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仲良し?

 月明かりもない真夜中。

 真っ暗な空を、少し前をゆく魔法灯を目印にフィオナは全力で箒を走らせていた。


 「ぜ、全ッ然、追いつけないっ」


 首輪の解除コードを知っていたくせに、今まで外してくれなかったサクを問い詰めようと、持てる力を振り絞って箒を飛ばしたのに、結局王宮に着くまで追いつけなかった。

 ちなみにシルフは近くの森でお留守番だ。


 「はあっ、はあっ!お、追いつけなかったっ!なんなのあの人!」

 「フィオナ、僕も追いつけなかったくらいだから」

 「シキも!?でも、だって、あっち二人乗りしてたんですよ!?」

 「うん、むかつくけど、さすか国王直属の精鋭だけあるよね」


 王宮のとある部屋のバルコニーに降り立って息を整えながら、顔を上げるとシオンだけが笑って待っていた。


 「あれ?シオン副隊長、サクさんは?」

 「あいつは諜報だから。任務に戻ったよ」


 忽然と消えてしまったサクに、結局首輪の件をうやむやにされてしまったと肩を落とすと、シオンがそれを悟ったように口を開いた。


 「フィオナさん。サクは性格的に破滅してる所もあるけど、仕事に対しては決して手を抜かないし、揺るぎない精神を持っているんだよ。あいつが君の首輪を取れるのに取らなかったのは、その方が安全だと判断したからだと思うよ。もし、君が魔法を使えるまま、呪術士に捕まっていたら、もっと酷い目に合わされていたと僕も思う。だからあんまり責めないであげて」


 そうシオンに言われてしまっては、これ以上責められない。


 「シオン副隊長がそう言うなら」


 少しむくれたままうなずくと、シオンの手がぽんぽんと頭を撫でる。

 が、その直後その手をシキが叩き落とした。


 「フィオナに触らないでくれる?」

 「あー、やだやだ。男の焼きもちはみっともないよ」

 「へー、だったらパティに僕も同じ事してやろうか?」

 「ぶち殺されたいのかな?シキ」


 笑顔のまま険悪になっていくシキとシオンに、やっぱりこの二人は似ていると思ってしまった。


 「シキっ、そういえば、ルティは?来てないんですか?」

 「いや、来てるよ。今魔術士を追っているらしい。どこにいるか分からないんだ」

 「そうなんですか……」

 「心配要らないよ」

 「はい。あれ、ルティも来てるって事は、魔植物園は!?無人なんですか!?」

 「あー……、それに関しては大丈夫。だと思う。でも長くは空けられないから、早めに戻らないと」


 若干視線をそらして曖昧な事を言うシキに、なんだか不安になる。


 「私、リヒト副隊長に会いに行ってきますね!状況が知りたいし、無事も知らせたいので」


 そう告げてバルコニーから部屋に入ると、シキが慌ててついてくる。


 「一人でどこかに行かないで!僕も行くよ」

 「フィオナさん、今王城内はかなりゴタゴタしてるんだ。取り敢えずエマ達の所に行こう。行きがてら、詳しい事を説明するよ」

 「シオン副隊長はエマさん達の事もご存知なんですか?」

 「え?あ、うん。ほら、仮にも騎士団副隊長だから。色々面識はあるんだよ」

 「騎士団副隊長ねえ……」


 シキがぽそりと呟くと、シオンがすっと目を細める。


 「何?シキ。恩を仇で返す気?」

 「なんの事?別に何も言ってないでしょう?」

 「相変わらず嫌な奴だね、君は。フィオナさんを助けにくる前は、萎れた犬みたいに僕に泣きついてきたくせに」

 「はあ?いつそんな事したかな!?」

 「少し君は僕に感謝しても良いんじゃないの!?」

 「感謝?もちろんしてるよ。でもその分の代償はきっちり払うし。そういう契約だろ」

 「あー、だから君は友達が出来ないんだよ。アキもよく君と付き合ってるよね!」

 「余計なお世話だよ!」


 再び二人はヒートアップしていく。

 そんな二人の口論を遮るように、バルコニーから鋭い声が上がった。


 「お前たち動くな!」


 ぱっと振り返ると、そこにはかっちりとしたローブを着た魔導士が二人立っていた。


 「王城への不法侵入罪として拘束する!」


 魔導士の一人がそう宣言し、にじり寄って来る。すっとシキが側に来て庇うように抱き寄せられた。

 そういえば仮にも王城という場所に、上空から箒で無断で入ってしまったなと冷や汗が出る。うっかりサクを追い掛けて、そんな事にも頭が働かなかったとは。


 どうしようと、シキを見ようとしたとき、今度は廊下側の扉がバンと開き、騎士風の男達が数名入って来て取り囲まれてしまった。


 「ちゃんと警備が行き届いているって事は、王城内で呪術を掛けられていた人達は元に戻ったんだね。この短時間で警備を立て直すとは大したものだ」


 シオンは落ち着いた様子で騎士にそう話し掛けると、その中の一人が警戒したまま訝しげな眼差しで聞いてくる。


 「お前たちは何者だ」

 「僕はルティアナと一緒にここに来た、王宮南騎士団副隊長のシオン・カルナだよ。こっちに居るのはルティの弟子のシキ・カーセス。それから、彼女は式典に招待されていたフィオナ・マーメルだけど、顔覚えてないかな?」


