最弱の勇者
愚者の書を手に入れてから俺は魔導書について学んだ。
魔法と魔導書は少し違うらしい。
魔法とは持って生まれた才能で発動し、力も様々らしい。
魔法は使うほど強くなるが成長限界もある。
例外は勿論ある。
それは俺の石ころ、つまり勇者の力だ。
コイツは喰った物を覚える。
下手したら全属性覚えられる。
まぁ、そんな話は置いといて・・・
魔導書とは魔法の才能が無い人間が創り出した物だ。
魔導書の中には魔法が使えない人間が魔法を行使させる事が出来る方法が刻まれている・・・らしい。
普通の魔導書、それには魔法陣が描かれており使いたい魔法陣を頭に思い浮かべると魔力がその魔法に変わるらしい・・・
「しかしこの愚者の書は・・・」
ガチャ
扉が開かれ部屋に入ってきたのは青いロングヘアのミーシャと同じくらいの年齢の女の子だ。
格好は清潔感を漂わせる白をメインにした何ともお洒落の要素が無い服だ。
この女の子の名前はティア。
拷問室を出る時に唯一治癒魔法を掛けてくれた見習いの女の子。
そして俺の世話役になってくれている。
「おはようございます、アシュレイ様、ご機嫌はどうですか?」
「あぁ、大丈夫だよ、でも俺の世話役なんて止めたかったら止めていいんだよ?昨日も大変だっただろ?」
そう、俺は昨日身体が動かない悔しさで怒り狂い、もう死にたいと思い石ころで身体をズタズタに壊した。
そこへ入ってきたティアが俺に治癒魔法を掛けて一生懸命落ち着かせようとしてくれた。
「いえ・・・貴方の身体がこうなったのは私達の責任です。貴方の現状を知ったシンゴ様も・・・」
「行方を眩ましたんだよな・・・」
そう、先生は勇者として活動していたが俺の現状を聞いた途端、生徒をまた守れなかったなんて教師失格だ、とか言ってどこかに行ったっきり帰ってこないらしい。
「この国はどうなるんだ?」
「唯一活動出来るシンゴ様を失った今、市民の方々の暴動も各地で起こり、軍の士気も下がっています・・・」
「・・・そうか」
つまり遠回しでこのままだと国は終わると言いたいんだな。
「では、治癒魔法を掛けますね」
「あぁ、ありがとう」
ティアは俺に治癒魔法を掛ける。
何故、他のベテランの治癒魔法師を呼ばないのか?
それは魔力と相性が良いかららしい。
聞いたところによると魔力の相性のよって治癒魔法は効果が変わると言われている。
ティアと俺の場合はその効果が高く、回復量も多く、その後も常時回復されるらしい。
逆にアンデッド系の魔物に治癒魔法を使うとダメージが入るのだと言う。
「はい、終わりましたよ」
「ありがとう・・・」
「それで愚者の書の事は何か分かったんですか?」
「いや、相変わらず白紙のページだよ」
そう、愚者の書には魔法陣が描かれておらず、白紙なのだ。
しかし、一つだけ魔法陣が描かれていたページがあった。
それは一ページ目だ。
けれどこの魔法陣の内容が読み取れる人間が誰もおらず、どの魔導書にも存在しない魔法陣だった。
この魔法陣の正体が分かるまで危険なので使う事はしていない。
ミーシャは何してるのかな。
俺のことを忘れてしまったって言うから魔導師達が必死に戻す方法を探してるって言うけど・・・
でも、俺は分かる。
ミーシャの記憶が戻ったとしてもこの国は終わってみんな死ぬんだ。
何故か?勇者である先生が消えた。
レベル一で魔族を倒したと言われる大物が消えたんだ。
遅かれ早かれ魔族が攻め入ってこの国は終わる。
けれどその前にしなくちゃいけない事があるな・・・
「・・・ティア」
「なんでしょう?」
「俺の身体はもう動かないんだろ?だったらさ、ティアは頑張らなくていいぞ」
「・・・え?」
俺の突然の提案に言葉を失うティア。
そう、俺のやるべき事は出来るだけ周りの人間を助ける事。
勇者として召喚されたのに、こんなんじゃ迷惑しか掛けてない。
「先生と言う魔王への脅威が行方不明になったんだ、だとしたら魔王軍はすぐにでもこの国を潰す、動けもしない俺は邪魔でしかない
、だから魔王軍が来る前に俺を捨ててこの国から逃げた方がいい、ティアはまだ若いだろ?それに王様だって気付いてるはずだ」
「じゃ、邪魔なんかでは」
邪魔では無いと言おうとしたティアに被せるように苦笑いしながら言った。
「人を助ける勇者っぽい事をさせてくれよ」
「し、しかし見捨てるなど・・・」
「ティア、今は戦争中だ、何千何万もの兵士が死ぬ、俺一人死んでもあまり変わらないだろ?」
「けれど勇者の力は一人で何千もの人を救えます・・・そんなに自分を卑下しないでください・・・」
「俺のギフトはそこまで強い力じゃなかったみたいなんだ、だから救えるのは精々五、六人かな?ティアにはその五、六人の一人になって欲しいんだよ」
「で、でもアシュレイ様は」
ドゴオオオオオオオオオオン!!
