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ーーー早く、家に帰らなきゃ
「あ、あの。君っ、ここよく歩いているよね?」
ーーーえっ
「そのっ、もし良かったら、お話しませんかっ!?」
ーーーあなたは・・・?
遠くに聞こえる鈴虫の音。
そして、目の前にいる”あなた”は…これは穂花さんの記憶…?
「とーみーこー!起きなさいっ!!!!」
目の前には母のドアップ。
「ふぇ!?」
状況もわからないままの私にお構いなしに布団をひっくり返される
「アンタ、夏休みだからって、寝坊が許されるなんて思わないで頂戴!布団畳むわけもなく、ただ寝ているだけでいいなんてことは、ないんですからっ!」
必然的に床に転がるように飛び出して、ひんやりとした扉近くの床に転がり、打ち付けた頬の衝撃と共に目が冴えてくる。
もちろん、ひと一人を転がすようなパワーはどこから出てくるんですか、というか、もう少し、優しく起こしてくれたっていいじゃない、などなど、言葉は頭を巡るけれども
「…地味に痛い」
床に転がった状態のまま、批難の言葉は、短く、小さかった。
「ふっ」
「くくっ」
ふと、頭の上から、音が落ちてきた。
視線の先に、二人分の足が見えた。
「ごめんなさいねぇー! 寝汚い娘でお恥ずかしいわっ」
母の声は、背中の方から聞こえてくる。
「夏休みですから、そうなりますよー」
この声は・・・一美。
え。
ん? あれ!?
「……」
混乱しつつも、目線を上げる。
見なくとも、もうすでにその答えは分かっていたと言っても過言ではない。
むしろ”時すでに遅し”という言葉が見えるぐらいだ。
「おはよう、トミー!」
「・・・」
そう、一美と坂本くんがいた。
「お、お母さん!!!!」
人生で一番、早く、寝起きから覚醒した日だった。
肩が震え、顔が緩みきっている。
「ごめんごめんって」
どツボにはまったようで、完全に笑いが止まらない一美。
「…まぁ、休日だしな」
フォローになっていないフォローをする坂本くん。
すごいクールに言っているけど、その、まっすぐな棒読みとも思える、淡々とした口調が今はにくい!
「もうイイ。フォローも何も求めてない!
いや、記憶から消して! まじ忘れてください!!」
こうなれば必死なお願いである。
言葉遣いを気にしているところではない、1分、1秒でも早く記憶を消し去りたい。
それだけである。
「いやー笑った笑った。今年の夏イチだわ」
我が家特製の麦茶を片手に、あれだけ”消せ”と言っていることを口出す一美。
「それは、どういたしまして!」
これこそ腐れ縁ならではのことで、いつもなら笑えるけど。
今回は坂本くんがいたのが、私にとって大問題であるべきことであって。
なんやかんやで、女子力というものは低い方ではあるけれど、乙女心はあるんです。
とにかく、覚醒してからの私は、いつもの着替えが霞むぐらいスピーディな衣装チェンジだった。
悲鳴を上げつつ、2人を広間に案内して、その後、急いで、自室に閉じこもって数分足らずで着替えを済ませた。
何より問題なのは
「今日、なんか約束してたっけ?」
先日うっかり、予定を忘れていた私だけど、毎回、うっかり忘れているワケじゃない。
だからこそ、のんびり寝ていたのだ。
なのに、寝起きバッチリ見られるとか、ほんと、幼馴染ならまだしもクラスメイトの男子って、年頃の女の子だよ? 忘れていない?
「もうお嫁にいけない…」
よくある冗談だけれども、言いたくもなるさ。
「坂本くんに責任取ってもらえば?」
ん? いやいやいや。 かるーく言葉繋げないで、
「つか、冗談に決まってるでしょ!」
と全力ツッコミしていたらエネルギー切れ。そもそも私寝起きなんだから無理だわ。
そうこう脱力して、もはやここまで来ると怒る気にもならないし、て言うか、家に入れたのは母であるのであるから、責めるのも筋違いのような気がする。
「はぁ…。で。どうしたのよ? コレにもう付き合わないわよー?」
怒る気力もないのを察したのは一美は、残念そうな表情を浮かべて、ニコリと微笑んだ。
「そりゃ、バレるよね。ってことで、約束はしてない!
けど、またまた面白いニュースの追加情報を見つけたから、教えてあげようと思って!
で、メール打つのとか面倒だし、なら直接の方が楽だなって。
そうしたらさー。家の前まで来たら、坂本くんもいてビックリ!
まぁ? せっかくだから一緒にってなったんだよねー」
気になるところはいくつかあるけど、最後の言葉に坂本くんを見ると
「……神崎に何度か連絡したけど反応なくて、もしかしてと思って」
気まずそうに目をそらされる。
笑ってすむほど付き合いが長いワケじゃない、表現しがたい関係の私たちにとって、あの件について、どうすればいいのかと思う気持ちは痛いほど分かったので、追求しない方向にする。
「で、内容はわかったけど、追加情報って何よ?」




