序章ー6
『あ、お母さん?伸郎だけど。今週、K大学まで行ってきたんだ。今透析をT病院でしてるんだけど、かなりきつくなってきて、医者も移植がいいんじゃないか?って提案があったんだよ。移植すると、時間的な制限もないし、すごく楽になるらしいんだ。K大学は移植の担当部長から話を聴いたんだけど。実績もあるし、史郎のことを話したら《弟さんが一番いい》って話なんだよね。お母さんとか、お父さんからもらうのはちょっと年齢的にも難しいし出来ないからさ。史郎にこっちまできてもらって、クロスマッチの検査を受けてほしいんだ。』
『そう。。。今、史郎から聞いたけど。。。私はわからんよ。』
『大丈夫だよ』
伸郎は必至の気持ちを抑えつつ、安全だということを前面に話してきた。
『それに、俺はまだ、子供を養っていかないといけないしさ。史郎はまだ独身だし。』
『私はなんとも言えない。』
史郎は、話の空気を感じて
『もういいよ。』
ふと、史郎の中で、疎外感があったのだろうか。
携帯を母親から頂戴という仕草をして携帯を返してもらった。
そして
『ごめん。今、ごはんだから。』
と携帯を切ってしまった。
ご飯を食べつつ、母に聞いてみた。
『話はわかった?』
『うん。』
『どう思う?なんかさ、俺のこと考えてないような感じなんだ。自分が助かりたいのはわかるけど、
色々な方法があるはずだから、それをなんていうか。そこから選択できないのかな?』
『私にはわからん。』
母親は、二人の子供を産んで育てた立場だ。
愛情も同等だろう、自分の責任だろうと考え自分を責めつつあった。
しかし
家族をもつ親として、元気でいたいという想いも理解できる。自分にはどうしようもできない出来事が
始まったことに収拾がつかない様子だった。
(どうすればいいんだろう。伸郎の運命なんだろうか。。。それにしてはあまりにも酷すぎる。。。)
目の前の史郎を見ながら考えていた。