異世界、ただいま
「落ち着いたか?」
「はい・・・」
ティアが泣き止んだので、早速異世界へ・・・
と、思ったのだが、よく考えたら俺はここ数日風呂に入ってないから臭いが少しついているはずだ。
少し休憩してからでもいいか・・・
「風呂に入ってから行くとするか・・・」
「お風呂ですか?」
「あぁ、じゃ入ってくる」
「なら私も・・・」
「そうか、先に入るか?」
「いえ、その、一緒に・・・」
「じゃ、俺が出るまで部屋で待機な」
即答して俺は風呂に向かう。
母さんが親指を立てて「お風呂は沸かしてあるわ!!」と言ってくる。
正直何を期待しているのは分からないが、沸かしてあるのはありがたい。
服を脱ぎ風呂場に入り身体と頭を洗い、湯船に浸かる。
誰かが来ても風呂場前で石ころに防壁を使わせているので侵入することは不可能である。
「ふぅ、ここにずっといたいけど魔王を倒さないといけないし、変な研究機関に誘拐されるし、異世界に行くしかないか・・・」
「そうですね・・・」
「みーしゃもいく!!」
「ありがとな、ティア、ミーシャ」
目の前で身体を洗っている二人に感謝の言葉を告げる。
・・・目の前で身体を洗っている?
「ぱぱ?」
「どうしました?アシュレイ様」
目に入る光景に俺は息を飲んだ。
十歳と言えど、一人の女の子である事は事実。
綺麗な白い肌、抱き締めたら壊れるんじゃないかと心配するほどの華奢な身体。
そして俺がヘタレと完全に認識されているのか知らないがとにかく無防備!!
羞恥心が無いのかこの子達は!!
俺が直視しているとティアが頬を赤らめる。
「あ、あのアシュレイ様、恥ずかしいです・・・」
「わ、悪い・・・」
ってか恥ずかしいなら一緒に入るなよ!!
「で、でもアシュレイ様には見られても・・・いいです」
「グハッ」
な、なんだこの破壊力は!!
ティア、恐ろしい子!!
あれ?そういえば・・・
「・・・防壁は?」
「壊しましたよ?」
「こわしたー」
「・・・」
「それよりアシュレイ様、お背中流しましょうか?」
この時、俺は感じた。
早急にこの場から逃げなくてはならない。
童貞の勘がそう告げいていた。
転移を使おうにもお湯も転移されるので水浸しになるのでダメ。
ティアとミーシャを転移させ・・・出来ない。
ティアとミーシャの場合、深まり合う絆でまた戻ってくるだろう。
それは魔力の無駄遣いでしかない。
つまりここで俺が取るべき行動は・・・
「タオル、とってくれないか?」
やり過ごす。
ミーシャがタオルを取ってくれたのでここからは簡単。
「じゃ、俺はそろそろ上がるから」
さも当然かのように逃げる。
完璧だ・・・
「アシュレイ様・・・一緒に入らないんですか?」
「・・・ティア」
「はい」
「あばよ!!」
バタンッ
逃!亡!成!功!
身体を拭き!!
服を着て!!
部屋に転移!!
「ふっ、完璧だ・・・」
部屋に辿り着くと自分の完璧さに思わず笑みをこぼす。
そして全く休憩にならない休憩を終えて、異世界に向かう準備をするのであった。
◆◇◆三十分後◆◇◆
ティアとミーシャも風呂を上がって準備を終える。
母さんと親父には【異世界行きます、探さないでください】と言う書き置きを置いていく。
「さて、行くか!!」
「はい!!」
「うん!!」
俺は転移を使い、王の間に飛ぶように魔法陣を開く。
そして俺達は光に包まれていく・・・
◆◇◆王の間◆◇◆
光が収まり目を開ける。
すると王の間に無事到着したようで、玉座が目の前にあった。
「着いたか」
「そうですね、でも何か様子がおかしくないですか?」
「くらーい」
確かに何かおかしい。
灯りがなく、停電かと思えば人の気配がしない。
停電の場合、普通予備電源が入るまで声を掛けあってお互いに位置を確認すると思うだが・・・
「とりあえず、【LEDライト】を行使」
石ころが光を放ち、周りを見易くしてくれる。
「・・・なんだこれ」
LEDライトで照らされたのは所々が壊れていたり崩れそうな状態になっている城内だった。
明らかに何かがあった。
それだけは分かる。
そして俺にはその心当たりがあった。
「この時期だと・・・カズヨシの襲撃か?」
そう、クラスメイトのカズヨシが魔族になり王都を襲撃したのだ。
ちょうどそのぐらい時間が経っていると思う。
だとすると皆はどこへ?