その言葉を言い終える前に、街の方から大きな音が響いた。
窓から街の方を見ると、国の門が破壊されてる。
そこからウジャウジャと魔物が入ってくるのが見えた。
おそらくこれは・・・
『こんちゃーっす魔族でーす、今は君たち人類に念話で話しかけてるよー』
頭にアナウンスのようなものが響く、君たち人類に・・・と言う事は人間全員に話しかけているのだろう。
『これからこの国落としますね〜』
その言葉を聞き終えると、街の方から悲鳴が上がる。
市民の人達が・・・殺されているのか。
ドンッ!!
部屋の扉が強引に開かれる。
その扉から入ってきたのは・・・
「グルルルルルッ」
魔物だった。
何種類もの魔物が部屋に入ろうとする。
それを見てティアは・・・
「ひっ!!ま、魔物!?アシュレイ様・・・ごめんなさい、私が先に死ぬ事を許してくださいね」
ティアは護身用だろうか?ナイフを取り出し、魔物の方へ向いた。
少しでも俺を生き長らえさせようとしてるのか・・・
・・・でも。
「グルルルル、!?」
「俺は最弱の勇者だが・・・目の前で死のうとしてる子を見捨てるわけないよなぁ!!」
石ころで魔物の頭を打ち抜く。
「念動力舐めんな!!最弱の意地見せてやるよ!!」
次々と石ころで魔物の頭を破壊していく。
「ア、アシュレイ様!?」
「【召喚】を行使!!ミーシャをここへ!!」
召喚でミーシャを呼び出す。
記憶が無くても救うだけは救う!!
そしてミーシャが出て来る・・・
ミーシャは・・・満身創痍だった。
「ここ、どこ?ケホッ」
「ティア!!治癒魔法を頼む!!」
「は、はい!!」
次々と出て来る魔物を倒していく・・・
石ころが何度か進化したようだが、そんなの関係ねぇ。
今はコイツらを救う!!
「【毒属性】を行使!!【ファイヤII】を行使!!」
敵が集まっている所に毒属性付きのファイヤIIを使う。
そうして何度も倒していく。
「ここら辺にはもう居ないか・・・そ、そうだ!!他の奴らはどこへ・・・」
「アシュレイ様、無理はしないでください・・・」
「あぁ、分かっているよ・・・」
「あしゅれい?」
「ミーシャ・・・やっぱり忘れてるか・・・」
ミーシャはやはり、俺の事を完全に忘れているようだ・・・
「しかし、この石ころで映像が見えたら・・・」
そういった瞬間、スマホの通知音が部屋に響く。
スマホをティアにもって来てもらうと、スマホには石ころから見える光景だろうか?
