表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/127

イノス

今回はイノス視点です。

評価&ブクマありがとうございます。

 王都郊外の森の中にある廃屋から出てきたイノスは、建物の周りに張られた結界に異常がないか確認した。


 問題ない。

 どこにも異常なく、周りに人の気配もない。


 この廃屋は随分前からこんな時の為に準備しておいたものだった。王都のすぐ近くなのに、暗く薄気味悪い森のせいでここに来る者は殆どいない。

 箒を出してするりと乗ると、王都へ向かって浮かび上がった。


 王都に着くと、フードを脱ぎ、外見を魔法で変え、王城へと向かう。入り口の警備兵に使用人用の身分証を提示して中に入った。

 もうこうやって半年前から城に潜り込んでいるのだ。


 城の中には魔法陣を何箇所も仕込んである。

 半年間使用人のふりをしながら、地道に王城内の人間の毛髪を集めてきたのだ。もちろん全員は無理だったが、半分以上は集められたと思う。

 あとは術を発動すれば、魔法陣にフィオナの魔力が流れ込み、人形の出来上がりだ。

 ちなみにそうなればヒュランも人形になる。


 ふつふつとなんとも言えない高揚感が溢れてくる。

 声を出して笑いたいほどに。


 ぐっと高ぶる感情を押さえて、城の中をそれとなく歩き回る。

 出来たらフィオナを地下に隠した人物を特定しておきたい。まさかあんな秘密の部屋があるとは知らなかった。

 フィオナを見つけられたのは、彼女の残りの髪を使って呪術で探し出したからだ。髪が残っていなかったら見つけられなかっただろう。


 それほどまでに複雑で見つけるのが困難な場所を知っていた謎の人物は危険だ。危険分子は早めに排除しておいた方がいい。

 フェリクスの部下二人だけ先に呪術で操って色々調べさせているが、あまり役に立ってない。

 やはり人形にしてしまうと自分で考える事をしなくなってしまうので、能力値が格段に下がってしまう。


 まあ仕方ない。

 とりあえず今日の所は魔方陣の最終確認だ。

 明日の朝になったら魔方陣を発動させよう。

 


 翌朝通路を歩いていくと、向う側から三人歩いて来るのが見えた。

 顔を見て少しばかり緊張が走る。


 ヒィーリィ姫とカプラスのケイン王子とその側近。ヒィーリィ姫の髪はすでに入手済み。術を発動したら彼女も人形だ。

 この通路の先にフェリクス王の部屋があるので、三人はそこに行っていたのだろう。

 

 フェリクスはなかなかしぶとい。

 倒れたと聞いたときはすぐに死ぬと思ったのに、未だに持ちこたえている。


 「ヒィーリィ、大丈夫だよ。もうすぐルティが来てくれるから」


 ケイン王子がヒィーリィの肩を抱きながら慰めている。


 ルティアナが来たところで、呪術はすぐには解けないよ。

 フェリクスの呪術を解くには、呪術の術式を書いた魔法陣を壊さないと。そしてその魔法陣は王都内にある自分のアジトにある。すぐには見つけられないだろう。


 笑みを漏らさぬよう三人とすれ違う。

 

 「おい、ちょっと待て」


 すれ違った直後背後から男の声で呼び止められた。ケイン王子かその側近の男か。

 うつむき気味にゆっくり振り返る。


 まさかバレた?

 いや、そんなはずはない。


 無言で振り返り、そっと視線を上げると、ケイン王子の側近の男が一歩踏み出してくる。背が高く目つきが鋭い。


 「君、悪いがフェリクス王の部屋に換えのタオルを持って行ってくれないか?部屋に治療している者がいるから渡してくれ」


 発せられた言葉にバレたのではないとほっとしたのと同時に、疑問が浮かぶ。


 治療?

 そんな事をして治るはずもないのだが、一体何をしているのか。


 「かしこまりました」


 取り敢えずそう言って頭を下げると、三人は立ち去って行く。

 無視しても良いのだが、どんな治療をしているのか気になった。治療なんてした所でフェリクスが良くなるとは思えないのだが、もしその治療がフェリクスを持ちこたえさせているのなら見過ごせない。

 それは呪術士としてのプライドが許さないのだ。


 洗濯室から新しいタオルを貰い、フェリクス王の寝室の扉をノックすると、中から若い女性の声が返ってきた。


 頼まれてタオルを持ってきた旨を伝えて中へと入る。


 中に居たのは若い女性が二人。

 そのうちの一人が、フェリクス王のベッドの横に座り治療魔法を掛けている。


 見た感じ体力を回復させているようだった。

 ベッドサイドのテーブルの上には金のシールが貼られたポーションが置いてある。

 あれも体力を回復させるものだろう。


 なんだ。

 呪術を打ち消すようなものではなく、応急処置として体力を回復させているだけだと分かってほっとする。


 ちょっとやそっとの回復魔法やポーションでは呪術の進行を防ぐ事は出来ない。


 だがあのルティアナの作ったポーションはちょっと面倒だ。ヒュランが持ってきた物を調べたがとんでもない回復力だったのだ。


 あのポーションを使われたらせっかく衰弱の呪術を掛けているのに、進行が遅れるかもしれない。


 ムカつくな。

 殺してしまうか。


 ちらと二人に視線を向けると、治療をしていない方の女が話し掛けてきた。


 「ご苦労様。そこに置いておいてちょうだい」


 タオルを置きながら逡巡する。


 殺す?

