表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/127

問題点

今回はシキ視点です。

投稿が遅くなり申し訳ありません<(*_ _)>

 留守中の魔植物園の守りを確実にする為、二日連続でシュレンの元を訪れた帰り、ほぼ満月の月を見上げ、シキは立ち止った。


 二日待てとアキレオに言われていたが、昨日からずっと胸騒ぎがする。

 ルティアナが行っているし、シオンもその部下の夜鷹のメンバーも居るのだから、心配は要らないはずだ。

 むしろもうフィオナを取り戻しているかもしれない。


 でもなんだろう。

 胸の奥がざわざわする。


 研究棟に戻ろうとしていた足が、いつの間にか管理棟へと向かっていた。


 薬剤室の裏の扉から管理棟へ入ると、魔導師のローブを羽織って外に出て、箒を出すとそのまま王宮へと向って飛ばした。


 王宮の入り口に降り立つと、夜中ということもあり、警備兵がこちらに近寄って来る。


 「こんな真夜中に何の……」


 そこまで言いかけて、こちらが来ているローブに気が付いた警備兵は、目を見張る。


 「あ、失礼しました。どうぞ」

 「夜中に悪いね」


 そう労うと、警備兵は軽く頭を下げて元の場所に戻っていく。

 ひと気のない王宮の通路を歩いていき、開発室の扉を静かにノックする。


 予想はしていたが中から返答はない。

 ふっと軽くため息を吐いてなんとなくノブを引いてみると、鍵が掛かっていなかった。

 きいっと小さく音を立てて扉が開く。

 開発室の中は明かりが消され、非常用の魔法灯だけがぼんやりと部屋をかすかに照らしていた。

 

 不用心だな。


 そう思って視線を部屋の奥へと向けると、ある研究室の扉の隙間から明かりが漏れているのが見えた。


 アキレオの研究室だ。居たのか。

 そのまま開発室の中に入り、研究室の扉をノックする。

 ノックをして少し待つが返事がない。


 「アキ、居るの?」


 声を掛けて扉を開けると、机に突っ伏して眠っている人物が見えた。

 そっと近づく。

 ユアラが自分の両腕を枕にして爆睡していた。


 「……本当に不用心」


 部屋を見渡すがアキレオの姿はない。

 いくら何でもユアラをこのまま一人こんなところで寝かせておくわけにはいかないと思い、肩を軽く揺する。


 「ユアラ、ユアラ、起きて。風邪引くよ」

 「ん……」

 「ほら、起きて」


 余程疲れているのか、少しうめいただけで起きてくれない。

 仕方ない。せめてソファに寝かせるか。


 「ユアラ、ソファに行こう」


 声を掛けるが、全く動かないので、仕方なく抱き上げる。

 ソファに運ぼうと、くるりと後ろを振り向いた時、扉からアキレオが入ってきた。アキレオの後ろにはこの前会った開発室の魔導士の男もいる。


 「ユアラ、ただいま……、え!ちょっと!シキ!?何してんの!」

 「あ、シキさんこんばんは」


 なんてタイミングが悪い。

 慌てるアキレオに反して、職員の男はなんでもなさそうにのほほんと挨拶をしてくる。


 「何さわってんの!降ろしなよ!ユアラにさわっていいの俺だけだから!てかお前はフィオナちゃんがいるだろ!何やってんの!?」

 「アキ、静かに。起きちゃうよ?机で突っ伏して寝てたからソファに運ぼうとしただけ」


 そう言ってそっとユアラをソファに降ろすと、間に割り込むようにアキレオが入ってきて、ユアラの頬を撫でながら顔をのぞき込む。


 「ユアラになにもしていないよな!」

 「してないよ。興味ないし」

 「何を!ユアラに興味ないとか失礼だな!」

 「僕にどうして欲しいわけ?」

 「ユアラの素晴らしさを湛えつつ、俺を羨ましがり、なおかつ手は出さないで欲しい」

 「何それ。だったらこんな夜中に研究室に一人にしない事だね」


 すねたように言うアキレオに思ったまま伝える。

 自分ならフィオナを、夜中他の男が来るかもしれない場所に一人にさせたりしない。


 「誰のせいだと思ってるの?いいって言ったのに、ユアラはシキとフィオナちゃんの為にこんな時間まで仕事を手伝ってくれてたんだよ。昨日だって眠っていなかったからさすがにダウンしちゃったんじゃないか。ちなみに俺が部屋を出る時は起きていたから」