 シオンがそう説明すると、一斉にこちらに視線が集まる。


 「あっ!」


 騎士の数名は顔に見覚えがあったのか、声を上げた。


 「し、失礼しました!フィオナ殿、行方不明とお聞きしておりましたが、今までどちらに!?」

 「呪術士のイノスって人に攫われて、監禁されてたんです。こちらのシオン副隊長とシキに助けて貰いました」

 「そうですか、それはご無事で何よりでした!ところでどこかお怪我をされているのですか?」


 そう言えば、イノスに散々やられたせいで、着ていた服はあちこち血が滲んで、破けている。


 「ああ、これですか?呪術士にやられたんですけど、もうポーションで治っているので大丈夫です」

 「そうですか。それなら良かったです。あの、それで、大変恐縮なのですが、そちらのお二方の身分を証明する物は何かお持ちではないでしょうか?何分まだ呪術士が捕まっておらず、警戒を強めておりまして……」


 確かに言葉だけでは、シオンとシキが本当にカプラスの騎士とルティアナの弟子だとは分からない。


 「あー、ごめん、僕何も持って無いんだよねえ。シキ、君何か持ってる?」

 「持ってる訳ないだろう。急いで来たんだたから」

 「だよねえ。それじゃあ、カプラスから来ているケイン王子かその側近の誰かを連れて来てもらえませんか?それなら良いでしょう?」


 シオンの提案に話していた騎士が、隣の騎士に目配せすると、その者は急ぎ部屋を出ていった。

 しばらくすると、パタパタと廊下を走ってくる足音が聞こえ、勢い良くエマが飛び込んで来た。


 「ボ……っ!し、シオン副隊長!と、えっ?シキ・カーセス!?あ!フィオナ!!無事で良かった!」


 シキの後ろからひょこっと顔を出すとエマが驚いて抱きついてくる。


 「良かった!すごく心配したのよ!城内で操られていた人達が急に元に戻ったから、もしかしてあなたに何かあったんじゃないかって!」

 「エマさん、心配かけてすみません。シオン副隊長とシキが助けてくれました」

 「それよりエマ。僕達が怪しい者じゃないってこの人達に言ってもらえかな?」


 シオンがそう言うと、エマはぱっと離れて顔を上げる。


 「警備隊の方々、この二人は間違いなくカプラスの王宮の騎士と魔導士です。身元は私が保証します」


 エマがそう言うと、警備中の騎士と魔導士達はうなずいて警戒を解く。


 「今後窓から王城に入るのはおやめください」


 そう言い残して、彼らは警備に戻って言った。


 「もう!窓から入って来るなんて!何考えてるんですか!」

 「ごめんごめん、うっかりしてたよ。それより今どうなっているのか、情報が欲しいんだけど」


 シオンが尋ねると、エマの顔が引き締まる。


 「はい。現状報告します。王城内で呪術に掛けられていたものは、元に戻っております。城内はまだ少しバタついておりますが、それも徐々におさまって来ています。フェリクス王も術が解けて目を覚ましましたが、身体がかなり衰弱していた為、まだベッドで安静にしておられます。意識ははっきりしているので、話す事は可能です。ルティアナ様は術者を追ったまま、まだお戻りになっておりません」


 エマはまるで上司にでも報告するかの様な口調だ。


 「エマ、そんなにかしこまらないでよ。いくら南騎士団と近衛があんまり関わらないからって」


 シオンが苦笑いすると、エマははっとした様に手で口を押さえてから、きまりが悪そうに笑う。


 「あ、あは、あはは。そうですよね、つい」

 「まあ、それはそうと、こんな時間までルティが戻らないなんてどうしたんだろう」

 「それがボ……、シオン副隊長。複数の人間から、昼間東の塔のてっぺんからかなり大きな光の柱が立ち上ったっていう証言がありま……、あったんです。もしかしたら、ルティアナ様と術者がそこで戦っていたのかもと思って見にいったんですが、そこには何の形跡もなくて……」

 「おそらく、ルティと術者がそこで戦ってたんだろうね。そうだとしたら何も形跡がないというのは変だね」


 ルティアナの事も気になるが、それとは別に気になっている事がある。


 「あの、エマさん。ヒュラン王子は?」


 今はシキが側にいるのでそこまで心配はしていないが、また権力を笠に何かさせては御免だ。


 「ああ、あのボンクラ王子なら、呪術士との関与があるという事で、部屋の一室に拘束されているわ。まあ、王族だけに投獄する訳にもいかないから、警備兵にガッチリ固められて、窓のない小部屋に放り込まれているだけだけど」

