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おかしな不調

評価&ブクマありがとう御座います*_ _))

最近リアルが忙しく更新が遅く申し訳ありません。




 「フィオナさん!」

 「フィオナ君!」


 会場の外に駆け出し、中庭のような場所で喘ぐように呼吸を整えていると、すぐに追って来たのかリヒトとセオ隊長が駆け寄って来た。


 「リヒト副隊長、セオ隊長……」


 情けない事に泣きそうな声になってしまった。


 「大丈夫ですか?一体どうしたんです?」

 「具合でも悪いのか?」


 心配そうな顔を向けられ、自分でも訳が分からず、ぶんぶんと首を振る。


 「具合は悪くないです。でもなんか変なんです。ヒュラン王子に触られただけで嫌だと思うのに、手を振り払えなかったり、声が出なくなってしまったり……」


 リヒトとセオ隊長が顔を見合わせる。


 「まさか、ヒュラン王子に惚れたわけじゃないよな?」

 「セオ隊長、ぶっ殺されたいんですか」


 キッと睨みつけると、セオ隊長が眉をへの字に下げて、あたふたとする。


 「いや、嫌いといいつつ好きになってしまって、拒めなくなったのかと……」

 「セオ隊長、私、今本気で殺意が湧きました」

 「す、すまん!そんなわけないよな!」


 手をぶんぶんと振って、凶悪な顔のセオ隊長はもう一度すまんと言って、後ずさる。


 「フィオナさん、やはり何かおかしなものでも飲まされたんじゃないですか?急に身体が動けなくなるとか声が出なくなるとか、ちょっとおかしいですよね?」

 「ですよね……」

 「ポーションもう一度飲んでみたらどうですか。シキ君が沢山持たせてくれましたから、ちょっとでも変だと思うなら飲んでみた方が良いでしょう?」

 「そう……ですね」


 ポケットから解毒ポーションを取り出して、一気に飲み干す。

 ふっ、と息をついた途端またつきんと頭が痛んだ。ぐらりと身体が回る。


 「……っ!」


 手で頭を押えて、ぐらつく身体が治まるのを待っていると、リヒトが肩を掴んで顔を覗き込んでくる。


 「どうしました!?」

 「や、なんかちょっと頭痛と目眩が」

 「今ポーションを飲んだのに?」

 「……はい」

 「昨日あまり眠れなかったりしました?」


 そういえば、ヒュラン王子の事もあって、慣れない部屋とベッドだったせいか、寝付きが悪かった。


 「そうですね、ぐっすりは寝られなかったです」

 「じゃあ、体力ポーションも飲んで下さい」

 「そこまで酷くないですよ?」

 「いいから。ここでは少しでも体調が悪かったら、すぐに治して置いたほうが良いです。何があるか分かりませんからね」


 そうかもしれない。

 そういえばさっきも、壇上でヒュラン王子から離れようとして、頭痛と目眩ですぐに行動出来なかったではないか。


 「そうですね。飲んでおきます」


 体力ポーションを飲み干し、息を吐くと頭痛と目眩はすぐに良くなった。


 「治りました。少し疲れていたのかも」

 「今日は体調も悪そうなので、パーティは引き揚げましょう」

 「でも、ちゃんと私とヒュラン王子の関係をはっきりさせないとっ」

 「私達はどちらにしても明日には帰るんです。実際にはヒュラン王子となんでもないのですから、カプラス王国に帰ってしまえば手出しできないですよ」


