序章ー5
『ただいま』
帰宅すると同時にどっと疲れが出てきた。
『おかえりなさい。ご飯は?』
母が気遣うように言葉をかけてくる。
『さっき、お兄ちゃんから電話があってね。透析中の治療を変更して移植したいって電話があったよ。』
最初に言った方が楽だろうと考えたので、即座に話した。
『ふ~ん』
母のリアクションはあっけなく、実に素っ気無いものだった。
『ご飯は?』
母の中では、移植よりも腎臓か!
気づいているんだろうが。。。
『お父さんは?』
『寝てるよ。早くご飯食べて。片付けが終わらないから。自分の部屋で食べる?どこで食べるの?』
食事のこと、家事家業のことで頭がいっぱいなのだろうか。。。
仕事の話もして置きたいけど。。。
取り敢えず
『自分の部屋で食べるよ。少しね』
と答えておく
こんな状態はどうも、食欲ないな~
風呂から上がり、部屋に戻ると、食事の用意がしてある。
『ありがとう。ちょっと話があるんだけど。いい?』
『何?忙しいんだから。』
『あのさ、お兄ちゃんから電話があって、透析だとかなりきついらしい。大学病院の先生から、移植を勧められたそうだよ。難しいって。』
『ふ~ん。』
『俺の腎臓がベストマッチの対象になるみたいで、俺の腎臓が欲しいって』
『え???であんたはどうなの?』
『嫌。だって、そんな簡単に電話でできる話じゃないよ。お母さんも電話して聞いてみて。家のこともあるし。お父さんの考えも聞きたいよ。』
『あんたが電話して』
食べながら、携帯で電話してみる。
『あ、お兄ちゃん?今家なんだけどね。お母さんにさっきのこと少し話したよ。電話変わるよ。』
『あ、伸郎?』
『うん。』
母の声は不安一色だった。それもそうだろう、10年前はガンの手術を行い、改めて今度は腎臓か。。。
自分の子供に対する申し訳なさで一杯なのだろう。
伸郎は光が見えたのか、声に張りがあり、何かと明るかった。