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霊感微少女の夏  作者: 慶
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 最初に取り掛かったのは彼女を調べるところからだった。


 彼女と会話という会話ができたワケじゃないし、”相手が見つかったら離れる”とも言われていないし、そんな確証は一つもないけれど、会わせてあげることで、何か変わる気がしたんだ。

 そんな確証もない話であったけど、坂本くんは「わかった」と言って、付き合ってくれている。


「どうだ?」


 図書室の一角で、私は数多くの卒業アルバムとにらめっこしているのだけど、多すぎて、脳内がパンクしそうである。

 まず私たちが目星をつけたのは、この学校の卒業生である。

 彼女の見た目が正しいのであれば、中学生というには大人であったし、大人か、と言われると疑問が残る容姿であった。市内にある高校はこの学校だけだし、大学は近くにないので、県外に行くのが大体であるので、そうなると、高校生である可能性が高い。

 学校がいくつもあるわけでもなく1つで良かったと、田舎の人口密度の低さに感謝した。


が、しかし。


「なかなか膨大な量だわ。思った以上に大変…」


 とうめいてしまうくらいには、最近、図書室に入り浸っている。

 部活の練習など、学校に出勤している先生に鍵を借りて、利用させてもらっているので、毎日行けるわけでもない。

 そして、先生がいる時には、朝から夕方まで、黙々と参考になると思われる資料を調べ続けている。


 今のところ、手がかりは見つかっていない。


「なんか、違うのかなぁ」


 弱音が出てしまうのも仕方がないと思う。

 図書室に保存されているものは全て見たはずだ。なのに出てこない。

 ネット社会の今のご時世、事件がなかったか、なども検索してみたものの、ヒットはなし。

 もちろん、顔だけで探しているワケじゃない。

 あの場所にいるのは思い入れがあるからではないか?とも思った。しかし、ネットで検索した限り、事故や事件の情報は出てこなかった。


 彼女の夢、あの「会いたい」と言っている彼との、2人のやり取りのシーンは何度か見るのだけど、喋ることが出来ず。意思疎通っぽいことができたのは坂本くんと喋って、試した、あの時だけ。

 ちなみに、坂本くんは私が見ている映像を見ているワケじゃないようだ。

 私に憑いている彼女の姿を見ることはできるようだけど、話ができるワケじゃなく、やはり、現実の世界でも、私のそばに立っているだけらしい。坂本くんの霊感にもムラがあるようで、喋れる霊、喋らない霊、動く霊、動かない霊、まぁ色々いて、視ることが出来ても、必ずしも喋れる、ということにはならないらしい。


 チラリと正面にいる坂本くんの様子を伺うと

「・・・」

 雑念でゴチャゴチャしてしまっている私と違って、坂本くんは無言で黙々とアルバムと向き合っている。


 さすがにもう一回、坂本くんに触れて…というのは、何だかなぁ。うーん。


 アルバムを閉じる音が聞こえて、改めて正面を見ると、目元を抑えて、マッサージをしていた。眼精疲労すごいよね。わかる。


「…いたか?」

「いない」


 同時にため息が出た。


 やはり、姿だけでは探すには限界もある。相手の顔も暗くて見えないから、名前も何もわからなくては、お手上げ状態だ。


「見終わったアルバム戻して、新しいアルバム持ってくるね」

 机の上に広がったアルバムをまとめる。

「…持っていく」

 室内とはいえ、毎回持ってもらうのは悪いとは思ったけど、見た目以上に意外と重いので甘えることにした。


 遠くの方でカタカタとアルバムを並べ置き換えている音が聞こえてくる。


 凝り固まった肩をグルグルと回して解したり、上半身を伸ばしたり、椅子に座ったまま、ストレッチをしていると、トンと腕が何かに当たったような感覚があった。

「わっ!?」

 遠くにいると思っていたけれど、もしかしたら坂本くんに当たったのかもしれない。

 通路側には誰もいないものだと思いっきり伸ばしていたので、慌てて、振り返る。


ーーーー誰もいない。


「あれ? 気のせい? 疲れているのかなぁーはぁ」


 不思議に思いつつ、前に向き直る。


 次の瞬間、息を呑んだ。

 首のない人が目の前にいる。

 

「っひ……」


 声にならない悲鳴をあげたが、瞬きの間に、消えていた。

 

 見間違いかな?なんか幽霊のことばかり考えているから、見間違えてしまったんだ。

 無意識に恐怖心が生み出した幻想かもしれない。

 ドキマギと胸を打つ心を落ち着けようと深呼吸をする。


「神崎?」 


 両手には高く積んだアルバムを持っていた。

「さ、坂本くん」

 キュウと心臓が締まったのを隠すように声を絞り出した。

「…いや…これが最後のアルバムだ…」

「了解。見つかりますように!」

 さっきの恐怖心を吹き飛ばすように明るく、何事もなかったように声を出した。

 だって、なんか、さっき視たことを言ったら、ダメなような気がしたから。


ーーーーねぇ、富子ちゃんしってる?霊感が強い人に一緒にいると、霊感が強くなるんだって。

ーーーー幽霊はね、視える人に、気づいてくれた人に助けを求めるんだよ?

ーーーーだから、視えるようになったら、すごく大変なんだよ?


 昔、おじいちゃんのところで会った親戚のお姉さんの言葉が頭を駆け抜ける。

 もしかしたら、坂本くんは言わないだけで、大変な思いを沢山しているのかもしれない。

 そして、このことを言ってしまったら、坂本くんは気にして、離れて行ってしまう気がした。

 そんなこと、私は嫌だなって思った。

 私に憑いている彼女のことがあるからじゃない、せっかく親しくなれてきた友人が離れてしまうのはイヤなんだ。


「ん? どうかしたか?」

 色々考えている内に、どうやら坂本くんを見つめてしまっていたようだ。 

「ううん。なんでもない。もうひと踏ん張り、頑張るぞ!」

「そうだな」

 よく分からない私のテンションに苦笑しつつも答えてくれる坂本くんは良い友人だと思う。

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