 リヒトの言う通りだ。

 こくりとうなずくと、二人に付き添われ部屋に戻った。


 ☆


 「フィオナ、フィオナ!起きて、朝よ」

 「起きないとちゅーしちゃうぞー」


 うるさいな……。

 ズンと頭にモヤがかかった様に重たくて、なかなか目が開かない。

 横になって目を瞑っているのに、ぐらんぐらんと目が回るようだ。


 「よし、許可する。エマ、ちゅーしてしまいなさい」

 「はあい!頂きます!シキ君ごめんねえっ!あはっ」


 唇に暖かく柔らかいものがふれた。

 ばっと目を開くと目の間にエマが覆いかぶさって、にたりと笑っている。


 「フィオナ、お・は・よ」

 「!!!」

 「フィオナの唇ったら柔らかい」

 「な、な、何をー!!!」


 ベッドから跳ね起きると、また頭痛と共に酷い眩暈がした。

 思わずベッドに手をついて、下を向いてやり過ごそうとすると、エマが驚いたように上からどいた。


 「やだ、フィオナ、どうしたの!?シキ君じゃないと拒絶反応でも起きるの!?」

 「違い……ますっ、そうじゃなくて……、なんか眩暈と頭痛が……」

 「え!やだ、大丈夫!?オリーブ、箱からポーション出して」

 「分かったわ」


 エマに支えられながら再びベッドに横になるが、まだ頭がズキンズキンと脈を打つように痛く、ぐらぐらと天井が回る。


 「ほら、フィオナ。痛み止めのポーションと体力回復ポーション」


 オリーブに渡されたポーションを飲み干し、しばらくじっとベッドに横になっているが全く治まる気配がない。

 昨日はポーションを飲んだら治ったのに。

 

 「どう?フィオナ?」

 「全然治りません。どうしたんだろう……」

 「おかしいわね、金のポーションなのに」


 エマとオリーブが顔を見合わせる。


 「治療魔法も掛けるわね」


 エマがベッドに座って、フィオナに治療魔法を掛け始める。


 「フィオナ、頭痛は今朝から?」

 「昨日の式典の時も少しあったんですけど、その時はポーションを飲んだらすぐに良くなったんです」

 「そう……。どう?治療魔法は効いている?」

 「……すみません。あんまり変わらないみたいです」


 エマはしばらく治療魔法を掛けていたが、効果がないようだと分かると、諦めて手を離した。


 「この様子だと今日カプラスに戻るのは無理そうね」

 「大丈夫です!私早く帰りたいんです!」

 「そうは言っても起き上がれないでしょう?」

 「そうですけど……。でも、ここにはもう居たくないんです。セオ隊長におぶってもらいます」

 「セオ隊長ならそれも可能だろうけど、許可できないわ。カプラスまで何日かかると思っているの?途中で悪化したら大変よ。今日は我慢して身体を治してから出発しましょう」

 「でも……」


 それでも食い下がろうとしていると、ドアがノックされる音に話は中断された。


 「皆さま朝食の準備が整いました。食堂へとお越しください」


 ドアの外から女性の声が掛かる。

 オリーブが扉を開けると、そこに立っていたのは昨日ヒュラン王子と一緒にいたメイドだ。


 「食事を部屋に運んでもらう事は出来るかしら?具合が悪い子がいるの」

 「よろしければ医務室にお連れしましょうか?」

 「いいえ、ここには医療の心得がある者がいるから大丈夫よ。食事だけこちらにお願い」

 「かしこまりました」


 メイドは頭を下げて去っていった。

 