「ぱぱー、まものさん」
「はいはい、魔物さんね・・・魔物さん?」
王の間の入り口にとんでもない数の魔物が集まっている。
軽く百は超えているだろう。
もしかしてタイムリープ前の魔物全部また倒さなきゃなんないの?
「・・・マジかよ、でもあの時は夕方で終わったし異能軍よりは簡単に終わるだろ」
俺は石ころを飛ばし、魔物を五体ほどまとめて貫く。
やはり以前よりレベルが上がってるから簡単に終わりそうだ。
「じゃあ、行くか」
「そうですね」
「うん!!」
魔物の死骸の中を進んで行く。
俺はスマホで魔物を索敵しながら見つけ次第、石ころで瞬殺している。
なので魔物と会うことは一度も無く王城の外に出た。
外に出ると俺の予想が当たっていることに気付く。
「やっぱり・・・襲撃か」
「アシュレイ様!!街が壊れてます!!」
「わー、くらーい」
街は破壊されており道に建物の残骸のような物が崩れ落ちており、燃えたのだろうと推測される炭だらけの家もある。
「とりあえず、街を出るぞ」
街にはまだ魔物がいる。
魔王軍の配下と考えると、街の外の魔物の方がずっと弱い。
それなら安全確保の為、街を出た方がいいだろう。
「ティア、王都が襲撃されたらどこに避難するんだ?」
「えっと、魔法都市グランドだと思います、あそこなら治安も良くて今まで幾度と無く魔王軍を撃退したそうですから」
「どっちの方角か分かるか?」
「はい、今進んでる道を真っ直ぐ行けば三日ぐらいで着くと思います!!」
「思いますって行ったことないのか?」
「いえ、行った事はあるのですが、歩きでは一ヶ月ほどなのでそのぐらいかと・・・」
「あー、俊敏力が高くなったもんな・・・」
今は、他の奴に合流する事が最優先だ。
戦力は重要だからな。
異能軍相手では全員がレベル一だから倒せたが、魔王軍はそうはいかないだろう。
その為にも他の勇者の協力が必要だ。
魔王軍もおそらく勇者の存在が邪魔だろうし、レベルが低い内に倒したいはずだ。
できれば急ぎたいな・・・
「それとアシュレイ様、歩きでも1週間ほどで着くルートがあるのですが・・・」
「ん?そうなのか?でもその言い方だと危険だったりするのか?」
歩きで一ヶ月の道と歩きで1週間の道。
誰だって近い方を選ぶはずだ。
けれどティアは以前一ヶ月かけて行ったらしい。
そこまで時間をかけるほどの理由が何かあるのだろう。
「その道はベテランの兵士さんでも強い魔物が生息してる森があるんです」
「でも、その道を紹介するって事は俺のレベルなら大丈夫って事か?」
「はい!!アシュレイ様なら全然大丈夫です!!」
キラキラした目で見てくるぐらいだし、これは森に入った方がいいのか?
そんな事を考えながら、歩いて行くと王都の出口が見えてくる。
関所があったのだろうが今は見る影もなく、門は壊され壁が崩れている所も多々見られた。
「じゃあ、早めに着きたいしかけっこでもやるか?」
「うん!!」
「手加減お願いしますね・・・、私足遅いので・・・」
ティアはそう言っているが、おそらく気付いていないのだろう。
ティアの俊敏力もAだという事に・・・
「じゃ、スター「わーい」」
ミーシャが「スター」しか言っていないのにも関わらず駆け抜ける。
にしてもアイツ速すぎだろ・・・
俺とティアはミーシャを追うようにして、走っていく。
ティアも最初は自信なさげだったのに、自分の俊敏力が上がっていることに気付き、嬉しそうだった。
そうして森に入っていく俺達であった・・・