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ちょっとした騒ぎになってしまった。
「おいっガキの遊びかもしれねぇけど、アニキに何の用だっ」
最初は順調のように見えた。私服の集団に近づくと、言葉を一言、二言と、会話を重ねていった。
それから、周辺にいた大人たちとの会話が広がっていく、そして、その内の一人が、誰かを呼ぶような動作をして、体格のいい。男性を呼び寄せた。
坂本くんは、その人と、少しばかり会話していたかと思うと、急に胸ぐらを掴むような、そんな荒く肩を掴まれたかと思うと強引に集団から離れた場所に連れていかれてしまった。不穏な空気とその姿を見て、慌てて、その場に向かって駆ける。
勢いよく駆け出したものの、目線を坂本くんたちの方に向いているので、舗装された道を歩くのではなく、直線距離。
土手に広がる芝や草が滑って、うまく進めない。焦りを感じながらも、なんとか、舗装された道まで降りて、息を整える暇もなく、後を追った。
「今更、そんな事故のこと、掘り返そうって何する気なんだよっ!」
なんとか追いついた時には、20代後半に見える好青年と言われそうな男性に投げ捨てられるように地面に放られていた。
「ネットで面白おかしく思って来てるのかもしんねぇけど…痛い目、見たくないならっ二度と顔を見せんなっ」
吐き捨てるように、彼は立ち去って行った。
私はその迫力に臆してしまい、引き止めることも、声をかけることができなかった。
彼の姿が完全に視界から消えると、氷が溶けたかのように今まで固まって動けなかった体を、やっと動かすことができた。
「坂本くん、大丈夫!?」
その場で放られたが、土であったので特に目立った傷もなく、起き上がってその場に座っていた。
「あぁ……何か感じたか?」
私の動揺をよそに坂本くんは冷静であった。
「えっ?」
「さっきの人…平木 衛さんの弟らしい…」
言われてみれば似ていたのかもしれない…そう思い返すぐらいの認識で…何も感じなかった。
「うぅん、何も…感じなかった…」
素直に答える。
「…じゃあ…やっぱり、平木 衛さん本人が何かしら関わっている…」
確信を得たように、坂本くんは私に憑いている穂花さんを視ていた。
これ以上、動くことはできない、と判断した私たちは、そのまま帰路に着いた。
それでも、まだ陽が残る夕方近くで。
親たちは予想より早かった帰宅に、それはそれで騒いでいたが、疲れ切っていた私はツッコミを入れることもなく自室へ直行した。
夜。ご飯も食べて、お風呂も入って、スッキリとした状態で、私は坂本くんと電話を繋いだ。
「ーーー平木さんは、赤信号で渡って事故を起こしたことが原因で、引越しをしたわけじゃないんだ」
夕ご飯の後に行うスピーカー通話は、習慣となりつつあった。
「どういうこと?」
パソコンはあるけれど基本は、アナログ派なので、一度紙に書き出して、パソコンで清書するタイプなので、話を聞きながら、聞いた話を、次々と書き綴っていく手が止まる。
「彼は、赤信号で渡ったことは認めているが、それは、友達がいたから、その人を助けるために飛び出した」
「え、でも。事故にあって、怪我をしたのは平木さんだけなんじゃ…」
事故の話で、事故をした人が複数いた、という話は一度も出なかったし、あんなにハッキリ覚えていた一美のお父さんも、他に誰かいた、なんて話もしていなかった。
「そう…だから…彼は嘘をついている、もしくは、幻覚を見ている…つまり違法薬物に手を出しているんじゃないかって、疑われた。
でも彼は潔白だった。しかし、その発言によって、平木さんは、平木家引越しを余儀なくされた……」
人の噂は怖い。嘘であっても、真実として扱われてしまう。
そして、私たちもそうだ。
他人に理解されたない。他人の持っていない能力があるというものは奇異な存在なんだ。
そのことを喋ってはいけない。他言してはいけない。
きっと理解されないんだから。




