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意思を持った本

目が覚めるとそこはベッドの上だった。


「あれ、ここは?あ、あ、ああああああああああああああああああああ!!」


身体中に激痛が走る。

身体が焼けるようだ。

痛い、痛い、痛い、痛い。

骨を折られた部分に痛みが走る。

おそらく身体が冷えてないからだろう。


「どうなされました!?」

「あがぁ!!骨がぁ!!骨がぁ!!」

「だ、誰か治癒魔法師を呼んできて!!」


数分後、治癒魔法師と思われる人達が何人も入って来て治癒を行う。

治癒魔法が行われる間は痛みが無いが治癒魔法が終わった途端、痛みが戻りまた叫ぶ。

何人も入って来て交代で治癒魔法を掛けられる。


「俺も魔力がキレそうだ!!」

「ティアを呼んでこい!!アイツの魔力は相性がいいらしい!!」

「はい!!」


しばらくして気絶する前に俺に治癒魔法を掛けようとしてくれていた女の子が来た。


「ティア!!」

「は、はい!!」


ティアと呼ばれた女の子が俺の身体に触れて魔法を使うと、身体の痛みがスーッと抜ける。

何だか楽になった気がする。

治癒が終わっても痛みは戻ってこず、何の苦痛も無くなっていた。


「大丈夫でしたか?」

「あ、あぁ、ありがとう・・・」


起き上がろうとするが、体が動かない。


「あれ?身体が・・・」


特に縛られてる訳でもないのに何故?

その様子を見た周りの人が憐れなものを見るような目で見てくる。


「貴方の身体は・・・損傷が激しく・・・もう動かないのです。治癒を施しましたが治ったのは外面だけで・・・」


誰かがそう言った。


「・・・え?」

「骨も治したのですが、根本的な所がダメになっていまして・・・貴方はもう二度と立つことが出来ない身体に・・・」

「・・・は?え、いや、冗談だろ?」

「・・・」


部屋は沈黙に支配される。

どうやら本当らしい・・

俺はこれからどうやって生きていけば・・・

そ、そうだ!!ミーシャはどこに?

ミーシャがいればいつだって何だって出来る気がするから、もしかしたらミーシャのチートでどうにか・・・


「あ、あの、ミーシャは・・・」

「ミーシャ様は貴方が拷問室に入った日に別室で洗脳を解くために記憶操作で・・・」

「え?」

「あなたの事を忘れさせました・・・」

「せっ、洗脳なんて俺は・・・」

「・・・はい、記憶操作を行った者もその様な形跡がないと言っていましたが勇者の力だから隠されているのだろう・・・と言って・・・」


ミーシャが・・・俺を忘れた?

そんな訳ない。

だって、ミーシャは俺の事が好きだって・・・

それなのに・・・なんで?

そ、そうだ!!スマホでミーシャのアプリでどうにか・・・


「俺のスマホは・・・」

「こ、こちらです」


スマホが丁寧に保管されているらしく、献上品のよう台に乗せられている。

俺は渡されたスマホを指で掴もうとする。

しかし・・・


「動かない・・・なんで、なんで動かないんだよ・・・!!」


動いたところで爪が剥がれているので物を掴むことさえできない。

その様子を見て治癒魔法師達はただ黙ることしかできなかった。


「なんでこんな事になったんだよ・・・俺はただ依頼を受けようと・・・」


俺は自然と涙を流していた。


ガチャッ


部屋の扉が開かれる。

扉を開けて入ってきたのはあの時、俺を拷問室から助けてくれた王様だった。


「・・・目覚めたか」

「あんたは・・・」

「ワシはこの国の王、ロード・レガリアじゃ、君は・・・勇者達を知っているな?」

「・・・俺の、クラスメイトです」

「そうか・・・まず、言わせてくれ」

「・・・」

「すまなかった・・・」


王様は頭を深々と下げる。

俺はそんな王様を黙って見つめる。


「騎士団長のライラは処罰を与えておく・・・だから」

「処罰なんていらない」

「・・・で、では何を求める」

「・・・返してくれ」

「返す?」

「爪、肩の骨、腕の骨、指の骨、足の骨、時間、日常、この先の人生・・・そして、ミーシャとの思い出、全部、全部、全部返せ、返してくれ・・・頼むから、返してくれよ」


泣きながら、息が詰まりそうになりながら言った。

こんな願いが叶うわけがない。

それでも言いたかった・・・

言いたかったんだよ・・・


「返せよ・・・俺は立つことも、物を掴むことも、何もかも出来なくなった。俺は何かしたのか?依頼を受けて、報酬を貰って、宿屋で美味しい料理を食べて、ミーシャとただ毎日を過ごしたかった・・・それだけなのに、それだけなのに・・・」

「返せない・・・が、一つ方法があるかもしれん」


王様は一冊の本を何処からか取り出した。

何の本か表紙を見ても謎の文字が並べられてあるだけで全くわからない。

この世界の文字は全て読み書きが加護で出来るはずだが・・・


「これは愚者の書と呼ばれている魔導書じゃ」

「魔導書・・・?」

「能力は・・・【可能性】」

「可能、性」


周りの治癒魔法師がザワついている。


「愚者の書!?国宝じゃないか!!」

「王様は何をさせようと・・・」

「しかしあの魔導書は・・・」


王様は俺の目の前に魔導書を置いた。


「この魔導書は普通の魔導書ではない、所有者を選ぶのだ」

「選ぶ?」

「愚者の書には意思があると思っていい、所有者と認めない者にはページを開かせない。しかし、所有者が触れると・・・」


王様は俺の腕を持ち、愚者の書に置かせた。

すると・・・


パラッ


腕が俺の意思とは別に勝手に動き出した。

そして一ページ目を開いたのであった。


「これは・・・」

「やはり、所有者として認められたか」

「どうして、俺だと?」

「宝物庫にあるはずの愚者の書がワシに渡せと言わんばかりに手元に現れたのだ」

「そう、か」


意思を持った本、愚者の書。

能力は【可能性】。


「そうだ、王様一つ聞きたい」

「・・・なんだ?」

「この本で俺の全てが取り戻せなかったら・・・あの女を殺してくれ」

「・・・覚えておこう」


俺はその日、魔導書で全てを取り戻すと決めた。

作者の一言


どうしてこうなった・・・

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