 「そうですか」


 あきらかにほっとした声が出てしまい、シキが強く抱き寄せてくる。


 「うっわあ……。この人本当にシキ・カーセス!?実際に見ても目を疑うわー」


 エマの興味津々な様子に恥ずかしくなってしまい、シキから離れようとするが、そうはさせまいと腕に力を込められてしまう。


 「シキ、恥ずかしいので、ちょっと離して……」

 「だめ」


 こうなったシキは絶対に折れてくれない。それはもう経験上分かっているので、あっさり諦めた。


 「それで、シオン副隊長達はこれからどうされますか?もう夜も遅いので休まれます?」

 「そうだね……。僕はちょっとルティを探しに行ってみるよ。ちょっと心配だし」

 「それなら僕も行く」

 「じゃあ私も!」


 そうと聞いてじっとして居られない。

 するとエマはこちらをじっと見て眉を下げる。


 「ケイン王子の側近以外は全員ルティアナ様の捜索に出ているから、今晩は取り敢えず休んだら?フィオナ、そんなボロボロになるまで酷い目に合わされたんでしょう?」

 「大丈夫ですよ!金のポーションですっかり元気です!」

 「まったく、とんだお転婆ね。あまり無理したら駄目よ。じゃあ、私はケイン王子の護衛に戻りますね。ああ、シキさん、これを服に付けていて下さい。王宮への客人という証明になります。シオン副隊長とフィオナは貰っているはずでしょう?」


 エマはポケットからピンのついたブローチの様な物をシキに投げて渡す。そういえば最初王城に入った時同じ物を渡されていたんだった。


 「あ、そうか。すっかり忘れてたよ」

 「エマさん、ありがとう。ケイン王子によろしく」


 エマが行ってしまうと、シオンはポケットから同じブローチを取り出して服につけ、振り返った。


 「じゃあ、取り敢えずその東の塔に行ってみようか。シキ後ろに乗せて」

 「やだよ。走っていけば?」

 「じゃあフィオナさん、後ろに乗せて」

 「はい、良いですよ」

 「それは駄目!シオン後ろに乗って!」


 シキがシオンの腕を掴んで自分の箒の後ろに乗せようとする。


 「あー、面白い。やっぱり君、欲しいなぁ」


 シオンがニヤニヤしながらシキの後ろに乗ってそう呟く。

 欲しい?

 騎士団に?

 首を傾げていると、シキが間髪入れずに返す。


 「絶対やだ。フィオナ行くよ。離れないでね」

 「はい」


 なんだかんだ仲良しだなあと、二人の後をついて東の塔に箒を飛ばした。

 途中警備中の魔導士に呼び止められたが、例のブローチを見せるとあっさりと通してくれ、東の塔まで案内してくれた。


 「ここが光の柱が立った所か」


 シオンがシキの後ろから飛び降りて辺りを歩き回る。


 塔の中心に降り立ち、魔法灯で辺りを照らす。


 「なんだか不自然なくらい何もないね」


 シキがすぐ側で呟く。

 確かにもしここで戦ったのなら、もう少し地面が割れたり壊れたり、何か形跡があってもよさそうなものなのに。

 強い風が時折塔を駆け抜けていく。


 「ねえシキ、本当にこの塔なのかな?」

 「複数の目撃者がいたみたいだから間違いはないんだろうけどね」

 「どこ行っちゃたんだろう、ルティ」


 大きく空を仰ぐと、小さく星の光が見えた。


 「晴れて来たのかな?星が一つだけ見える」


 シキがつられて空を見上げた。


 「本当だ。ん?あれ?なんだかあの星だんだん大きくなってない?」

 「え?」


 首が痛くなるほどに、真上を凝視していると、シオンがどうしたのかと寄ってきた。


 「何かあったの?」

 「いや、星が見えるんだけど、なんだか段々大きくなってるような……」

 「星?」


 シオンも空を見上げる。


 小さな光の点だったものは、今は一等星よりも強く光輝いている。そのまま見ているとそれはどんどん大きくなり、まるで空中に魔法灯を投げつけたような大きさにまでなった。


 「ちょっ、あれ、星じゃないよね!?」

 「なんかこっちに近づいて来てませんか!?」

 「フィオナ!危ないから僕の後ろに!」


 シキに腕を捕まれ背にかばわれる。それでも光の正体が気になって、背中越しに空を見上げると、更に光は大きく強くなって、東の塔の上空までゆっくり降りて来た。


 いつの間にか警備の魔導士達も何人か集まって警戒体制に入っている。


 人が丸々一人くらい入れそうな光の玉はゆっくりと塔の中心に降りてきて、地面についた瞬間猛烈な光を放った。


 「ひゃあ!」


 あまりの眩しさにシキの背にしがみついて目を瞑る。瞼の裏が真っ白から黒に戻ったのを待ってから、そろそろと目を開く。


 「あー!もう!酷い目にあったよ!」


 聞き覚えのある声に顔をそちらに向けるが、まだ視界に残像が残ってよく見えない。


 「ん?あれ?シキにシオン。フィオナ!無事だったか!良かった!」


 少し目が慣れて見えるようになってきた視界の先から、小さな少女が駆け寄ってきて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。


 「ルティ!」


 光の玉の中から現れたのは、ルティアナと気を失って地面に倒れいるイノスだった。

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