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「彼に会いたい…どうか…会わせて下さい…」
最近の夢見は良いとは言えない。
毎朝、毎朝、人様の泣き顔を見てスッキリする人がいるのだろうか? いないでしょうね。
彼女の悲痛な想いだけは伝わってくるので、やっぱり”会わせてあげたい”と思うが、なかなかに映像が見えるだけでは、情報が少ない。
見える映像から、彼女以外、登場人物以外の情報も探らねばいけない。
ーーーアルバムからは結局、誰であるかを特定することはできなかった。
「はぁ。刑事ドラマのように、そう簡単にいくわけないよねぇ」
「・・・」
私たちは次に、市にある図書館に来ていた。
あの地域であった事件や事故を新聞記事から調べることにした。
「神崎さ…他に、なんか情報ないか?」
そろそろ坂本くんも見つからないことに焦りはじめたようで、自発的に質問することが多くなってきた。
「そう言われてもね…うーん」
「俺は…そこにいる彼女の姿が見えても、話すことはできない。だから、神崎が見ている映像が手掛かりになるんだ」
「…うん」
夢。と言うか、映像というか、まるでドラマを見ているように、同じシーンを何度も繰り返す、彼女の視線になっていることが多いが、ごく稀に、映像が前後していたり、遠くから二人のやり取りを見ているパターンもある。
頭でもやもやと考えても埒があかない。
とりあえず、紙に書き出しをしてみる。
・彼女→黒髮、肩下まで伸びている
・彼 →顔見えない。
・場所→お祭りの最中?
書き出すほどでもなかった。
紙に書き出した情報と睨めっこをする。
「…神崎さ、その服装とか、季節とか、どんな音がするとか、なんでもいいから見えたり、聞こえた情報を書き出してみるんだ。何か情報に繋がるかもしれない」
そう促されて、改めて思い浮かべてみる。音とか服装かぁ。
・音 → 鈴虫の音、太鼓みたいなドンドンと低い音。
・服装→ 彼は黒い影としての色味かも?
→ 彼女は白い?ワンピース?ふわふわ?
追加で、夢で見た、思い出したことをメモに追加してみる。
状況は幾分かマシにはなったかもしれないが、役に立つ情報とは思えないものだった。
ため息をこぼすと、メモを見た坂本くんは携帯を操作しはじめた。
「どうしたの?」
携帯を操作しはじめた理由が分からずに質問してみると
「…鈴虫が鳴くのは8月〜10月。鳴き声が聞こえる時間帯は、夕方以降夜」
どうやら鈴虫に引っかかりを感じたらしいけど、それが何になるのだろうか。
「うん?」
どういうことが理解できずに曖昧な返事をしてしまったが、坂本くんは気にすることなく、言葉を続ける。
「それに…低い音。まずは8月〜10月の周辺にあるイベント…なるべく夜までやっているようなものを探して…そこから事件か事故、名前を特定する…」
そこまで言われて、やっと頭の中で、点と点が繋がった。
「なるほど!すごい!」
図書館なのに思わず、大きな声が出てしまったことは許してほしい。
慌てて口元を押さえても出した音は戻らない。
チラチラと図書館にいる人たちの怪訝な視線に、苦笑いをしながらペコペコと頭を下げた。