 「エマ、私セオ隊長の所に行って話してくるわ。フィオナを見てて」

 「分かった」


 オリーブが出て行ってしまうと、エマがそっと額に手を当てて顔をのぞき込んでくる。


 「顔色も良くないわね。食事は摂れそう?」

 「あんまり食欲がないです」

 「そう、まあ、食べられそうなら少しでも食べておきなさいね」

 「……はい。でもさっきのメイド、初日にヒュラン王子と一緒にいた人でした。あの人が運んできた物を食べて大丈夫ですか?」

 「あら、そうなの?そうね、念のため解毒ポーションを飲んでから食べましょうか」


 部屋に食事が運ばれて来る頃に、オリーブが戻って来た。


 「ただいま。セオ隊長達とあとケイン王子にも話してきたわ」

 「あら、珍しい。率先してケイン王子の所に行くなんて」

 「仕方がないでしょう。早く伝えておかないといけなかったし」

 「それで?皆はなんて?」

 「フェリクス王の事もあるし、帰るのは全員明日以降にと言う事になったわ」

 「そう、それがいいわ」


 二人の会話を聞いてなんだか申し訳なくなってしまう。


 「すみません。私のせいで」

 「いいのよ。どっちにせよ私はルティアナ様が来るまで残るつもりだったし」


 エマが食事を摂りながらそう笑う。


 「そうだったんですか!?」

 「ええ、役に立たないかもだけど、一応治療魔法が使えるからね。だからフィオナは気にしなくていいのよ」

 「そうよ。ケイン王子もまだヒィーリィ姫に付き添って居たかったみたいだし、無理してすぐに出発しなくても大丈夫よ」


 二人はそう言うが、誰よりも早くカプラスに帰りたいと思っているのは自分だ。

 シキになるべく早く帰ると言ったのに。


 とにかく早く治して明日には帰れるようにしなければと、食事を無理して口へと運んだ。


 食事の後も頭痛と目眩は良くなるどころか、更に酷くなるばかりで、フィオナはいつの間にか眠っていた。

 目が覚めたとき、覚えてはいないがあまり良くない夢を見た気がして、ぼうっと天井を見つめながら顔をしかめた。


 「フィオナさん、大丈夫ですか?」


 はっとして顔を横に向けると、ベッドの横に椅子を持ってきてリヒトが座っていた。


 「リヒト副隊長……。付いていてくれたんですか?」

 「ええ、エマさんとオリーブさんは今ケイン王子と一緒にフェリクス王の様子を見に行ってます」

 「そうですか」

 「具合はどうですか?」

 「……はい、良くなってきてます」


 ここで朝より酷くなっていると言えばまた出発が遅れてしまう。


 「嘘つきですねえ。ずいぶん顔色が悪いですよ?」

 「リヒト副隊長、お願いです。明日には出発したいんです。今まで頭痛や目眩なんてほとんどなかったのに。ポーションを飲んでも治らないなんておかしいと思いませんか?」


 痛む頭でまとまらない思考をもってしても、この状況は変すぎる。

 まるでフェリクス王と同じだ。


 「ええ、それは私も思います。エマもそう言ってました。多分何か仕掛けられているのでしょう。けどその何かがさっぱり分かりません。分からないままここを離れて、あなたに何かあったらどうするんですか?」

 「けど、もし何か仕掛けられているなら、ここを離れた方がいいんじゃないんですか?」

 「それにしてもあなただけというのが変なんです。同じものを食べている私はなんともなくて、同じ部屋で過ごしているエマさん達もなんでもない」

 「エマさん達は部屋に居ないことも多いからでは?」

 「それにしても極端です」

 「ヒュラン王子がなにかしていると思うんです」

 「そうですねえ。でもそんな素振りも証拠もなにもなくて本当にどうなっているのやら。エマさん達の意見では、ルティアナ様を待つのが賢明なんじゃないかと」

 

 確かにルティアナが来てくれるなら、それを待っているのが一番なのかもしれない。

 移動中に行き違いになるかもしれないし。

 

