 「何?」

 「子供生まれたんだ。男の子だった」


 にへらっと表情を崩すアキレオに、心からの笑みがこぼれる。


 「アキ、おめでとう」

 「へへへっ、ありがと。ユアラも元気だよ。しばらくは動けないけどね」

 「そっか、落ち着いたらフィオナと一緒に会いに行くよ」

 「ああ、ユアラも喜ぶよ」


 アキレオはひとしきり生まれた子供の可愛さで惚気た後、そうそう、と例の話をし始めた。


 「例の衣装部屋の事なんだけどさ」

 「うん」


 一週間経ったが、どこからも何も言われず、それどころか、衣装部屋の話題すらこれっぽっちも聞かないので、逆に不安になっていたのだ。


 「あの件、夜鷹が全力でもみ消した。ケイン王子はパティ人形の事、身に覚えがないって最後まで言い張っていたけど、誰にも信じて貰えなかったよ。最終的には、今後王宮関係者をモデルに人形を作らない事って、誓約書も書いて貰ったってさ」

 「当然だよ。それで、シオンは?気づいてる?」

 「いや、多分バレてない。それも含めて夜鷹が全力で後始末をしたから」

 「そう。なら良かった」

 「てか、俺が人形作ったのがバレて、夜鷹の女子からめちゃくちゃ当たりがきつくなったし」

 「自業自得でしょ。僕も含めて許して貰えただけありがたいと思ってよね」

 

 そう言うとアキレオはしょんぼり肩を落として帰って行った。 


 「さて、戻ってフィオナとご飯食べるかな」


 魔植物園に戻り、箒に乗って研究棟へ向かう。

 ふと、ケイン王子の衣装部屋で見た、三体のフィオナ人形の姿が頭をかすめた。


 あの服を実際フィオナに着せたらどうなってしまうだろう。あの艶めかしい黒の悪魔的衣装と、ウサギの耳をつけたフィオナを妄想してしまって、ぶんぶんと首を思い切り振った。


 途端、ガツン!と張り出した枝に額を打って箒ごと転落する。ここ十年以上こんなヘマをした事はなかったのに。


 天罰か……。


 研究棟に戻るとフィオナは、赤く腫れた額を見てどうしたのかと、顔をのぞき込んで回復魔法をかけながら、仕切りに心配してくる。

 

 またあの衣装を着たフィオナが頭をかすめた。エメラルドの瞳で見つめられると、そんな邪心を見透かされてしまいそうで、頭を抱えるようにぎゅっと抱きしめ、その視線から逃れた。


 多分今晩は寝かせてあげれない。

 ごめん、フィオナ。

これで番外編終了とさせて頂きます。

お読み頂きありがとうございました!


今後の予定を簡単ではありますが活動報告に載せております。

気になる方はお読み頂ければと思います!

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