 放置する?


 そういえば、あのフィオナとかいう小娘、カプラスから来た仲間には危害を加えるなとか言ってたな。

 そんな約束守るわけないのに。


 親切にあの馬鹿な小娘の頼みを聞いてやる事も無いな。殺すか。


 そうと決まればさくっとやってしまおう。

 

 そう思って顔を上げた時、急に外が騒がしくなった。

 バタバタと廊下を走ってくる音の後に扉をガンガンと叩く音。

 続いて大きな声が響いた。


 「失礼します!ルティアナ様がご到着しました!まもなくこちらにいらっしゃいます」


 治療をしていない方の女が飛びつくように扉を開き、伝令をしに来た男に話を聞いている。


 ルティアナが来た!

 ルティアナが来た!


 ぐっと握った拳が細かく震える。


 それは歓喜なのか、憎悪なのか。

 とにかく待ち焦がれた時が来たのだ。


 さり気なく部屋を出て、魔法陣を発動させに行く。

 思ったより早かった。まだ早朝だ。早くても今日の昼過ぎだと思っていた。

 ルティアナが来る前に魔法陣は発動しておくつもりだったのに。


 まあいい。


 発動さえすればすぐにでも効力を発揮するように作ってある。

 階段を駆け下りて、普段使われていない倉庫へと向かう。人目が無い事を確認してスペアキーを使って中へと入る。


 用途のよくわからない物が雑多に置かれた部屋の奥。壁に掛けられた大きな絵画を外すと、そこに魔法陣が現れる。


 その魔法陣の中心に手を当てて魔力を流し込んだ。魔法陣はうっすらと紫色に光る。


 術が発動した証だ。


 紫色の光が収まると、再び絵画を掛けて魔法陣を隠す。

 

 さて、これで王城の中にお人形が沢山出来たはずだ。

 今頃フィオナは魔力を吸われて慌てふためいているだろう。

 いい気味だ。


 そっと倉庫を出て階段を上がり、正面入り口へと向かうと、その途中うつろな表情のまま立ち尽くす使用人や騎士がいた。


 ちゃんと発動しているようだ。


 「人形になっていない者を捕らえ拘束しなさい。殺してはだめよ。カプラス王国の人間は殺していいわ。他の人形にもそう伝えて」


 見掛けた人形達にそう命令していく。

 人形にならなかった人間は捕らえて、後から人形にする為に殺さないようにする。


 カプラスの人間は、ルティアナへの見せしめに殺す。


 人形達が動き出し、あちこちで争いが起こり始める。人形になっていない者は、同僚や顔見知りに突然襲われパニック状態だ。


 面白くなってきた。


 さて、ルティアナはどこかな?


 正面入り口に到着すると、そこは人形達によって大騒ぎになっていた。

 思ったより人形の数が多い。

 頑張ったかいがあった。


 あちこちで争いが繰り広げられる中、ルティアナがいないか探す。

 ピンクの長い髪に、妖艶で美しく神々しい姿が脳裏に浮かぶ。


 「いないな。もうフェリクスの所に行ったのかな」


 堂々と廊下の真ん中を歩いていくと、前から騎士の格好をした男が走ってきた。


 「おい!そこの女!こっちは危ないぞ!様子のおかしい奴らが襲い掛かってくる!出口から逃げるんだ」


 腕を掴まれて出口に引っ張られた。

 こいつは見た事ない騎士だ。

 最近入ったのか?

 人形になっていないということは、毛髪を取れなかった人間だ。


 「離せ」


 騎士の男に雷撃を流すと、呻いて床に転がった。

 まだ意識はある。


 「人形共、この男を捕らえよ」


 近くにいた人形に命令するとすぐに寄ってきて騎士を拘束する。


 「お、おまえ……、一体っ……」


 痺れながら騎士がこちらを睨みつけるが、無視して踵を返した。

 目の端に人形に拘束されたまま引きずられていくのが見えた。


 フェリクスの部屋の前にたどり着く。

 扉はしっかりと閉まっていた。

 そっと手を当てると、中から懐かしく、憎らしく、待ち焦がれていた声が聞こえた。


 ルティアナの声だ。

 ああ、やっと、やっとルティアナに会える。

 ルティアナ。

 ルティアナ、ルティアナ!


 自分の心臓がどくどくと激しく高鳴っていく。

 どんなに会いたかったか。

 どれほど待ち焦がれたか。

 泣き出してしまいそうだ。


 ルティアナ。

 二度と裏切れない様に殺してあげるからね。

 口元に笑みが浮かぶ。

 扉に手を掛けた手が震えていた。

 ぐっとノブを握って勢いよく開けた。



 部屋の中にいた者達がばっとこちらに注目する。

 さっき部屋にいた女達、それに見たことがない紫がかった銀色の髪の男。それに……。

 

 子供?