 がっかりしたのが分かったのかリヒトが苦笑いする。


 「ルティアナ様の事です。書状が届けばきっと二、三日で来て下さいますよ」


 そうはいっても書状が届くのにも時間はかかるはずだ。だが、ここは皆の意見に従うべきだろう。


 大人しくベッドに潜り込むと、おもむろに扉がノックされた。

 すぐにリヒトが立ち上がり、対応する。


 「ヒュランだ。フィオナの見舞いに来た」


 リヒトが扉を開けずに振り返り、目でどうする?と聞いてくる。

 あの男には会いたくない。

 ぶんぶんと首を振ると、リヒトが扉の外に向かって口を開いた。


 「ヒュラン王子、申し訳ありません。フィオナさんは今眠っておりまして、また改めて」

 「構わん、開けろ」

 「いや、しかし、体調もかなり悪いので今日はお引き取り願えますか」

 「なら尚更だ。そんなに悪いのなら、医務室へと連れていく」

 「しかし……」

 「いいから開けろ!」


 バンと扉が強く叩かれた。

 リヒトが苦々しい顔で振り返る。

 これ以上はリヒトの立場が悪くなってしまう。

 開けて良いとうなずいて、頭から毛布をかぶり、扉とは逆方向を向いて横になった。

 それを確かめてから、リヒトは静かに扉を開く。


 「遅い!さっさと開けないか!」

 「申し訳ありません。恐れ入りますが、もう少し声を落として頂けますか?彼女は眠っているので」


 二人の会話にどきどきしながら、息を殺して眠ったふりを決め込む。

 ただでさえ頭痛と目眩で辛いのに、ヒュラン王子と話しなんてしたらより悪化する。間違いない。


 足音が近づいて、ベッドのすぐ横に人の気配を感じる。

 ゆっくりと呼吸をして、さも寝ているかのように振る舞うが、心臓は嫌な音を立てている。


 「フィオナ、寝ているのか」


 ぐっと肩を掴まれて揺すられた。


 「ヒュラン王子!」


 リヒトの焦った声。


 それでもヒュラン王子は手を離さず、反対側を向いているフィオナを自分の方に向けようとしてくる。


 ここまでされて、目が覚めないというのもおかしいので、渋々今起きたという体でゆっくりと毛布から顔を出した。


 「フィオナ、どうだ具合は」

 

 まったく、具合が悪い相手にする起こし方ではないだろう。

 本当に自分勝手な奴。


 「ヒュラン王子。具合はよくありません。話すのもしんどいので、申し訳ありませんが、今日は……」

 「そうか。分かった」

 

 あっさり引き下がってくれた事にほっとしていると、ヒュラン王子が思いがけない行動に出た。


 ばっと毛布を引っペがされたと思ったら、膝裏に手を差し込まれ、強引に抱きかかえられていた。


 「な!何するんですか!おろして下さいっ!」

 「いいから大人しくしていろ。医務室に連れて行ってやる」

 「結構です!エマさんに診てもらいましからっ!」

 「それでも良くなっていないのだろう?だったら、他の医者に診てもらった方がいい」


 ヒュラン王子はフィオナを抱きかかえたまま、扉に向かって歩いていく。

 もがこうとすると、ヒュラン王子が耳元で言う。


 「いいから、大人しくしていろ」


 めちゃくちゃに暴れてやろうと思ったのに、ぴたりと身体が動けなくなってしまう。


 「フィオナさん!」

 「あ……、リヒト副隊長っ!」

 「貴様は来なくていい。俺が医務室に連れていく」

 「いえ、私も行きます!」

 「来るなと言っている!近衛!」


 いつの間に来ていたのか、ヒュラン王子の近衛と思われる騎士達が、リヒトの腕を掴んで止める。


 「心配するな。具合が良くなるまでフィオナはこちらで面倒みる」

 

 冗談じゃない!すっと身体が動くようになって、思い切りもがく。


 「いやっ!ヒュラン王子離して下さい!」

 「フィオナ、大人しく言う事を聞け。お前の身体を思っての事だ」


 がっちりと抱え込まれ、耳元で強く言われた言葉が、頭の奥に響いてぐるぐると回る。

 それと同時にぐらりと目眩が酷くなり、耐えきれずヒュラン王子にもたれかかってしまった。


 「フィオナも同意してくれたようだ。では預かっていく」


 近衛騎士達に押さえされ動けないリヒトを後に、ヒュラン王子はフィオナを軽々と抱えて歩いていく。


 まともに動けない自分が悔しい。

 睨みつけてやろうと、顔を向けると、獲物を捕まえた肉食獣のような笑みを浮べたヒュラン王子に、ギロリと射抜かれた。


 全身の筋肉が硬直した。


 このままではいけない。

 フィオナはそう直感した。

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