 目の下に隈を作ってくったりと眠っているユアラを見る。


 「……ごめん。ユアラには後でちゃんとお礼をしなきゃだね」

 「そうだよ。あ、俺にもね。ユアラが不眠不休で手伝ってくれたおかげで例の物一応完成したよ」

 「え!?本当!?もう?」

 「本当。今べリスと一緒に地下牢の囚人で実験もしてきた」


 ああ、そうだ。この人の名前べリスだった。つまりべリスも転移装置の開発を手伝ってくれていたのだろう。もう名前は忘れないと思う。


 「べリスもありがとう。それで?もしかしてもう転移できるの?」


 今すぐフィオナのいるコロラ王国の王城に行けるのかと気が急ぐ。

 途端アキレオとべリスが顔を見合わせた。


 「それが装置自体の開発には成功したんだけど、一つ問題があるんだ」

 「何!?言って」

 「魔力消費が半端ない」

 「でも実験は成功したんでしょ?一回転移させてくれるだけでいい。帰りは飛んで帰ってくるから」

 「そういう事じゃないんだよ。囚人で実験したんだけど、どうやら転移する距離で必要な魔力量が変わるんだ。今実験したんだけど、地下牢から王宮の庭に転移させるだけで俺の魔力の半分くらい持ってかれたよ。北の騎士団詰め所から王宮の正門まではもっと魔力を持っていかれた。コロラ王国まで飛ばすとなったら一体どれだけの魔力が必要になるか」

 「僕の魔力も使って」

 「もちろんそうするけど、それでも全然足りないよ。仮に開発室全員の魔力を集めてもコロラ王国には届かない。それに大丈夫だとは思ってはいるけど、長距離ともなると、やっぱりもう少し実験をして安全を確認したい所だよ」

 「大丈夫だよ。だってアキが作ったんだよ

?それに、届かなくてもいいよ。国境までとかでもかなり助かる」

 「そういうわけにはいかないの。転移装置ってのは、二つ一組。対になる装置の場所に転移させる装置だから、転移先までの魔力が足りなければ発動はしないよ」

 「え、ちょっと待って。転移装置の対ってここにあるんでしょう?だったらコロラ王国に行けないじゃない」

 「忘れたの?手紙受け渡し用の転移装置が向こうにあるのを。それを使って転移装置を先にコロラ王国へと送るの。そうすれば転移可能でしょ?」

 「転移装置をコロラ王国に送るのに魔力は足りるの?」

 「それは大丈夫なんだけどね。転移装置自体は小さいものだし、無機質だから。やっぱり生きている人間を安全に転移させるとなると、手紙や機械を転移させるのとはわけが違うんだよ」


 つまり装置は出来上がったが転移は不可能という事なのか?


 「どうにかならないの!?なんなら王宮中の魔導師に頭でもなんでも下げて集めてくるから!」


 アキレオに詰め寄ると目を伏せてゆっくりと首を振る。


 「ごめんシキ。上からこの装置の事はまだあまり広めない様に言われているんだ」

 「じゃあ魔力消費を抑える術式を組み込めない?」

 「転移装置を無事作り上げただけでも奇跡に近い事なんだ。魔力の消費量を抑える開発をするとなったらまた月単位で時間がかかるよ」


 後ろでべリスも申し訳なさそうにうなずいている。


 「じゃあ、コロラ王国には行けないって事……?」


 軽い眩暈のように身体がふらつき壁に寄りかかる。やはりルティアナに任せて残るしかないのか。

 答えられないアキレオの代わりに、ソファからうめき声がして、ユアラがゆっくりと起き上がった。


 「あら……、私ったら寝ちゃってた」


 目をこすりながら、あくびをしてユアラが顔を上げる。


 「あら!シキ!来てたの?アキにべリスも帰ってたのね!最終実験はどうだったの!?」


 アキレオがユアラに説明して転移は無理だと告げる。


 「つまりは膨大な魔力が必要でそれが足りないから無理だっていうのね?」

 「うん」

 「なんでやっても見ないでそんな事が言えるの?やってみたらいいじゃない。魔力が足りなくて失敗しても転移が出来ないだけで、シキに何かあるわけじゃないんでしょう?私魔力の高い知り合いを片っ端から集めてくるわ」

 「ユアラ、シキにも言ったけど上からの命令で今回のこの装置、あんまりまだ人に知られたくないんだ。だから信用の置ける口の固い人間じゃないと教えられない。それに、囚人で実験したのは短距離だけだから、絶対に安全って訳でもない。まあ、魔力だけの問題なら、ルティがいたら出来たかもしれなかったけどね」

