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うん。一美にはズレたままでいてもらうことした。
「あった、あった。ちょっと分かりにくいかもしれないが…コイツだよ…」
そんな私達の微妙な空気にも気づくこともなく、一美のお父さんは布表紙に箔押しされた、分厚いアルバムを見せてくれた。
「久しぶりに開くから少し湿気くさいけれど…たまに整理しないとだなぁ」
そう苦笑しながら、開かれたページの一つに、その写真はあった。
「この人?ですか…」
舌が乾いて、うまく空気が抜けず、かすれたような声になってしまった。
「そう彼だよ…平木 衛」
指さされた場所にいるのは、野球のユニフォーム姿だろうか…黒いウェアを着た、あどけなさが残った少年が笑っていた。
「……平木 衛…さん」
彼の名前を呟いた瞬間、一気に頭の中に色んな映像が次々の流れ込んでくる。
ーーーねぇ。よく歩いているよね!何か部活やっているの?
ーーー君の名前、教えてよ!
ーーー今日は部活でノック…つってもわかんないよな…えっと…
ーーーあのさっ、俺……
「神崎っ!」
気づくと私は、坂本くんに肩を掴まれていて、その後ろには一美も姿が見えた。
「もーびっくりした! トミー動かなくなるし…集中し過ぎだってば〜」
いつものように明るく言っているけども、どこかうろたえたような一美の声や胸の前で握り締められいる手を見る限り、思っている以上に意識を手放していたようだ。
「ぁ…ごめん…色々考えてらボーッとしちゃった。お腹が空いてきたらからかなぁ」
と笑うと、安心したよう、一美は笑った。
「だ、大丈夫かい? あれ、ハウスダストとか、なんかアレルギー持ってたとか??」
別の意味で、一美のお父さんはうろたえていた。
そのズレ方は、まさに一美っぽくて、さすが、家族。と、再び笑ってしまった。
それよりも、穂花さんが会いたいと言っている人が…平木さんであるならば…おかしい。
だって、穂花さんは40年前に亡くなっていて、そして、平木さんは20年前に高校生であった。
単純に考えて、穂花さんと平木さん、彼らには約20年の違いがある。
そんな二人が出会うことがあるのだろうか?
それとも、平木さんのお父さんや兄弟など、親族の人と20年前に出会っている?
それならば、辻褄が合うけれど。
でも、名前や顔写真で反応をしたからこその、あの情報量だったのではないか?
ダメだ。情報が多過ぎるし、整理できない。
ねぇ。どうすればいい?
…答えてくれるはずはない。
考えろ、考えるしかない、でもそれだけじゃ、何も変わらない。
動け。立ち止まっていては何も始まらない。
私が今でできること、彼女が求めていること、それは、彼に会うこと。
心の中で、何かがカチリと組み合わさった。
「富子ちゃん、お腹空いたの〜?
我が家はお夕飯、そうめんなんだけど食べていくかしら?」
まだ落ち着きがない父と娘と違って、母は通常営業。
どこの家庭でも、母は強し。と言うことだろう。
「わーい!食べまーす!」
まずは、腹ごしらえよね!




