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霊感微少女の夏  作者: 慶
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「ーー以上。明日から夏休みだけど、事故に気をつけて楽しむように」


 ホームルームで先生がそう告げ、1年B組の教室からいなくなると、一気にざわつきを取り戻す。

 プリントを含め、夏休みの課題に必要な教科書やプリントを確認して、カバンに詰める。

 さて、家に帰るか、と思うと、教室内に大きな声が響いた。

「なぁ!来週さ、暇なヤツいねぇ!? 肝試しやろうぜ!」

 クラスの中心的な人物である鈴木すずき 裕太ゆうたが声をあげた。

「えぇー!まじで!?」

「面白そう!」

 などと反応は様々あるものの、皆、興味津々と言ったところであろう。

 子供というのは、なぜこうも。夏休みになると肝試しをしたくなるのだろうか。

 常々、疑問に思う。そんなに恐い体験をしたいのか。

 というか、幽霊などという、目に見えぬ存在を信じているワケでもないくせに、面白半分で楽しむなんて、私は恐ろしくてできない。関わりたくはない。

 盛り上がる集団を横目に、私、神崎かんざき 富子とみこは小さくため息をついた。

 本当はカバンをひったくって教室を出たいのだが、友人たちが鈴木くんの近くにいるものだから、出るに出られない。後から携帯から連絡すると言うのも手ではあるが、それはそれで”女子的”にはあまり印象は良くないので、空気のように存在感を消すしかない。

 しかし、そう簡単に、私を見逃してくれるはずがないのだ。子供というのは無邪気で残酷である。


「あれっ神崎はいねぇの!? 神崎〜!?」


 と鈴木くんは大きな声を上げて、彼の周りに集まっていた人垣は一瞬にして、教室の隅にいる私を見つけるのだ。


「……いるけど」


「お前さぁ、寺の孫娘じゃん!来いよ!お前がいてくれた方が心強いし!!!」

 これだ。この個人情報を晒すのはいかがなものなどろうか。

 昨今の個人情報保護法など取締りが厳しくなっているのに、子供の意識の低さには、本当に嫌気がさす。そもそも

「いや、私、興味がないし…」

 遠回しの断りを入れているにも関わらず

「そうだったね!富子ちゃんって孫娘だったね!」

「霊とか見えんの!?」

 私のテンション急下降とは反対に、集団のテンションは急上昇である。

 本当に、面白半分でからかわれるから嫌なのに。

 そもそも、私は確かに孫娘ではあるが、父や母は一般のサラリーマンに主婦なのである。

 つまり、私も一般人である。言われてみれば、そういう風に言えますよね。ってぐらいなのに、こういう話になると、いつも引き合いに出される。嫌になる。

「えっと、見えないし、本当に興味がなくて…」

 それなりに健闘けんとうしたつもりだが、来週、市内にある心霊スポットに肝試しをすることに参加することになった。


「はぁ。行きたくないなぁ」

 自転車を漕ぎながら呟くと、幼馴染の石田 みゆは

「トミーはあんまり好きじゃないもんねぇ、そういうの」

 慰めてくれているが、みゆは部活動の関係で不参加である。

「でもさ、違うって分かってはいるけど、やっぱり、そういうのにトミーがいると安心するよね。なんていうか加護かごがあって、守ってもらえる!的な?」

 申し訳ないと言いつつも、楽しみにしているのは同じく幼馴染の堀江 一美かずみは勿論、参加組である。

「本当に、私なんの力もないんだからね!」

「分かってるって」

「ごめんごめん」

 怒ってもどうしようもないことだし、二人に止められることでもないのも分かっている、それでもちょっと吐露したくもなるものである。

 そのことも二人も分かっているので、怒ったふりをして、笑いあって終わるのだ。


「ただいまー」

 玄関を開けて、声をかけるとすぐに

「おかえりー」

 と、母の声が返ってきた。にわかに美味しそうな匂いがするが、台所に来るように言われないのを考えると、まだ夕食はまだなのだろう。

 自分の部屋にそのまま直行する。

 制服を脱いで、部屋着に着替える。

 窓の外には、夕闇に浮かぶ、かすかな暁の星が瞬いている。

 そういうのが難なく見えるのは、ここが田舎であるからだろう。

 都会のように煌々(こうこう)と輝くお店も何もなく、田んぼの中に一軒家が点在しており、夕暮れ星空がよく見える。

 都会に憧れがないわけではないが、田舎のイイところだと思うし、こうゆうところは嫌いじゃない。

 だけど、好きになれないのが、ご近所付き合いというか”ご近所ネットワーク”というものだろうか。はぁ。

 一般家庭の私が、なぜ、寺の孫娘と共通認識されているのかと言うと、他でもない、この”ご近所ネットワーク”がものを言うのだと思う。

 この”ご近所ネットワーク”というものは、ネットの掲示板もびっくりな小さな情報までが入って来るのだ「○○家の○○ちゃんがバイトをはじめた」「教習学校に通っている」などのほか「○○ちゃんと○○ですれ違った」という目撃情報もある、田舎は監視カメラがなくても人の目があり、口々に伝わる。尾ひれがつきながら。

 私は、田舎のこういうところがあまり好きじゃない。「胸に秘めとけばイイのに」と思う。

「寺の孫娘」というのは確かである。父方の親族がお寺の住職だから、間違いはないのだけど「お寺」という言葉ワードはとても強く。「寺の孫娘だから、頭がイイだろう」「礼儀正しい」なんて、より一般人以上に品行方正ひんこうほうせいを求められてしまっているのが、より息苦しく思うことがある。


「富子ぉ!ゴハンよー!」

 とりあえず、腹が減っては戦は出来ぬというからご飯を食べることにする。

 別に戦なんてないけども。


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