 ピンクの髪をツインテールに結んで、ふりふりの可愛らしいワンピースを着た十歳くらいの子どもが、その中心に立っていた。


 ぐるりともう一度部屋を見渡す。

 ルティアナの声が聞こえたはずなのにいない。


 「ああ、先ほどの。何か用ですか?」


 女に尋ねられたが、耳に入らず思い切り開いた扉の前でぽかんと突っ立っていると、廊下からバタバタと誰かがやってきて後ろから部屋の中へと入っていく。


 「ルティアナ様!」

 「おお、リヒトにセオ」

 「わざわざお出で頂いてありがとうございます」


 まって。

 なんて言った?

 ルティアナ様?

 あの子供が?

 ルティアナはもっと背が高くて二十代半ばくらいの妖艶で神々しい姿の美女のはず。


 でも声が……。

 この声はルティアナの声。


 「気にするな。それより、フィオナの件で話があるからね!フェリクスの件が終わったら覚悟しなよ!」

 「はい、覚悟しております!ルティアナ様、それとは別に急ぎお知らせしたい事が!城内の人間の一部が突然周りの人間を襲い始め拘束しています。うつろな様子でどう見ても正常ではありません!」


 がっちりとした男が早口で告げる。

 

 「拘束?危害を加えられているわけではないのかい?」

 「いえ、抵抗する者は怪我をしている者もいるようですが、殺されたりはしていません」

 「それはいつからだい?」

 「今さっきです。カプラスの護衛騎士達に、対応させてますが、なにぶん数が多くてキリがありません」

 「おそらくそれも呪術だね。まったく厄介だな。だが先にフェリクスがやばそうだからそっちからだ」


 ルティアナらしい子供がこちらに背を向けてベッドのフェリクスに向き直る。

 それにしてもこちらに誰も興味を示さない。いくら使用人の格好をしているからといって。

 もう一度口を開こうとしたとき、ルティアナがフェリクスにかけている魔法に目がいった。


 見た事もない魔法。


 フェリクスの上に浮かぶ魔方陣は淡い金色。

 攻撃、治療、呪術など様々な分野において研究しつくした自分ですらルティアナが何をしているのかさっぱり分からなかった。

 思わず食い入るようにその魔法に魅入ってしまう。


 部屋にいるもの達全員がルティアナの魔法にくぎ付けだった。


 しばらくするとすっと魔方陣は消えてルティアナが持つ紙に吸い込まれていく。


 「解析完了。さて、リヒトにオリーブ。悪いがこれからフェリクスの呪術が掛かれた術式を壊しに行ってくれるかね?場所はこの紙が案内してくれるよ。その場所が術者のアジトだろうから、そこにある他の術式も全て壊してきてくれるかい?おそらく術者は居ないと思うから」


 最初に部屋にいた女と、後から部屋に入ってきたひょろりとした男が顔を見合わせ、女が不安そうに尋ねる。


 「ルティアナ様が確認しなくて私達が勝手に壊してしまって大丈夫ですか?」

 「そこにフィオナに掛けた術式もあるだろうからね。壊しちまいな。どうせろくでもない術式ばっかりだろうからね。術式を壊せば呪術は解けるよ」

 「分かりました。もし術者がいたら……」

 「可能なら捕らえて、無理そうなら一度戻ってきな」

 「分かりました」

 


 二人は紙を手に、自分をまた押しのけるように部屋を駆け出していく。


 「さて次はフィオナだ。ヒュランに捕まっているんだって?」

 「いえ、それが……」


 治療をしていた女が口ごもると、ずっと黙っていた紫銀の髪の男から異様な魔力が漏れた。


 「エマ。どういう事かな?」

 「ボスすみません。ヒュラン王子に捕まったフィオナの事はサクがなんとかすると言っていたので、任せています。ヒュラン王子の元からフィオナが行方不明になったと大騒ぎになっておりますが、おそらくサクがどこかに隠したのかと」

 「それで?そのサクは?」

 「それが……、一昨日の夜から連絡がないんです。サクの事だから心配はないと思うのですが」

 「まったくサクには困ったね」


 ボスと呼ばれた男がため息をつく。

 秘密の地下部屋にフィオナを隠していたのは、カプラスの人間だったのか。まったくそのせいで余計な手間が増えてしまったのだ。


 やはりカプラスの人間は一人残らず殺してしまおう。


 そしてそろそろこちらに気づいてもらわないと。


 ルティアナ。

 まずは大事な部下がどうなっているのか教えてあげようじゃないか。

 すうっと息を吸い込んで声を出す。


 「フィオナ・マーメルなら私が預かっているよ」


 ピンクのツインテールがふわりと揺れて、金色の瞳と目が合った。

 

 ああ、その目。

 やっぱりルティアナだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