 「大丈夫よ!アキだってこの装置に自信があるから囚人で実験したんでしょ!?信用が置ける人間ならいいのね?だったら心当たりがあるわ!」


 ユアラの申し出は心からありがたいが、数人連れてきた所で魔力が足りるとは思えない。

 ルティアナほど魔力を持った人間など、他にそうそういるものではない。


 せめてシルフがここにいれば。


 「あ……」


 思わず思いついたとんでもない考えに、つい声が漏れる。


 「シキ、誰か心当たりあるの?」


 ユアラが首を傾げる。


 「あー、でも、かなり危険な奴だし…」

 「危険や奴?でも信用はできるのよね?」

 「他に口外する心配はないけど……。いや、問題はそこじゃなくて。本当に危険なんだ。彼女を外に出したなんて知れたらルティに殺される」

 「だったらシキはフィオナに何かあってもいいの?」

 「え、ユアラ、なんでそれを?」

 「アキに聞いたわ。コロラの王子に捕まって、しかもその後行方不明なんでしょ?ぐずぐずしていていいの?」


 今、なんて言った?行方不明?


 「え、行方不明って……」

 「あ!ユアラ!それは!」


 アキレオが慌てて、ユアラを止めるがもう遅い。


 「アキ、どういう事!?」


 じりっと詰め寄るとアキレオは観念して口を割る。


 「その、あの人がコロラ王国に行く時、持ってた転移装置を置いていったんだよ。そうしたら、出発した後にフィオナちゃんが行方不明になったって、向こうから連絡が入った」

 「それはいつ!?」

 「出たいった翌日」

 「それから連絡は!?」

 「何もない。それにこっちからどうなったか尋ねても返事が返って来ない」


 胸騒ぎは間違いでは無かった。

 夜鷹の人間が見張っていながらフィオナが行方不明になるなんて。


 ぐらりと目眩がする。


 「おい!シキ!しっかりしろって!大丈夫だよ!もうルティは着いているだろうから、きっと見つかってるよ!」

 「……本気でそう言ってるの」

 「ああ!大丈夫だって!だってあのルティだぞ!?」

 「もし、フィオナじゃなくてユアラでも同じ事言える?」


 なんとか感情を押し殺してそう聞くと、アキレオが押し黙る。


 沈黙をやぶったのはユアラだった。


 「だから、ここでゴチャゴチャ言い争っていてもしょうがないでしょ!私は知り合いを呼んでくる!ベリスももし信用できる魔力の高い知り合いがいたら連れてきて!シキも心当たりがあるなら連れてきなさい!」


 そう言ってユアラは研究室を飛び出していく。


 「シキ、ごめん。ユアラの言うとおりだ。やってもいないのに出来ないって言うのは情けないよな。まったくユアラにはいつも格好いい所持ってかれるよ」

 「本当だな。ユアラは凄く格好いい。アキが惚れるのも分かるよ」

 「シキ!惚れるなよ!」

 「惚れないよ。ねえ、アキ。一つ頼みごとをしてもいい?」

 「何だよ改まって」


 内容を話すとアキレオの顔が引き攣る。


 「それ、俺で大丈夫なの?てか俺大丈夫?死なない?」

 「アキにしか頼めない」

 「……分かったよ。分かったけど、万が一俺が対応し切れなくてもしらないぞ」

 「うん、責任は僕が取るよ」

 「ああああ!やっぱりやめようぜー。もう俺、胃が痛くなってきた」

 「そんな弱音吐いてるとユアラに嫌われるよ」

 「くそお!わっーたよ!やるよ!やれば良いんだろう?」


 やけくそに叫ぶアキに笑顔を向けて部屋を出ようとすると、アキレオに引き止められる。


 「あ、シキ。あのさ、天使と悪魔とうさぎだったらどれがいい?」

 「なにそれ?」

 「いいから。直感で答えて」


 天使と悪魔とうさぎ?


 「うさぎかな?」

 「そうか、うさぎか。分かった」


 何が分かったのだろう?

 ああ、でもこれからやる事を考えたら悪魔でもいいな。

 悪魔に魂を売ってでもフィオナを取り戻したい。


 「やっぱり悪魔で」


 そう言って部屋を出ようとすると、アキレオが、「悪魔かあ……」と呟いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