その様子がスマホに映っていた。
上には【映像化】と書いてある。
「そうか、さっきの進化で・・・よし、これを使うしかないな・・・」
石ころを捜索に行かせる。
石ころには丁寧にGPSの能力もあった。
地図は常に更新させるらしく、道が壊されているのが分かる。
生命反応も探知する能力も手に入れたらしい。
どれもこれも単体だと微妙なスキルだが合わせれば・・・
「強いな」
王城を周り魔物を倒していく。
それぞれ強い魔物もいたが、それは毒属性とファイヤIIで対処ができた。
そして、勇者達の部屋に着いた・・・
部屋には内側から鍵を掛けているらしく、開かない。
しょうが無いので扉をぶち抜く。
『ぎゃぁ!!』
『もう、こんなの嫌だ・・・』
『俺達は戦う気なんてない!!だから!!』
どうやら、魔王軍と間違えているようだ。
これは誤解を解かないとな・・・
「落ち着け、俺は君達を避難させに来た」
スマホに呼びかけると声が【ボイスレコーダー】で届いたらしい。
『きゅ、救助隊!?この石ころが!?』
『は、早く連れてって!!』
『助かったのか?と言うか何故石ころ?』
「俺の本体は別の所にある、石ころで護衛するから王都を脱出しるんだ」
『石ころで!?ふざけてるのか!!』
『姿を見せなさいよ!!』
『み、みんな落ち着いて!!う、うわぁ!!』
生命反応が後ろにある。
魔物か・・・
石ころで魔物の頭を簡単に打ち抜く。
するとその光景で効果があったのか・・・
『す、すげぇ・・・』
『つ、強い・・・』
『これなら抜け出せるかも・・・』
「これから武器を作る、護身用に持っておけ」
鍛冶で剣を人数分創り、クラスメイトに渡す。
そして石ころで案内していく。
「ティア、ミーシャ、お前達も王都を抜けろ」
「・・・え?アシュレイ様?」
「俺はここに残って魔物を一匹でも殺す」
「そ、そんな、それではアシュレイ様は・・・」
「俺の身体を背負えるか?俺は身体の骨が折れまくってティアの治癒魔法が無ければ生きていけない最弱勇者だぞ?」
「で、でも!!」
「行ってくれ」
「・・・はい」
ティアはミーシャと部屋を出る。
地図は頭に入ってるらしく、真っ直ぐ出口に向かっている。
『なぁあんた』
クラスメイトの一人が石ころを通して話しかける。
どうやら王城は無事に出れたようだ。
市街地の魔物も頭を打ち抜いている。
「あんたじゃない、アシュレイだ」
『じゃあアシュレイ、あんた今何処にいる』
「いいから、王都抜けろよお前」
『教えてくれ』
「・・・まだ、王城の中だ」
『・・・俺はあんたを助けたい』
「気持ちだけ受け取っておこう、悪いが俺は身体の骨が機能しないんだ、立つことも出来ない、だから諦めろ」
「・・・そうか」
市街地の魔物を殺しながら進んで行くと市民が何名かいたので着いてくるように言った。
その頃にはティアとミーシャも合流していた。
そして何万体目の魔物か覚えてないぐらいの数を殺した頃には夕方になっていた。
街の魔王軍はほとんど死んだ。
そして街の外に出ようとした時・・・
『おぉ、皆ぁ、生きてたんだねぇ』
魔族が現れた・・・
しかし、その魔族は普通の魔族とは違うのがすぐに分かった・・・
その魔族は・・・
「カズヨシ・・・か」
『なんだい?この石ころ』
「【水圧】を行使!!」
『わぷっ!!なんだこの水!?』
【毒属性】が進化して【猛毒属性】に変わったので強くなっているはずだ・・・
『全く・・・なんだいこれ、猛毒があるみたいだけど・・・』
「・・・なんだと?」
『僕ね、効かないんだ〜でも、君本体が別の所にあるみたいだね・・・ちょっと面倒だな〜』
コイツは・・・ヤバい。
明らかにオネェとは違う。
それに本体が別にある事を戦闘中にも関わらず、考えるという余裕。
『ちょっとまってて、今行くから』
そして飛んでもないスピードで王城に向かっている。
このスピード・・・石ころでも追い付けない!?
そして石ころで追うが、周りに魔物が集まってきた。
コイツらを助けないと・・・
俺の命よりコイツらの命だ!!
『お、おいアシュレイ!!大丈夫なのか!?』
「いや、そろそろ、死ぬな」
『アシュレイ様!!嫌です!!隠れて下さい!!』
「いやいや、無理だろ」
そう、無理なのだ。
何故なら・・・
「ここにいたんだな」
「ようやく来たか、カズヨシ」
もう見つかっているんだから。
気が付いたら文字数が(;゜Д゜)




